Interview

東北楽天ゴールデンイーグルス 藤田 一也選手「常識を疑いながら鉄壁の守備を築き上げた独自の守備論」

2015.02.10

常識を疑いながら築き上げた藤田 一也の独自の守備論

 現在の日本のプロ野球界で最も守備が上手いセカンドとして注目される東北楽天ゴールデンイーグルスの藤田 一也。華麗な守備で、次々とアウトを演出し、闘将・星野 仙一元監督が「藤田の守備はシーズンで10勝以上の価値があった」と評するほど。プロで生きるために考え抜いた藤田選手の独自の守備論に迫った。

キャッチボールが出来てこそ応用練習に取り組める

 まず藤田選手が大事にするのはキャッチボール。鉄則ともいっていいが、藤田選手はここからしっかりしないと守備どころか野球が上手くならない、という考えだ。

「キャッチボールは肩慣らしのイメージがありますが、そうではなくて、守備が上手くなりたいと思いながら、実戦を意識してやることが大事です。基本のように思われますが、実は一番難しいこと。僕もキャッチボールが出来るようになってから、いろいろなことを考えることができました」

 しかしキャッチボールがあまりできない選手については何から始めれば良いのか。

藤田 一也選手
(東北楽天ゴールデンイーグルス)

「やっぱりフォームを意識することですね。キャッチボールは投げるコツをつかむ作業です。まずはしっかりと胸元に投げるコントロールを身につける練習をすることが必要ですが、どうすればコントロールできるかを考えながら投げていくと、この位置でリリースすれば、このコースにいくなどがわかってきます。フォームで意識することは下半身を使って投げること。重心移動を行うときに、右足にしっかりと体重を乗せること。それが出来るようになれば、遊びを取り入れていいでしょう。山なりのボールや、速く投げたり、低い軌道で投げるなど。

 また内野手はボールを握れないことがあるので、わざと握れない状態から投げたり、下が使えない状況もあるので、わざと下を使わずに、上半身のみで投げる練習をしたりと。そういうキャッチボールは大学時代から行っていることです。しっかりとしたキャッチボールが出来たら、試合で起こりうるプレーを想定して楽しんでやってほしいですね」

 高校生にとっては藤田選手が行っている「遊び」をしたくなるが、これはあくまで応用。基本的な投げ方が出来なければ、そういう事も出来ないのだ。ベースになるフォームが出来上がってから、いろいろ遊びが出来るというのが藤田選手の考えである。藤田選手は自分の型を見つけることの重要性を語った。

「野球では正解が1つだけではない。汚い形でもアウトはアウト。綺麗な形でもエラーすれば、エラーなんです。だからこそどれだけ早く自分の形を見つけれるか。どんな取り方、投げ方をしてもアウトはアウトです。それは難しいので、いろいろ言われますが、自分の形を見つけて上手くなるのが近道かなと思います」

 野球界は型にこだわる傾向が強い。だがそれはアウトにしやすい、アウトにできるよう速く投げられるために諸先輩が考え抜いた基本で、それが今でも伝わっている。ただその基本がすべての選手に当て嵌まるとは限らないのが、野球の難しさでもあり、面白さである。藤田選手は基本を大事にしながら、独自の動きを編み出す。

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[page_break:独自の考えが見えるスローイング、グラブ捌き、守備時の構え]

独自の考えが見えるスローイング、グラブ捌き、守備時の構え

藤田 一也選手
(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 藤田選手のスローイングを見ると、リリースに入っても、投げたい方向に左ひじが向いたままで投げている。投手の動きを想像していただければ分かると思うが、通常は左腕を伸ばした後、左胸に抱え込む動作をする。その動きと比べれば、異質なスローイングともいっていいが、それにはどんな意図が込められているのか。

「投げる方向に肘を向けないと、コントロールが出来ない。普通の投げ方だと、窮屈で投げにくかったんですよね。ただこれは僕の感覚なので」

 左胸に抱え込む投げ方は窮屈な投げ方になると考えた藤田選手は、投げた後でも、左ひじが投げた方向に向く投げ方に変えたのだ。それと同時に体も開き、コントロールも良くなった。藤田選手は投げやすいスローイングを考えた結果、この左ひじの使い方にたどり着いたのだろう。この発想は実戦を意識したキャッチボールを行わなければ出ないものである。

 グラブ捌きも独自の考えだった。普通はグラブを立てて、右手からかぶせるように捕球することを教えられるが、藤田選手はグラブを立てない。理由は「手首がロックされてしまうから」だ。
藤田選手が考えたのは、グラブを立てることを考えずに、普通に守ることだ。そして捕球するときに肘を引くこと。すると自然にグラブが立つのだ。

「これを『ハンドリング』といいます。最初からグラブを立てることをハンドリングとはいえません。立てたら肩の力が入ってしまうので、ガチガチで、イレギュラーにも対応が出来ません。肘を引くことでグラブが自然に立つので、そう見えるから、グラブを立てることを教えているのかもしれません。いかにして左手を楽にさせることができるか。そして右手は横に置くことで、守りやすくなります」

 藤田選手も元々はグラブを立てて、右手でかぶせて捕る選手だった。だが、高校時代に右手を突き指して、その捕球の仕方はやめて今の捕球の仕方にしたところ、楽に守れて、かなり動けることに気付いた。また構える時の意識はなるべく低く、腰高ではいけないといわれるが、藤田選手は腰高だ。

「自分は手足が長いので、低くできないんです。適切な位置は体型によって異なります。低い構えからロスなく出来る選手もいますが、腰高になる選手が低く構えても、捕球から送球動作をすると、どうしてもロスが生じやすいですし、無駄なんです。僕の場合、今の位置が一番、送球動作に入りやすい。もちろん高すぎてもいけないのですが、とにかく構えを低く意識するのではなく、いかに捕ってからすぐに投げられるかを意識すること。自分に適した足の幅、腰の高さを見つけてほしいですね」

 スローイング、グラブ捌き、構え方はすべて藤田選手独自の技術である。その根底にあるのは「いかに早くアウトにできるか、いかに自分にとって守りやすい動きができるか」の2つだろう。そういう思考でいけば、その選手なりのオリジナルの守備技術が出来上がってくる。

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ポジショニングのコツとグラブのこだわり

 さすが2年連続ゴールデングラブ賞、二遊間の選手が聞いたらすぐに実践したくなるような言葉ばかりである。ここで藤田選手にグラブのこだわりについて語ってもらった。
「もともと僕のグラブは小さめですね。自分の手に合ったグラブを使っているので、他の選手よりも小さいと思います」

藤田 一也選手
(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 藤田選手が新人の頃、藤田選手の先輩である石井 琢朗氏からもらった。そのグラブをモデルにして、年々、自分が使いやすいものに改良していった。特徴的なのは、薬指のところに指入れがあること。そして中指と人差し指の間に幅を持たせているのは、横を広くして使いたい狙いがある。藤田選手の守備技術を支える作りとなっているのだ。

 そして藤田選手の綿密なポジショニングにも伺ってみよう。藤田選手はどういう考えでポジショニングを行っているのか。

「データが揃うプロと違って、高校生はあまり対戦機会がないので難しいですが、それでも実戦から情報を拾って、ポジショニングは考えられます。まず僕は足の速さを考えて、一歩前にしたり、後ろにしたりしています。次に打者のタイプとスイング軌道を考えます。このスイング軌道だったら、速い球ならこの方向に行きやすい、遅い球だったら引っかけてセンター前に行きやすいなど。また初球のスイングを見て、自分のところへ飛ぶだろう、というのが感覚的に分かります。経験則に頼るところはありますが、そういうことを考えながら、守備位置を考えるのがポジショニングです」

 そして守備はメンタルの部分も関わる。藤田選手が大事にしていることとは。

「毎日試合があるので、今日の失敗を明日に引きずらないために切り替えるようにしていますが、高校生は一発勝負なので、なかなか難しいですね。でも大事なのは、練習では自分が一番下手、試合では一番うまいという気持ちを持つことだと思います。
練習は嘘をつかないと思います。僕は守備がずっと好きだったから上手くなりました。これだけ練習したんだからエラーするわけがない、これだけ練習したんだから打てないわけがない、と思えるぐらいまで練習することが大事だと思います」

 その考えは今年から東北楽天の監督になった大久保 博元監督にも共通するものがあるようだ。

「打てたのはお前が練習をしているから、打てなかったのはどこかで気を抜いている、1スイングをさぼっている、と語っていました。本当にそうだと思いますし、ただこなすだけではダメ、『上手くなりたい』という目的意識が明確にあることによって実のある練習になってきます。やる気のない100スイングより、やる気のある10スイングができたほうが全然いいと思います」
と、常に実戦を意識した練習が大事だと語った。

 ここまで振り返ると藤田選手が守備について語る言葉はどれも的確で、守備同様、まさに無駄がなかった。これほどシンプルで明確に説明できるのは、自分が何をしたいのか、目的化されているからだろう。方向性を見失わないからこそ、常に安定した守備を築き上げているのだ。

 ぜひ二遊間を守る選手は「守りやすく、早くアウトに出来る型」を見つけ出し、監督やチームメイトに信頼される選手になる一歩を踏み出してほしい。

(インタビュー・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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