福岡ソフトバンクホークス 内川 聖一選手(大分工業高出身) 【前編】
2014年は、7年連続の打率3割。さらに、1500安打も達成した球界屈指の巧打者・内川 聖一選手。なぜ毎年、高い成績を残すことが出来るのだろうか。
今回は内川選手に、バッティングに関するお話から、マインドまでたっぷりとお話を伺いました!まず前編では、野球界で語られる打撃の概念を覆すような、独自の打撃論をお届けします。
【内川 聖一選手の2012年インタビューも合わせてチェック!】
■第116回 福岡ソフトバンクホークス 内川 聖一 選手 (前編)
■第117回 福岡ソフトバンクホークス 内川 聖一 選手 (後編)
ボールを長く見ることで、つまった時の対応もできる
内川 聖一選手(福岡ソフトバンクホークス)
――まずは、内川選手に打撃に関する考え方などをお伺いしていきたいと思います。内川選手が、バッティング時のタイミングの取り方でポイントにしていることはどんなことでしょうか?
内川 僕は、早めにタイミングを取るようにしています。早めに取って、“見て打つ”。
もっというと、バットを後ろに引いて、ボールを見ますよね。そのあと、ボールのどこにバットを入れるのかまで見ています。
単純にボールを一生懸命打つこともそうですけど、野球って道具を使わないといけないスポーツなので、道具をどういうふうに使うのかということを考えると自分の身体の動きが決まってくるんです。
自分自身が、きたボールに対して、どういうバッティングをしたいのかというのが決まっていれば、バットをボールに対してどう入れたら、どういう打球が飛ぶのか、ということを考えてみるといいと思います。
――“道具をどう使うか”ですか。
内川 そうなんです。野球って、矛盾がいっぱいあって、ボールとバットって丸いものと丸いものじゃないですか。『ゴロを打て』というと、野球の指導者のかたは『上から打て』というでしょ。でも、丸いものと丸いものが当たるときに上から打ってしまうと、上にしか行かないと思うんですよね。
接地面が丸いと、下に打ったらボールって自然と上にあがっていきます。だから、ゴロを打たないといけないときほど、下から打ったほうがゴロになりやすい。僕は普段から、そういうことばっかりしか考えていないんですけど(笑)。
軟式ボールになってくるとまた違いますけど、堅いものと丸いものが当たれば上にしかいかないはずなんです。だから、上に打ちたい時ほど、ボールの下にバットを当てる。
――だからこそ、冒頭の見て打つというワードが最初に出てきたんですね。
内川 とにかく“長く見ること”は大切にしています。長く見て、つまった時にどうするかも考えるようにしていますね。
つまり方もあるんですが、良いつまり方、悪いつまり方というのが、僕はあると思っているので、基本的に、良いつまり方をしているときは、変な当たり方でも僕はヒットになると思っています。
ヒットになるかどうかは、ボールとバットが当たるときの問題だと思うので、それを慌てずにゆっくり出していけば芯ちかくにボールは当たるんです。グシャっとなるのは良くないけど、多少押し込んでいけるのがいい打球だと思っています。ただ、それはもう自分の感覚になってしまいますね。
自分のスイングの中に相手のボールが入ってくるイメージを持つ
内川 聖一選手(福岡ソフトバンクホークス)
――続いて、コースの打ち分け方法を教えてください。
内川 基本、インコ―スは引っ張りなさい、アウトコースは流しなさいというのが野球では当たり前の教え方になっています。でも、インコースでも右に打てるし、アウトコースでも引っ張れると僕は考えています。大事なことは、『自分のインパクトできる幅を広げること』だと僕は思うんです。
身体の中で捉えようとして打つので、自分が一番つまって打てるところと、自分が一番前で打てるところの幅が広がれば広がるほど自分の中の余裕が出来ていきます。
だから、その一点だけを一生懸命打つ練習も大事ですが、崩された時にどうやったら強く打てるのかの練習も、僕は大事だと思っているんです。
――崩された時にどうやったら強く打てるかというのは大切ですね。
内川 感覚的にいうと、ボールに合わせてバットを振るんじゃなくて自分のスイングの中にボールを入れてくるイメージですね。ここは、こういうふうに気持ちよく振れるとか、アウトコースならこうやって打ちたいっていうのが、絶対人間ってあるんですよね。
相手がいるスポーツなので、それに合わせようとするとこっちが崩れてしまう。だから、なるべく自分が崩されないスイングの中にボールを入れてくればいいんじゃないかなと思います。相手に合わせて、自分のスイングを作るんじゃなくて、自分のスイングを相手のボールに合わせてやる。そう言葉でいうと簡単ですけど、実際は結構難しいんですよね。
でも、それを意識するだけで、取り組み方も変わってくると思いますし、『絶対、ここはこうやって打つんだ』と思ってやらないと、何百回も何千回も、なんとなく振っていても、あまり役に立たないので、『絶対打つ』という気持ちを持ってスイングしてほしいと思います。
――では、内川選手は実際に高校時代、どんな練習をしていたのでしょうか?
内川 丸太打ちですね。普通、タイヤを打ったりするけど、それが丸太になっているだけ。自分よりちょっと背丈が低いくらいの丸太を割れた金属バットで打つ練習です。
力が弱いと跳ね返ってくるので、それが跳ね返らないように押し込む。その丸太の倒れる方向をみているとバットがどういう角度で出ているのかが分かるんですよね。
丸太に対して、自分の内側からバットを出して、向こうに倒すというイメージです。
なぜこの用具が自分にとって大切なのかを理解する
内川 聖一選手(福岡ソフトバンクホークス)
――今回のインタビューの冒頭でも、『道具をどう使うのか』について語っていただきましたが、例えば、バッティングにおいてはバット同様、手袋もまたこだわりが出る道具だと思います。内川選手の手袋に関するこだわりを教えていただけますでしょうか?
内川 やっぱり、手と同じ感覚でバットを持ちたいという思いがありますね。バットは素手で持つのがいいんじゃないかと言われますが、バットの接地面との間に滑りが生じて、衝撃が手に直にくるのをカバーしてくれるのが手袋だと考えています。
手袋は、素手に一番近い存在でありながら、素手とは違うところを求めなくてはいけない用具です。自分の手と同じように動いてくれないと困るという部分と、でも革を一枚はさんでバットを握るという微妙なところが、自分の中で一番大事なところなので、手袋というのは、すごく大事な用具だと思っています。
――いま、内川選手が使用している手袋は、ジャストサイズのものですか?
内川 基本的には少し小さめだと思います。
今、手袋の形を改良していて、手を広げた状態ではなく、指を曲げた状態の形を作ってもらっています。指を曲げた状態から力を入れるとなると、その状態で握ると革が余ってしまうんです。なるべく、手を曲げた状態のときに、革が余らない状態にしたい。バットと手が触れているところが一定になってほしい。だから、小さめの手袋を少し伸ばして使っています。
革が余ってしまうと、バットを持つ部分に段差が出来てしまうんですよね。その段差というのは、気にならない人は気にならないんですけど、僕の場合は、段差があると自分の中で普通の感覚が失われてしまう気がするんです。それで革の余りがないような手袋の要望を常に伝えています。
――やはり、そこまで用具にもこだわりを持っていらっしゃるのですね。
内川 野球人生を重ねてくると、一つ一つの道具の大切さだったり、何でこういうふうな技術が必要なのかを徐々に理解してくるので、その点においては、ベルトも逆巻にしてもらったり、革に余りがないのが自分には良いなど、『なぜ、これが必要なのか』を年々、自分の中で理解している部分はありますね。
内川選手、とても参考になるバッティングに関するお話をありがとうございました!
(インタビュー・安田 未由)