Column

全員野球で戦う

2014.08.05

遠藤友彦の人間力!

全員野球とは?

全員でプレーを盛り立てる

 全員野球という言葉をよく指導者も選手も使いますが、本当の意味を理解して使っているでしょうか。

 9人だけが出場し他の選手の出番がない場合、「全員野球じゃない」と文句をいう控え選手がいます。全員野球とは、全員が出場することではなく、全員が役割を持ちながら野球をするということです。

 私が指導するチームでは、必ず「全員野球」で試合をすることになります。ひとりたりとも無駄な選手はいなく、全員が戦力であり、やるべきことがあります。パズルのピースのように、ひとつでも欠けると作品は完成しません。

 試合に出ている選手の役割は説明する必要はありませんが、試合に出ていない控え選手のやるべきことや役割は何なのでしょうか。

 甲子園は18名の選手登録があり、18人が背番号をつけてベンチに入ります。例えば1番から9番までは試合に先発で出場するとします。あとの9人は控え選手として試合に貢献しなければいけません。

 チーム事情にもよりますが、控え選手の打ち合わけは、投手3名、捕手1名、内野手3名、外野手2名程度が一般的です。

 控え捕手の役割は、主力捕手が怪我したときに出場するのは当たり前ですが、ブルペンで二番手以降の投手を作り、万全の体制(フレッシュな状態)で登板させることです。球数を投げさせてウォームアップさせるのは当然ですが、二番手以降の投手はピンチで登板するので、メンタルの状態をベストに持っていくという大きな役割があります。

 ピンチで「大丈夫かな・・」という弱氣では勝負になりません。ブルペンで投球しているときに捕手から投手にかける言葉が重要です。

「よっしゃ、いい球来ているぞ!」
「お前なら、大丈夫!!」

 精神的に乗っていけるような言葉がけをしながら投手の心を高揚させます。かかり過ぎで登板してもいけないので、「冷静に燃える」ような心にできればベストです。メンタルだけではなく、投球数のコントロールも大事になります。私が社会人野球時代、ブルペン捕手をしていたときに、二番手以降の投手はとにかく投げたがります。ピンチになればすぐに捕手を座らせて何球か投げ込みます。

「このタイミングでは監督は絶対に交代しない・・」

 そう捕手が思っても、投手は「俺かな・・」とすぐに投げたがるのです。初回からピンチで何度も作ることを繰り返せば、登板するときには100球以上投げてフレッシュじゃない状態で登板することも。これでは、持っている力が出せずにピンチで返り討ちにあうだけです。そういう経験を何度もした記憶があります。

このページのトップへ

[page_break:相手打者を観察する]

 私の経験上、二番手以降の投手は30球から50球程度投げてから登板するのがベストです。「まだ来ないな」と思えば、捕手は座らずに「立ち投げ」もしくは「軽いキャッチボール」で準備をしておきます。これで十分です。

 控え捕手の役割はとても大きく、監督との意思疎通をイニング間で密にしながら交代のタイミングを探ります。控え捕手がチームに貢献することができれば、チームが勝つ可能性もグンと上がります。しかしながら実際には、投手の言いなりにブルペンで捕球だけしている捕手ばかりです。この状態は、役割を全うしているという全員野球にはなっていないのです。

 控え投手の役割は、ピンチでの登板が多いので練習では常に「ピンチ想定」の投球を割合多く実施しておきます。試合が始まればブルペンで投球を開始して準備するのはもちろんですが、大きな役割が二番手以降にあります。

相手打者を観察する

打球方向を予測してステップを切る戎谷元気遊撃手(海部)

 試合前に徹底的に相手打者を調べるのがエントモ流のやり方ですが、試合に入ってからも様々な視点から相手打者を観察します。

 引っ張り打者なのか、逆方向に打ち返す流し打者なのか。インコースはうまくさばくのか、差し込まれやすく詰まるのか。

 簡単な打者の傾向を試合中に捉え、自分が登板したとき「こういう打者だから、こう組み立てて投げよう」という目安にします。試合中に出場している選手を応援しつつ、自分が出場したときの準備を怠ってはいけないのです。出場している捕手は、序盤に味方全員に情報共有をするべきです。

「今日の球審は、アウトコース球1個広い。インコースは0.5個まで手が上がる。横からみて分かるように、低めの球は1個まで広く取るぞ。高めはきっちりで辛いほうだと思う」

 控え投手は自分の登板で優位に進められるような情報を大事にしながら、心静かに準備を進めることが大切です。野手も同時に、自分が途中出場したときに慌てないように球審の癖は頭に入れておくことです。

 野手の役割は、ひとつの兆しから主力選手への言葉がけが大切です。

 例えば、先発出場しているショートが暴投を投げたとします。送球ミスの大半は、捕球した後に頭が突っ込み、腕が触れない状態から送球が乱れます。

 軸足を強く踏むことで、頭が送球方向にいくこと(突っ込むこと)が軽減され安定した球が投げられます。

 よって、誰かが送球ミスをした瞬間に「軸足を強く踏もうぜ!」と味方選手に言葉をかけることです。ミスをしてしまったことは、もう過去です。それに対してどうこう言っても始まらないので、試合中は「次にそうならないように」と全員で意識することが大事です。出場している選手たちは、どうしても細かい動作の意識まで考えられません。

このページのトップへ

[page_break:周囲が主力選手を言葉で意識させて動かす]

周囲が主力選手を言葉で意識させて動かす

 私がチームサポートで選手たちに伝えるのは、「全員が戦力」ということです。「さー、いこーぜー」という意味のない言葉を試合中に発しても何も変わりません。大事なのは、仲間を動かせる言葉を全員で使うことです。

 事が起こる前にミスが起きないように控え選手を始め、全員で声を掛け合うということです。私の中で内野手が大事にすることは「前に出ながら打球を合わせる」ということです。構える姿勢が、かかと体重で後傾していれば一歩目の反応が遅くなります。よって、つま先に体重を乗せながら前傾姿勢を取ることが、ミスを防ぐ基本になります。

打球の位置を指示する選手(履正社)

「つま先に体重が乗っているか?」
「前傾姿勢で待てているか?」

 内野で守っている選手同士声をかけ合ったり、ベンチから出場している選手に声をかけます。ミスをしてから「後傾していたな・・」では話になりません。事前に意識をしていてのミスは諦めがつきます。ミスを言葉のかけ合いで防ぐのが私の野球です。

 背番号漏れした選手も、様々な主力選手のサポートをします。練習のときには積極的に打撃投手をしたり、守備練習のときには意識する声をかけたり・・。自分がプレーしなくても言葉で参加することは可能です。出場している選手の意識が高くなればチームとしては勝っていくことでしょう。

それぞれの立場で、それぞれの役割を全うするのが全員野球。

 では、主力選手と控え選手、偉い偉くないはあるのでしょうか・・

 私は選手に「お祭り」の話で伝えるようにしています。お祭りでは、神輿に乗る人、神輿を担ぐ人、神輿を沿道で応援する人、3パターンの人がいます。それぞれの役割を全うしたときにお祭りは盛り上がります。

 神輿だけあっても沿道に誰もいないのであればお祭りは盛り上がりません。神輿も担ぐ人がいなければ動きませんし、どうせなら神輿に人が乗って団扇を持って「わっしょい、わっしょい」と掛け声高く言ったほうが盛り上がります。

 お祭りで誰が偉いということはなく、三位一体となってお祭りが盛り上がっていきます。野球も同じです。主力選手が神輿に乗っている人、神輿を担いでいる人は背番号をもらった控え選手、沿道で声をかけている人は背番号をもらえなかった選手たち。

 高校野球の今時点では、神輿に乗っている人も大学野球の一年生になれば沿道で応援する人に変わります。そうです、役割は状況によって変わっていくのです。

 チームの中に無駄な選手などひとりもいません。それぞれの「そのときの役割」を全うしているチームが全員野球をしていると言えるでしょう。出場している選手は、沿道で応援している人の心を分かりながら、神輿に乗れる人にならなければいけません。

 神輿に乗って「俺が偉いんだ」と思っている人は、自分が沿道側の人になれば不平不満を言うことでしょう。寂しい考え方です。そんなわがままで周囲の心が分からない選手が仲間から応援されるはずはありません。

 高校野球の夏は、三年生であれば「最後」です。自分の役割が決まり、背番号をもらった選手は喜ぶと同時にその責任の重さを背負ってプレーすることでしょう。残念ながら背番号をもらえなかった選手は、チームに貢献するという役割を心切り替えて行うことでしょう。すべての選手が試練を迎え、最後に乗り越えていく努力をします。

 このコラムを読んでいる選手は、「全員野球」を考えながら頑張って欲しいです。

(文=遠藤 友彦

このページのトップへ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.27

青森山田がミラクルサヨナラ劇で初8強、広陵・髙尾が力尽きる

2024.03.27

【福岡】飯塚、鞍手、北筑などがベスト16入り<春季大会の結果>

2024.03.27

【神奈川】慶應義塾、横浜、星槎国際湘南、東海大相模などが勝利<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.28

大阪桐蔭、大会NO.1右腕に封じ込まれ、準々決勝敗退!2失策が失点に響く

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.24

【神奈川】桐光学園、慶應義塾、横浜、東海大相模らが初戦白星<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.22

報徳学園が延長10回タイブレークで逆転サヨナラ勝ち、愛工大名電・伊東の粘投も報われず

2024.03.08

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.03.17

【東京】帝京はコールド発進 東亜学園も44得点の快勝<春季都大会1次予選>

2024.03.11

立教大が卒業生の進路を発表!智弁和歌山出身のエースは三菱重工Eastへ、明石商出身のスラッガーは証券マンに!

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.01

今年も強力な新人が続々入社!【社会人野球部新人一覧】