公立高校が勝つためには
技術能力が高い選手が比較的集まりやすい私立高校。私立に対して公立高校は、どのように戦い、チーム作りをしていけばいいのか・・。常に指導者も選手も考えているはずです。
「能力が高いから仕方がない……」
そう諦めている指導者も多いですが、私は過去10年「弱者の戦い」をして強者を打ち破ったりしています。よって「仕方がない」ということはエントモイズムにはなく、いかにして工夫をしながら勝っていくかを考えます。
公立と私立の違いとは
サヨナラ勝ちに歓喜する大冠ナイン
私立と公立は、練習時間の長短、選手能力の違いが特徴的です。練習時間に関していえば、長ければいいとは言い切れません。結果思考で質の悪い練習を繰り返しても、本番では発揮できません。
公立高校は、短時間の練習しかできない環境もありますが、本番思考の動きで質を上げていけば時間の問題はクリアできます。
選手の個人力では私学が勝っても、チームの組織力を上げていけば公立にも勝機はあります。相手の能力を羨ましがっても何も起こりません。
自分たちの能力を嘆いても何も起こらないのです。個人の力を上げつつも、組織力や徹底力を考えたほうが良いでしょう。
では、公立の良さは何があるのでしょうか……。
技術能力が高いと、選手は個人力に走りますが、低ければ選手は「チームとして」を考えやすいのです。よって弱者の方が徹底しやすい傾向にあります。公立の大きなアドバンテージだと思っています。
私の野球を一言でいえば「考える野球」です。ある程度の考える力がないと、選手は理想を形にすることはできません。エントモイズムは準備を最も大切にしているので、質の良い準備をするためには「考える」ことが重要になります。
講演会でも選手に言います。
「野球ばかりしていてはダメだ。考える力を身につけるために普段の授業をしっかり聞いたり、勉強をすることは大切になる。公立高校の強みである『考える』ということを伸ばして、野球に使うべきだ」
まずは自分たちの強みを持とう
ノックを受けるすぐ後ろにはサッカー部(姫路南)
私学でも公立でも「自分の強み」を持っていれば、精神的にも安定して試合をすることができます。技術能力が劣る公立のチームは、私学の技術をみてビビります……。
「すげーなあいつら……」
試合前のシートノックを見て、プロ選手みたいな動きに圧倒される公立の選手も少なくありません。実際に技術能力は負けていても、自分たちが勝っているものがあれば「すげーけど、俺たちもすごいよ」という感覚になれます。
公立の選手たちに言います……。
「同じ物を持とうとすると負ける。私学が持てないものを持とうとしたほうがいい」
最初は「ポカン」としますが、実践してあるレベルに到達すると選手に自信が満ち溢れます。強者も自分たちの持っていないものが敵チームにあれば、逆に弱者的な感覚になることもあります。
すべてのチームではないですが、私立は能力野球をする傾向があります。感覚に頼り、力勝負をしてくるチームが多いのです。それに対抗するのは、選手一丸となっての組織力を旗印にする【緻密な徹底野球】です。
全力疾走、全力発声、そこまでやるかのカバーリング、徹底した逆方向打ち、ボールをまったく振らない打線、インコースに大胆に突っ込む投手陣、配球に工夫のある捕手、常に前に出て捕球する守備陣。
ひとりひとりの技術能力は高くなくても、徹底事項を全員がしていくチームであれば強者を負かすこともできます。能力が劣るのに相手と同じような個人力で戦おうと思っても、勝てる確率が上がるわけはありません。
私は公立もチーム指導しますが、私立も同じように指導します。県下No1であっても全国からみれば弱者です。よって私立・公立であっても「弱者」としてのチーム作りを伝えます。
[page_break徹底野球で可能性を高める]徹底野球で可能性を高める
春季大会で快進撃を続けた島原農
私の中では「どんなチームに対しても、弱者の戦いで何とかなる」といつも思っています。私が何とかなると思っていてもやるのは選手なので、選手の中で「でも、しかし」があれば絶対にうまくいきません。
「理想はわかるけど勝てるわけないよ」
最初の段階で諦めがあれば、絶対に勝てないことでしょう。最初に相手(強者)のダメ出しをします。技術能力は高いですが、「こんなことも、あんなことも出来ていない」スキだらけということに氣づかせます。
意外に相手はスキだらけなんだと思った後に、「弱者としてこうしていけばいい」と説きます。すると選手は「可能性あるんじゃないのか……」と思います。この【可能性】を感じることが、スタートする時に最も重要なのです。
当たり前の実践を大切にしながら心の安定をゲットして、何をどのようにという徹底野球をしていく。為せば成るのです。
ここまで読むとある疑問が浮かんできたことでしょう……
「技術能力が高いチームが弱者の戦いをやれば最強だよね」
その通りだと思います。しかしながら、能力の高い選手がいるチームの指導者は当たり前の実践を軽んじる傾向があり、能力野球である程度勝てるので、面倒くさい徹底野球には興味を示しません(たまに番狂わせがあるのは能力野球の特徴です)。選手も同じです。
私がするチーム指導も私学県下No1からは依頼がきません。私立でも公立でも弱者の戦いをしようとする指導者がいるチームばかりです。
最近の公立高校躍進は、諦めから「何とかなるかも」という考えに変わった指導者が増えてきたからだと考えます。と、同時に、当たり前の実践を大切にする人間力野球に氣づいてきた方も多いからではないでしょうか。
エントモコラムを最初からすべてもう一度読み直してください。弱者の戦いのヒントがたくさんあることでしょう。
(文=遠藤 友彦)