Column

動じない。 超一流になる人の心得 著者:王貞治、広岡 達朗、藤平信一

2012.11.08

僕らの熱い夏

「動じない」はどんな本なのか?

 まず、質問します。

・自分の能力に自信を持っているのに緊張して試合で発揮できない
・いつも力任せにプレーしてミスが多い
・緊張しやすく、リラックスしようとしてもできない

 この3点が当てはまる球児のみなさん、あるいは周りのそういう選手がいたら、ぜひこの本を手に取ってもらいたいです。

「動じない。超一流になる人の心得」(幻冬舎/2012年6月発売)

 本書は世界のホームラン王・王貞治さんと、選手時代はあの長嶋茂雄さんと三遊間を組んで、ヤクルト―西武で監督として日本一を経験された広岡達朗さん、そして、心身統一合氣道会会長の藤平信一さんの3人の対談形式で構成された本になります。

 まず、王さんと広岡さんが、合気道家の藤平さんとどんな接点があるのでしょうか。二人は藤平信一さんのお父様である光一氏に合気道の指導を受けていたそうです。王さんといえば一本足打法。その一本足打法を築いたのが打撃コーチの荒川博さん。これは有名な話ですが、荒川さん自身も打撃に活かそうと合気道に通っていたそうです。

 広岡さんは、荒川さんの早稲田大学の後輩にあたりますので、荒川さんと一緒に通うようになりました。王さんは鳴り物入りで巨人に入団するものの周囲の期待に応える成績を残せなかったため、広岡さんが、荒川さんに打撃コーチをお願いするようになったようです。王さんが荒川さんの下で日々研鑽を積みました。そのため、王さんの一本足打法は合気道が原点となったというのは興味深い話です。

 プロ野球界で偉大な実績を挙げられた2人が合気道の道場に通いながら野球に活かしていったのですね。一流選手は自分のパフォーマンスを発揮するためには野球だけではなく、武道にも目を向ける視野の広さがあるのですね。また、広岡さんがドジャースと関係が深く、広岡さんの強い推薦で、藤平さんは、ロサンゼルス・ドジャースで若手の有力選手に合気道を教えていたそうです。さらに藤平さんは、今年の秋に広岡さんとともに、阪神の秋季練習に参加し、特別講演を行いました。両氏から指導を頂いた若手選手が活躍すれば、球界に再び“合気道ブーム”が起こるかもしれません。では、次のページから、具体的に本書で学べる内容について、紹介していきます!

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[page_break:本書で学べる氣力、正しい姿勢、力みない姿勢の大事さ]

本書で学べる氣力、正しい姿勢、力みない姿勢の大事さ

▲合気道で学んだことを野球に活かす

 本書はどんなことが学べるかといえば、合気道にも基づいた力の出し方のポイントを学ぶことができます。王さん、広岡さんは合気道で学んだことを下に野球に活かし、超一流選手として活躍を続けました。本書の中で、特に大事なのが以下の2点になります。

・正しい姿勢と臍下の一点を静める
・力みなく無駄のない姿勢

この2点によって冒頭で述べた3つの問題を改善できるはずであります。ここからこの2点について詳しく説明していきます。

「正しい姿勢」と「臍下の一点を静める」

 プロ野球を見ていると、一流投手はなぜ力みのないフォームから140キロのストレートを投げられるんだろう。一流打者はなぜ軽く打っているように見えて、あんなに飛ばせるんだろうと思う時があります。
 それは、トップレベルで活躍する選手ほど力みのない軽い動きをしているのですね。そのためにも、まずは正しい姿勢が大事になってくるのです。

 正しい姿勢。よく正しい姿勢のことを気を付けをした状態だと考えられていますが、これは間違い。「正しい姿勢」とは、「自然な姿勢」のことをいいます。

 では、自然な姿勢とは何か。姿勢が安定していて、バランスが取れていることをいいます。藤平先生は投手のピッチング時、打者のバッティング時の姿勢をバランスが取れているかテストをします。テストをすると、よいパフォーマンスをする選手ほどバランスが良く、正しい姿勢ができているようです。
 バランスが良いことで、身体に秘めた力をバランス良く伝えることができるので、高いパフォーマンスが発揮できる。逆にバランスが悪い姿勢になっている選手は必ず力みが入っています。

 逆に力んだ状態でプレーし続けると力が伝わりにくく、速い球を投げられない、遠くへ飛ばすことができない。さらには故障につながりやすい原因にもなります。

 力む選手には身体的なモノよりも心の状態が大きな影響を与えているようです。心が緊張するから身体も緊張する。心と体は繋がっているものですね。テストを行うとちょっとした不安でも、身体のバランスが崩れているのが容易に分かるようで、トップレベルになるとほんのわずかの違いが大きな差を生むようです。やはり身体の力みを取るには心の状態を正しく把握することが大事ということですね。

 心を静める方法としては、臍下(せいか)を静めることが大切と述べています。臍下とは、つまり、「へそ」の下ですね。へその下は下腹の中で最も力が入らない場所で、「臍下の一点」と呼びます。臍下という言葉は本書で何度も登場しますので、読み方は本書を読む前に理解しておきましょう。心が静まっているときほど臍下の一点は静まっているようです。

 メンタルを安定させるためには、へその下を静めることがとても大事で、藤平さんはドジャースの若手選手を指導した際に「正しい姿勢」と「臍下の一点」を身に付けた選手はメジャーに上がって、レギュラーを獲得した選手が何人も現れたようです。凄いパワーはあって、当たれば飛ぶけども、なかなか結果が出てこない選手というのは心と身体全体が力み過ぎかもしれません。しかし、実際に、体格の素晴らしいメジャーリーガーが「正しい姿勢」と「臍下の一点」を身に付け活躍したという実例は、とても説得力があります。

力みなく無駄のない姿勢が選手生命を延ばす

▲身体をうまく使ってポテンシャルを最大限発揮しよう

 ここまで、力みのない姿勢、心を静める大事さを書いてきましたが、最終的に何につながるかといえば、選手生命を延ばすということです。

 王さん、広岡さんは、「今の選手は昔の選手に比べて身体が大きくなったが、身体の使い方が下手になったから怪我が多くなった」と指摘しています。今は180センチ超えの選手が多くなりました。この体格でしっかりと身体の使い方を覚えれば、すごい選手になるだろうと思わせる選手はたくさんいるのですが、ぎこちない動きをする選手が多く、持っている力を最大限、発揮できていません。なかなかうまくいかないものですね。

 広岡さんは今の日本人内野手の守りは、「ただ捕って投げている選手が多い。下半身の使い方が下手で、上体だけで投げている選手が多い。下半身を使って投げる動作を身に付けないと守備は上達しない」と述べています。

 王さんは、「1時間練習を最初から最後までやり続けられる選手はしっかりと鍛えられ、身体の使い方を知っている人ができる。でも、力任せな人は、すぐにへばってしまう」と述べておりました。無駄な力というのは余計な力を使ってしまうわけですから、消耗が早いわけですよね。無駄な力を入れず、力みのない状態で、身体を動かす。そのコツを知ることが出来れば、身体に負担をあまりかからない状態で練習を重ねることができる。だから、量をこなすことができる。つまり量と質が伴った練習をこなすには、「力みなく無駄のない姿勢」が大事であるということですね。

出来たというのは無意識に出来て初めて出来たといえる。

 本書の大まかな概要をまとめてみましたが、 最後に王さんと広岡さんが『出来た』という定義について、こう説いてくれています。

「出来たというのは無意識に出来て初めて出来たといえる。」

 深いですね。今までの経験を振りかえると説得力がありますね。例えば自転車。補助輪なしの時は何度も転んで、やっと漕ぐようになって、自然に漕げるようになった経験があると思います。野球の動作もそれと一緒で、無意識にプレー出来るようになって初めて出来た。野球というのは複雑な動作が絡みあった競技ですから一朝一夕で出来上がるものでありません。皆さんは日頃の積み重ねが大事と指導者によく言われると思いますが、その本当の意味が本書で分かると思います。

 この本では、正しい姿勢、心の静め方の「本質」を書いています。実践出来ただけで、だいぶ変わっていくと思っています。ただ、一度読んだだけでは実現できるものでありません。この本を通して力の抜き方、出し方を学びたい方は何度も本を読み返してください。

▶この本を通して多くの高校球児の皆様のパフォーマンス向上のきっかけになることを祈っています。

「動じない」(幻冬舎) 著者:王貞治、広岡 達朗、藤平信一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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