読書のすすめ

印刷する この記事をYahoo!ブックマークに追加 このエントリーをはてなブックマークに追加   

第36回 野球ノートに書いた甲子園5 高校野球ドットコム編集部 KKベストセラーズ2018年03月04日

■ Amazon.co.jpで購入する

書評

野球ノートに書いた甲子園5 高校野球ドットコム編集部

 日々の練習や試合など野球を通じて感じたこと、学んだことなどをそれぞれのスタイルで書き綴る「野球ノート」。選手同士や選手と指導者とのコミュニケーションをはかる一つのツールとして活用しているチームも多いと思います。「野球ノート」への取り組みから選手やチームが成長する姿を取材した「野球ノートに書いた甲子園」は5作目となり、選手をはじめ指導者や保護者など野球にたずさわる多くの方々が「野球ノート」に対する興味を持っていることがうかがえます。

今回は作新学院学院高校、北海高校、報徳学園高校、福岡大大濠高校、八王子高校、英心高校の6校が登場します。

甲子園に一番近い学校として知られている報徳学園高校は、23年にわたって野球部の監督をつとめた永田 裕治さんが2017年春に勇退されました。毎年100名を超える部員に分け隔てなく接する「全員野球」を掲げ、全員が同じ練習量を与えられることが前提となっていたといいます。全員が同じ練習量ということは一人当たりの練習時間や内容も相当密度の濃いものでなければならず、「人数が多い分、練習する機会が限られるから一球も無駄にできないという集中力を生んだと思いますよ」(P53より引用)とは正直驚きました。

 その中でイップスに苦しむエースを救うべく交換日記をはじめた永田さん。元ソフトバンクホークスの投手として活躍した近田 怜王さんは、試合中に熱中症による体調不良で入院し、その後思うようにボールが投げられなくなってしまいました。戸惑いの表情を見せる近田さんに対し、永田さんは交換日記を提案し、野球ノートにそれぞれの思いを書き連ねていくようになります。

人数が多いと一人一人に声をかけるタイミングがなかったり、思ったことを伝えられなかったりすることもあると思いますが、野球ノートというコミュニケーションツールは、エースの苦悩を推し量り、それに対して監督が時には厳しく、そして時には叱咤激励しながら、何とかチームの力として復活してもらいたいという思いを伝える場でもありました。「今思えば、ですよ。チームのためだったんだと思います。(中略)全員野球のために僕の力、僕の復活が必要だと考えたから、ノートのやり取りをしてくれていたんじゃないかな、って思うんです。いつも期待している、って書いてくれたこと、忘れないと思います」(P81より引用)。野球ノートはその役割どおり、全員野球を支える「縁の下の力持ち」となったのです。

 三重県伊勢市にある英心高校は単位制・通信制の高校で、野球部創立は2015年。中学の時は不登校だった生徒が多く、キャプテンの谷口陽一くんは「不登校になる生徒って、自分に自信がないんですよね」という。「野球経験なんてなかったけど、勇気を出して野球部に入って、そこから変わることができました。だから思うんです。僕たち英心野球部は、不登校生の代表として頑張りたいって」(P87-88より引用)。初めての公式戦は0対91で敗戦。そこから英心高校野球部員はどんなに負け続けても、一つの勝利を目指して練習に励んできました。それを支えたのが記憶を記録として残しておくための「野球ノート」です。

 自分たちのスタイルで練習内容や思ったことを書き残していくのですが、それを振り返ることで新たな発見があったり、疑問に思っていたことが解決したりということが続くと、自ずと取り組み方も真剣なものへと変化していきます。圧巻なのは女子マネージャーとしてチームに貢献していた田中 美有さんの野球ノート。練習内容や自分のことに対する反省はもちろんのこと、チームのことや選手のこと、技術的な疑問などを日々ノートに綴っていきました。選手のことを細かく見ていないと書けない内容に、監督の上村諒さんは毎回感心し、彼女に称賛の言葉を贈っています。その後英心高校はチーム全員の目標でもあった公式戦初勝利をもぎ取るのです。

 高校野球にたずさわる全ての人が「甲子園」という言葉に特別な思いがあると思いますが、それは「目標」であったり、「憧れ」であったり、「遠い夢の舞台」であったりします。「2年半の高校野球を終えたときに感じてほしいんです。(中略)野球を選んで、きつい思いもした。でも楽しい思いも、幸せな思いもあったと思う。それも含めて、野球を始めて良かったと思ってほしい」(英心高校前監督・豊田 毅さん)。すべての高校野球の現場でこうした思いを感じてほしい。そのためのツールとして「野球ノート」が多くのチームを支えているのだなと改めて思わされた一冊です。

詳しくは特設サイトをチェック!!
【野球ノートに書いた甲子園5 特設サイト】

(書評:西村 典子

このページのトップへ

この記事についてTwitterでつぶやく この記事についてFacebbokに投稿する
【関連記事】
第706回 好カード続出!?1つも気が抜けない今年の西東京を抜け出すのは?【大会展望・総括コラム】
第76回 広陵が独走気味になってきたが、広島新庄と如水館、瀬戸内などが追う【47都道府県 高校野球勢力図の変化】
第79回 創志学園の登場で、関西と倉敷商らと新たな勢力構図【47都道府県 高校野球勢力図の変化】
第669回 2019年のドラフト候補が多数浮上!きらりと光る活躍を見せた2年生の逸材をピックアップ!【大会展望・総括コラム】
第666回 野村、山下...スター野手が期待通りの活躍を見せた今年の関東大会!【大会展望・総括コラム】
第705回 古賀悠斗(福岡大大濠―中央大)後編「甲子園、侍ジャパンの経験は大きな財産となった」 【2018年インタビュー】
習志野vs作新学院【2018年春の大会 第70回春季関東大会】
第701回 古賀悠斗(福岡大大濠ー中央大)前編「打撃では無欲、守備では貪欲に」 【2018年インタビュー】
作新学院vsれいめい【2018年 練習試合(交流試合)・春】
作新学院vs鹿屋中央【2018年 練習試合(交流試合)・春】
帝京vs明大中野八王子【東京都 2018年春の大会 春季東京都高等学校野球大会】
帝京vs八王子【東京都 2018年春の大会 春季東京都高等学校野球大会】
第630回 小園 海斗(報徳学園2年・遊撃手)世界との激闘糧に、夏頂点へ駆ける【後編】 【2018年インタビュー】
第629回 小園 海斗(報徳学園2年・遊撃手)生粋の野球小僧、報徳学園で戦う男に【前編】 【2018年インタビュー】
第586回 阪口 皓亮(北海)「実力を試す舞台はプロの世界と決めている」 【2017年インタビュー】
池田 【高校別データ】
浦幌 【高校別データ】
英心 【高校別データ】
作新学院 【高校別データ】
清水 【高校別データ】
滝川 【高校別データ】
長沼 【高校別データ】
都立八王子北 【高校別データ】
八王子 【高校別データ】
広尾 【高校別データ】
美唄工・北海道美唄尚栄 【高校別データ】
福岡大大濠 【高校別データ】
福島商 【高校別データ】
双葉 【高校別データ】
報徳学園 【高校別データ】
北海 【高校別データ】
北科大高 【高校別データ】
北海道札幌あすかぜ 【高校別データ】
室蘭大谷 【高校別データ】

プロフィール

西村典子
西村 典子 トレーナー
  • ■ 生年月日:1970年12月5日
  • ■ 出身地:大阪府
  • 奈良女子大学文学部教育学科体育学専攻卒。野球用品メーカーにて勤務後、トレーナーとして10年以上にわたり高校野球・大学野球の現場にたずさわる。野球現場での活動を通して自分たちで自分の体をマネジメントする「セルフコンディショニング」の重要性を感じ、チーム・選手・指導者にむけてスポーツ傷害予防や応急処置、トレーニング(ストレングス&コンディショニング)に関する教育啓蒙活動を行っている。

    一般雑誌、専門誌、ネットなどでも取材・執筆活動中。また整形外科ドクターと野球の傷害予防に関する共同研究活動なども行っている(現在の研究テーマは手指血行障害について)。

    現在、東海大学硬式野球部アスレティックトレーナーをはじめ、さまざまな高校野球部を担当中。
  • ・日本体育協会公認アスレティックトレーナー
    ・NSCA公認ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)
    ・NSCA公認パーソナルトレーナー(NSCA-CPT)
    ・日本スポーツ整形外科学会会員 等
  • 講演依頼はこちら
    講演・セミナー依頼受付中
  • 部室に一枚!!RICEポスターを無料配布中!!ダウンロードはこちらからDownload


ケガに強くなる!セルフコンディショニングのススメ
コラムトップに戻る サイトトップに戻る

コラム