第6回 決めごとを実践する強さ2009年09月11日

「ルーティーンを作る」
最近、取材をしているとそんな言葉に出あう。
「ルーティーン」を辞書で調べると、「決まり切った仕事」だそうだが、この言葉がはやり始めたのは、マリナーズのイチローが、TV番組でこの言葉を発したからではないかと、僕自身は思っている。
もちろん、それ以前に、この言葉は存在していたのかもしれない。メンタルトレーニングの中にも「チームルーティン」というトレーニング方法があるというから、以前から使われていたとしても、不思議ではない。
しかし、現実に、一般人の耳に入ってくるようになったのは、イチローの発言からじゃないかと、あくまで私見ではあるが、そう思っている。
確かに、イチローのプレーを見ていると、ある一定の決まりごとに重きを置いている節を感じる。バッターボックスでのしぐさ、ポジションにつくまでの歩数などである。そこは本人に聞いてみないと分からないから憶測の域は出ないが、そのルーティーンを守っているからこそ、イチローの強さにつながっているような気がしてならない。
しかし、果たして、このルーティーンを作る。つまり、「決まりごとを実行する」という本来の意味はどこにあるのだろうか。
「バッターボックスに入るまでに自分の間合いを作る」という人もいるが、イチローがそうだったように、ルーティーンにはバッターボックスだけではなく、日常生活からのルーティーンがあることも忘れてはならない。そして、そのことが強さを生むことにつながるのだ。
「これだ」、と決めたことを実践し続ける力。そこに選手として強さ。いわば、このコラムでいう人間力を感じずにはいられないのだ。

第91回全国高校野球選手権でも、その「決まり事」を実践している選手がいた。
都城商の主将・富永圭太である。
彼が試合前の取材、そのことを発言すると、囲んでいた記者が聞き入ったほどだった。
「自分の調子が良いのは、決まりごとをずっと続けてきたからだと思います」
そのほとんどが日常生活によるもので、食事面、生活面と富永は力説していた。なかでも、記者たちが静寂になったのは、こう発言した時である。
「食べるものもそうなんですけど、起きる時間はいつも決めていますし、甲子園に来てからは集合時間が試合によって変わりますけど、どの時間でもロビーには10分前につくように、ずっと続けています。それが今の力になってきたのかなと思っています」
自分の決めたことを実践する。甲子園に出たからではなく、続ける。そのことが、選手自身にひとつの間を作り、自信として植え付けられるのである。富永は4試合に出場、14打数7安打と好成績を残し、28年ぶりのベスト8進出を果たした。
「約束事を決めて、それを実行する。弁当箱は洗ってお母さんに返すとか、ユニフォームは自分で洗えないまでも、洗濯場までは自分で運ぶとか。それをやっているかどうかは、僕にはわからないんですけど、選手たちが上手くなってきた時期と保護者の方から、『ウチの子が弁当箱を洗うようになった』という声が入ってきた時期が重なっているんです」
日常生活で決めごとを作って、それを実践しているということは、人間としての芯が出来上がる。心がぶれないのである。京都両洋は、その心の成長とともに、技術的に伸びて強くなったのだ。今年の春の京都大会を制している。
選手にとっては野球部の顔や、家での顔、学校での顔などさまざま持っている。だが、場面・場所・対人によって変わるようでは、それは真の力ではないということになる。どの場面においても変わらない自分がいるから―監督の前だけでなくても、自分を律する自分がいるからー心が安定するのである。
それを「ルーティーン」とまとめてしまうかどうかは分からないが、決めごとを実践し続けていくこと、丁寧に言うと「実践し続けられること」が大きな力になる。都城商や京都両洋高校は、そのことを教えてくれるチームだった。

- 氏原 英明
- 生年月日:1977年
- 出身地:ブラジルサンパウロで生まれる
- ■ 高校時代から記者志望で、新聞記者になるのが将来の夢だった。
- ■ アトランタ五輪後に、スポーツライターに方向転換。
- ■ 大学を卒業後、地元新聞社に所属。
- ■ その後スポーツ記者として、インターハイなど全国大会の取材も経験させてもらい、数々の署名記事を書く。
- ■ 03年に退社。フリー活動を開始。
『週間ベースボール』、『ベースボールクリニック』(ベースボールマガジン社)、『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)『ホームラン』(廣済堂出版)、『Number』(文藝春秋)、『Sportiva』(集英社)、『高校野球ドットコム』『ベースボールファン』などに寄稿。フリーライターとしての地位を固める。
- ■ 「人間力×高校野球」好評連載中!!
- ■ ブログ:「心で書く!」(氏原英明オフィシャルブログ)
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