Column

創価大の投手育成術 vol.1 「人間野球と3つの基本」

2015.05.11

 多くの好投手をプロ野球界に送り出し、現在も好投手を次々と育成している創価大硬式野球部。決して高校時代「甲子園のスター」ではなかった投手たちが、プロ野球でタイトルを獲るまでに至り、リーグ戦でも常勝と言われるほど安定した投手陣を形成できる理由はなにか。そこにはわかりやすくまとめられた基本と、奥深いところで野球につながっている人間教育という2つの側面があった。

投手王国・創価大

首脳陣の話を聞く選手たち(創価大)

 東京新大学野球連盟を象徴する強豪チーム。平成6年度から、春、秋のリーグ戦どちらも優勝しなかった年度はない。さらに近年は全国大会でも3度のベスト4入り(平成21年度全日本大学野球選手権、平成23年度明治神宮大会、平成26年度全日本大学選手権)と、国内の大学野球界でも注目の強豪として存在感を強めている。

 加えてプロに輩出した選手たちも存在感は抜群だ。29期生の小谷野 栄一(オリックス)は打点王にゴールデングラブ賞3回、ベスト9にも輝いた。今シーズン、戦力外から中日の先発ローテーション入りまでのしあがった八木 智哉(32期生)は、2006年度のパ・リーグ新人王。36期生の大塚 豊は2009年の日本ハムドラフト2位選手。そして近年では39期生の小川 泰弘2015年インタビュー。「和製ノーラン・ライアン」として話題を呼び、ドラフト2位で入団したヤクルトで1年目から最多勝の16勝、2013年度のセ・リーグ新人王を獲得している。

 目立つのは、プロでタイトルを獲るほどの投手をコンスタントに輩出している点だ。現在も4年生の小松 貴志、3年生の田中 正義といったプロ注目の逸材がおり、池田 隆英(3年)の成長も著しい。

基本的で絶対的な「3つの教え」

「成長のプロセスは本人たち次第じゃないですかね。投げ方の基本的なことだけは教えますけど」

と謙虚に笑うのは佐藤 康弘コーチ。ご自身も社会人のプリンスホテル時代に1992年のバルセロナ五輪野球日本代表として銅メダルに輝いた経歴を持つ。母校の創価大へは1996年に投手コーチとして就任。これまで八木、大塚、小川を育ててきている。

「秘訣といったものはないですよ。ある程度の形を教えてあげるだけ」

 この「ある程度の形」という部分こそが秘訣だろう。そこを教えてもらった。
「ピッチャーはストライクが入らないと始まらない」
これが、佐藤コーチの理論の柱になっている。うなずく高校生ピッチャーも多いだろう。

「でも、ストライクを入れろと言われたところで入るものじゃないですよね」
そのとおり。ストライクを入れようと思って入るなら苦労はしない。そこで、創価大では「目をつむっても入る」投げ方を論理的に3つ教えている。以下、佐藤コーチの解説である。

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夏、勝てる投手になるためのプロセス
[page_break:軸足・ブロック・切り返し]

1.軸足

写真1.軸足を真っすぐ立たせた姿勢

「軸足は、ストライクゾーンに投げるための第1歩です。やることはマウンドのプレートに軸足をしっかり固定すること。その際意識すべきは踵です。ちゃんとプレートに沿って立てているか。この踵が少しぶれただけでピッチャーの身体はストライクゾーンに正対していないことになります」

 軸足に体重を乗せるために「真っ直ぐ立つ」とはよく言われること。一方で、踵をきちんとプレートに沿って平行に保てているか。これがずれてしまうと、投球動作のどこかでストライクゾーンにボールを投げようと無理な力がかかることになる。つまり投球が不安定になる。自然な身体の動きでストライクを投げる初歩は、軸足の踵にポイントがあったのだ(写真1)。

2.ブロック

写真2.正しいブロックの動作

 創価大が教える投手育成「3つの基本」の中でも最も注意する点がこの「ブロック」だ。

「ピッチャーは投球の際にグラブを引けとよく言われますが、私はグラブを止めろと言います。投球時のスローモーションを見ればわかりますが、ピッチャーの腕は最終的に絶対内から外へ捻転します。グラブを引いてしまうとこの捻転が効かなくなる。つまり、ボールにキレがなくなる。この捻転を自然な形で生かすにはグラブを止める=ブロックするのです」

 百聞は一見にしかず。ブロックできていると写真2のようになる。他にも効果はある。まずよく言われる身体の開きが抑えられる。

写真3.正しくないブロック

 写真3が良くない例だ。次に下半身から伝わってきた力が外に逃げず内にせき止められる。かつ、上半身の横のブレが抑えられるぶん、安定したストライクゾーンへの投球が可能となる。

「グラブを止めると、自然と腕が前に出てくる感覚が得られるはずです。つまり、腕を“振る”のではなく“振られる”感じになる。無理がないのでケガのリスクも減ります。また身体の自然な動きに忠実になっていますから投球が安定する。

 リリースというのは、意識してするものではありません。本来、動きの中で勝手にボールが離れていくもの。ですからブロックができていさえすれば、方向性を間違えなければ勝手にストライクが入るはずです」

写真4.バットを持ってグラブをはめる側の手を止めたまま腕を振る練習から始めよう

 とはいえ簡単に習得できるものではない。小松投手は習得まで3~4カ月、池田投手も1年ほどを要したという。しかし小松投手は言う。

「大学から投手一本にしぼったのですが、コーチから新しいフォームを教えてもらってそれが身についたから1年から結果が出たのだと思います」
その効果はてきめんらしい。

「最初はバットを持ってグラブをはめる側の手を止めたまま腕を振る練習から始めるのがいいと思います(写真4)。これでグラブを固定する感覚を覚えながらネットスローを繰り返すのです。できてくると、まず腕の位置が自然になる。よく最初から肘を上げろと言いますが、上げている時点で無理が生じている。できるようになれば投げに行く瞬間に自然と肘があがります。あと、右のオーバースローならやや左に身体が傾くようになります」

3.切り返し

写真5.切り替えしの動作

「ピッチャーが足を上げキャッチャーに投げようと始動しだした時の左肩と右肩の位置。これが投げ終わった後、逆の肩に入れ替わっているイメージです。つまり左肩の位置に右肩が、右肩の位置に左肩がくる。これを“切り返し”と呼んでいます」

 投げ終わった後の両肩のラインの延長線上にキャッチャーがいれば、ストライクが入る論理になる。
「例えば右ピッチャーなら最初は右肩が後ろ、左肩が前になる(写真5)。それが投げ終わった後、左肩が後ろ、右肩が前になります。その左肩と右肩を結ぶ線の先にキャッチャーがいるかどうか(写真6)」

写真6.投げ終わった後、左肩が後ろ、右肩が前になる

 軸足の踵を安定させ、グラブをブロックし、切り返しを行うと、投球にかかる力が全て内に凝縮されるような感覚を得られるはずだ。無駄な力を浪費することなく、自然な動きでコントロールを安定させる。極めて論理的なストライクの入れ方と言うことができる。

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夏、勝てる投手になるためのプロセス
[page_break:「小川さんの練習に鳥肌が立った」]

「小川さんの練習に鳥肌が立った」

小松貴志投手(創価大)

 基本は3つといえど、これらの論理から逆算していくと、細かな動きに至るまでチェック項目が出てくる。キャッチボールもそのひとつ。
「私は、基本的に立ち投げまでは投げ終わった後に軸足を上げる必要はないと思っています。キャッチボールの時も、軸足は引きずるだけで上げない(先の写真6を参照)。なぜ軸足が上がるのかといったら、それは腕を振ろうとしているからです」

 たしかに、佐藤コーチの理論に基づけば、特に遠投をする際に軸足が上がることはないはずだ。
さらに突き詰めていけば体幹トレーニングや股関節の可動域を広げていくことによって、よりピッチャーとしての潜在能力を引き出していくことができる。
「ただ、そこから先は個々の努力と考え次第になってきます。自分もそこそこ真面目でしたけど(笑)、今の選手は真面目です。自分たちでできる子たちがそろっているんですよ」

 なぜ自分たちでできるのか。
「全国でも上に行ける雰囲気が出てきたのは八木の代あたりから。その後大塚、小川、そして今の小松、田中というラインができてきた」

と分析するのは岸 雅司監督。つまり、プロに行く先輩たちをお手本に後輩たちが成長していくサイクルができているというのだ。

「僕が1年の時に4年に小川さんがいて。1年間いっしょにやらさせていただいたのですが、練習を見ていて鳥肌が立った」
というのは現在のエース、小松 貴志投手だ。コントロールと変化球のキレ、そして緩急を加えたピッチングで打者を翻弄するタイプ。1年秋から先発を任され4勝をあげた右腕は着実に成長を遂げてきた。最終学年となった今シーズンは「誰よりも負けない練習量を積んで、後輩にその背中を見せたい」と意識が高い。

 しかし、一筋縄ではないとはいえ、もはや常勝というイメージの東京新大学野球において、モチベーションを維持するのは難しくないのか。その問いに対し、小松投手は目先を見ていなかった。
「小川さんを超えたい、ずっとそう思ってここまでやってきました。あの方の存在がなかったら今の自分があるかもわかりません」

 偉大な先輩がいるから目標がブレない。また、プロで活躍する具体的な基準が見えているから一心不乱に打ち込むことができる、ともいえる。

「1年からベンチ入りさせてもらっていたので、小川さんとも話をさせていただく機会に恵まれていました。何を質問してもすぐに答えがかえってきました。練習を見ていて鳥肌が立ったというのはその意識の高さですね。たとえばキャッチボールにしても、1球1球、すべて実戦を想定されていました。たとえ短い距離であっても、丁寧に投げていて。当時の自分にはできないと思いました。これほどの人でも、いやこれほどの人だからこんなに丁寧なのかな、と」

創価大は自主練の意識が高い」と小松投手は言う。自身、練習後トレーニングジムに通い、ウエイトに集中する毎日。しかし、それが特別なことだとは思わない。むしろ当然という空気ができているのだ。

「全体練習後、そのままグラウンドでやる選手もいれば室内でウエイトをする選手もいたり。夕ご飯までだったり、遅い人だと夜の10時ぐらいまでやっている人もいます。その土壌はプロに行った方々の自主性が伝統となって受け継がれてできたのではないかと思います」

 いかがだろうか。投手が育つチームは、指導者が作るものではなく、選手たちが築いたものであるということが分かる。それは創価大だけではなく、甲子園を目指す球児のみなさんも一緒。今の取り組みがそのまま後輩たちにも受け継がれることを考えると、生半可な練習はできないはずだ。第2回では好投手のメンタルについて迫っていく。

(文・伊藤 亮

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夏、勝てる投手になるためのプロセス

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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