関西国際大学【後編】「投手陣全員に目を配ることがチーム力アップとなる」
前編では、野村 昌裕コーチにまだ未完成の投手の育成法についてお話を伺った。後編では投手の方ならば思わず試したくなるランニングメニューを紹介!かなり苦しいけれど、タメになるランニングメニューです。またなぜ関西国際大が好投手を輩出しつづけるのか、その理由にも迫りました。
インターバルを重視したランニングメニューを組む理由
投手陣のキャッチボールを見る野村昌裕投手コーチ(関西国際大野球部)
「うちのチームではインターバル形式のランニングメニューを大事にしています」
ピッチャーにとって必須ともいえるランニングに関する考え方を訊ねたところ、野村 昌裕コーチからはそんな答えが返ってきた。
「よくやるのが50メートルを1分で3往復するシャトルランなのですが、1セット終わるごとに3分の休憩を入れてから次のセットをスタートする。このメニューの大きな目的はピッチャーにとって必要な回復力の養成なんです」
投手はマウンドで1イニング投げ、味方の攻撃中にベンチで休憩し、再びマウンドへ向かうという繰り返し。味方の攻撃時にどれだけ回復できるかが投手としての結果を大きく左右する、という野村コーチの持論をもとに組まれたメニューだ。
関西国際大では下記のランニングメニューを一年を通し、定期的に行っているという。
●ポール間走(通称PP)
●50メートル×3往復を1分で走るシャトルラン
●80メートル×1往復を30秒で走るシャトルラン
●短距離ダッシュ(10~20メートル中心)
●5キロ走(ゆったりしたスピードで。強化ではなく調整目的)
「インターバルを入れることで、回復力アップと下半身強化がセットで手に入る。高校球児は連戦が続いたりしますし、このインターバルを意識した走り込みはお薦めです」と野村コーチ。
今季、著しい成長を遂げている吉本 純也投手(3年)は「正直、ものすごくきついです。でもこの走り込みがあったから今の自分がある」と証言した。
「高校の時も走り込みはやっていましたが、今思うと長距離を走ることが多かった。関西国際大に来てからは、長距離走は長くても5キロ程度。インターバルを入れながらの中距離走や短距離走がほとんどですが、このやり方の方が投手としての結果に結びつきやすいという実感はあります。現役の高校球児にもお薦めしたいやり方です」
勝てる投手の条件とは
フォームについて指導する野村昌裕投手コーチ(関西国際大野球部)
野村コーチに「勝てる投手の条件」を訊ねたところ「バランスのとれた投手」という答えが返ってきた。
「ただ投げるだけではなく、クイックモーション、フィールディング、けん制に長けていることは必須条件。視野が広く、いろんなところに神経も配れる。そういったバランスのとれた投手がやはり勝利を呼び込んでいける存在になっていくのだと思う」
大学の全国大会レベルで通用するための具体的な条件として野村コーチが挙げたのが『いつでもストライクが取れ、かつ空振りが奪える変化球をひとつ持っていること』
「大学ではひとつで十分通用します。あとはハート。強い気持ちでバッターに向かっていくことが大事」
練習では素晴らしい球を投げるが、試合では思うような球が投げられなくなる投手を通称「ブルペンエース」と呼ぶが、野村コーチによれば関西国際大にもブルペンエースは毎年のように存在するという。彼らに対し、野村コーチはどのようなアプローチを行っているのだろうか。
「結局、投げる前から結果を気にしてしまってるんです。『打たれたらどうしよう』『フォアボールを出したらどうしよう』といった具合に。だから私は『ピッチャーの責任は指先からボールが離れるまでだから。練習でやってきたとおりにボールを離すことだけ考えなさい。投げながら打たれるかどうかを考えるなんて、ピッチングに全力を尽くしているとは言えない!』と伝えるようにしています。『全力を尽くしてボールを離したうえで結果が出なかったら、また練習したらいいだけの話じゃないか』と。こういうアプローチを続けることで、脱ブルペンエースが誕生したりするんです」
関西国際大を率いて13年目を迎えた鈴木 英之監督にも「勝てる投手の条件とは?」という質問をぶつけてみた。
「『バッターがどうやったら打ちにくいか』といったバッター目線を常に持ちながら投げられる投手は勝てる投手の下地を十分持っている。あとは、セットポジションに強いこと。セットで投げてもクイックモーションで投げても制球力、球威が落ちることなく、自分の思うようなボールを投げることが出来る。これは勝てる投手の絶対条件です」
関西国際大ではセットポジションに強い投手を作り上げる一環として、無死一塁からの紅白戦を頻繁に行うのだという。
インタビューの終わり際、野村コーチは言った。
「現在うちには47人の投手がいます。社会人やプロを狙っている子もいれば、大学生活で燃焼しようと決めている子もいる。試合にだって全員が出られるわけではないけど、47人全員に目を配る事は強く意識しています。最後の最後まで、投手陣ひとりひとりのレベルアップの手助けができればと思っています」
関西国際大が好投手を輩出し続けている最大の理由はこの言葉の中にあるような気がした。
(文・服部 健太郎)