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読売ジャイアンツ 阿部慎之助 選手の高校時代を教えて! 安田学園(前監督) 中根康高先生

2013.02.01

阿部慎之助 選手(読売ジャイアンツ)の高校時代を教えて! 安田学園(前監督) 中根康高先生

 日本体育大学を卒業した1981(昭和56)年に母校・安田学園の野球部監督に就任し、4年前の09年に勇退した。「安田学園高等学校野球部OB会」のホームページを覗いてみると、高校野球のOB/OGに出場資格がある「マスターズ甲子園」に関して、次のような同窓会会報が紹介されていた。

「初参加となる東京都大会では、28年間にわたり安田学園野球部の監督を務めてきた中根康高先生を『甲子園に連れて行ってあげたい!』という熱い想いを現役時代に叶えられなかった多くの教え子達が集まった。(中略)ベテランメンバーのプレーは長い年月が経っても現役時代に教わった中根先生の指導を忠実に守り、見事東京都大会を制覇。決勝戦が行なわれた神宮球場ではメンバー全員で中根先生を胴上げし、現役・OBを通じて初の甲子園出場を決めた」(2010年12月4日)

安田学園がこれまで輩出してきたプロ野球選手たち

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安田学園(前監督) 中根康高先生

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 中根康高という指導者がどれほど選手たちに慕われてきたか、このことからもよくわかる。監督に就任していた期間は28年間。その間にプロ野球に送り込んだ選手は次の4人。

 橋上 秀樹(捕手・83年ヤクルトドラフト3位)
 幸田 正広(内野手・88年ヤクルト4位)
 岸川 登俊(投手・東京ガス・94年ロッテ6位)
 阿部慎之助(捕手・中央大・00年巨人1位)

この中で何と言っても光るのは阿部の存在だ。昨シーズン、打率.340、本塁打27、打点104で首位打者、最多打点の二冠を獲得。さらに6年連続、7回目のベストナインに輝き、球界最高の栄誉「正力松太郎賞」には原辰徳巨人監督とともに初受賞している(原監督は3度目の受賞)。

[page_break:阿部慎之助選手の入学当初の印象]

阿部慎之助選手の入学当初の印象

▲安田学園ユニフォーム

 96年7月6日、東京学館との練習試合で、阿部は攻守において素晴らしいプレーを連発した。観戦ノートに書き残した文章をそのまま紹介しよう。

「肩の強さ、コントロールは高校生では頭抜けている。大学、社会人を入れても5本の指に入るのでは。足は遅いが、フィールディングも優れている。送球の形、地肩の強さも屈指。打は馬力で押すプルヒッター。パワーは感じるが、バットをムチのように使うしなやかなに欠ける(上体で打ちに行くため)」
 評価欄には最高評価の「☆」印がつけられていた。しかし、入学当初の印象は3年生の頃とはいささか違ったようだ。

「ミートは柔らかくうまかったんですが、飛距離は大したことがありませんでしたね。ただ、意識が他の選手とは全然違いました。阿部の同級生から聞いたんですが、入ったときからプロになりたいと言っていたようです」(中根康高)

 入学間もない頃の比較をすれば、たとえば橋上はこれがちょっと前まで中学生だったのか、というような凄い体格をしていたが、阿部にはそこまでの迫力はなかったという。

 中学時代はそれほど、知られた選手ではなかったらしい。捕手と三塁を兼任し、進学を希望したのは都内の他の私立校だった。しかし、受験に失敗し、二次募集があった安田学園に急遽舵を切って、入学にこぎ着けた。
「夏の大会に間に合わせるにはサードのほうが手っ取り早かったんで、サードをセカンドにして阿部をサードに入れました。肩はよく、ゴロ捕りの感覚もまあまあだったんですが、それ以上に勘がよかった。6番を打たせ、ベスト4まで行きました」

[page_break:阿部慎之助選手の強打を語るエピソード]

阿部慎之助選手の強打を語るエピソード

▲高校時代の阿部選手を懐かしむ中根氏

 高校入学したての阿部が彷彿としてくる話がある。

 捕手になったのは新チームになった1年秋から。練習態度は真面目で、全体練習が終わったあとの個人練習はいつも最後まで残ってやっていたという。ただし、捕手としては手がかかった。
「このケースはこうしなさい、ああしなさいと教えました。ピッチャーがよくなかったのでキャッチャーのリードがチームの命運を左右するチームだったんです」
 どういうリードをする選手だったんですかと聞くと、一般論と断った上で「自分が変化球を打てないと相手もそうだと思って変化球を投げさせるじゃないですか」と笑った。

 ウエイトトレーニングには当時から「日本一やっているチーム」と胸を張る。筋肉を付けるというよりケガの防止を目的にトレーナーをつけて週4日、飽きのこないようなメニューでシーズン中も取り入れていた。「走り込みはそんなにやりませんでした。陸上部じゃないんで」と笑う。
 阿部に話を戻すと、1年のときには大したことがなかったパワーが3年になると大変なことになっていた。
 鎌ヶ谷にある専用グラウンド(両翼92メートル、中堅100メートル)には打球が場外に飛び出さないよう外野に8メートルのネットがあったが、阿部の打球はしばしばそのネットの上を通り越して場外に飛び出したので、高さを2メートル追加した。

▲安田学園はこの春、初の甲子園へ

 日本体育大の先輩、本多利治氏が率いる春日部共栄高校との練習試合でも特大の一発を放って驚かせた。
春日部共栄グラウンドのライトの向うにはゴルフの練習場があるんですが、そのネットに突き刺さりましたから。本多先生から『あそこまで飛ばした奴いないぞ』と言われました」

 同じ日本体育大OB、熊澤光監督(現川越工業高校監督)率いる坂戸西高校と練習したときは、打たれたことがないという佐藤充(坂戸西→日本体育大→日本生命→中日)のフォークボールをホームランにしたこともある。あまりの飛距離に練習では竹バットで打たせていたほどだ。

「先にプロへ行った橋上、幸田、岸川に共通するのは意識の高さです。スカウトが練習を見に訪れることが多くなるたびに意識が高くなり、うまくなっていきました。でも阿部は入学したときから意識が高かった。そのへんが普通じゃなかったんでしょうね」
 プロ行くのならインコースを打てないとダメだぞ、と内角打ちをアドバイスしたこともたびたびある。上へ行きたいという生徒の向上心に水を差さず、親身になって耳を傾け、手を貸す。中根康高の教育身上がよく伝わってくる。

 3月22日から行われる選抜大会は、中根から監督を引き継いだ森泉弘監督によって初出場がもたらされた。このチームに対する印象を聞くと、
「目立った選手はいないんですが、ピンチになると相手のバッターが打った打球が不思議と平凡なフライになったり、内野手の正面を突くゴロになったりする。不思議なチームです」と客観的に持ち味を分析してくれた。

 最後に阿部慎之助選手に対する思いを聞いてみた。
「巨人に入団した頃、投手に返球が返せない、二塁にボールを投げるときサイドスローになっていた、と聞きました。イップスですね。そういうのを経てWBCで中心になるくらい成長したんですから嬉しいです。志を高く持つということがこれほど選手の成長を促すのかと痛感しています」
 今後も、阿部慎之助選手は、さらに大きな活躍をみせてくれるだろう。

 (文・小関順二

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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