東海大北海道【後編】「自分を知ることで、自分に合った個人練習を見つけられる」
前編ではドラフト候補として注目される水野滉也投手のトレーニング法を紹介した。後編では水野投手と二枚看板を組む、山根大幸投手と主砲として注目される伊藤 諄選手の取り組む個人練習に迫った。
股関節、動的ストレッチでパフォーマンスを高めた山根大幸投手
≪山根 大幸≫
水野とともに投手の2枚看板である山根の大学生活は、ケガとの戦いから始まった。高校時代から痛めていた右ひじを1年春のシーズンが終わった直後に手術。約1年間のリハビリを経て、復帰したのは2年の秋だった。「高校の頃からずっとスピードにこだわっていたんです。リハビリ中はとにかく体を大きくして、復帰したらもっと速い球を投げられるようにと思っていました」とウエイトトレーニングと食事で、入学時70キロだった体重を1年間で90キロにまでアップさせた。
ところがせっかく投げられるようになったのに、体は思うように動かない。それどころか思った以上に肩、ひじへの負担は大きく、ひざや足首にも痛みが出てしまった。そこからコーチや高校時代の恩師に相談し、ようやく自分に一番合ったトレーニング法を見つけ出した。「いろんなことに挑戦しました。最終的には関節の可動域を上げることが一番自分には合っていた」と、個人練習では特に肩甲骨と股関節を意識した動的ストレッチに多くの時間を割いている。
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肩甲骨1
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肩甲骨2
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股関節1
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股関節2
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肩甲骨1
肩甲骨2
股関節1
股関節2
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肩甲骨と股関節を柔らかく使えるようになったことで、ケガに悩まされることがなくなった。これまではいつもどこかを気にしながら投げているのが当たり前だった。痛みの出ない投げ方を探すことばかりに労力を費やしていたのが、自分が納得いく球を投げるためのフォームづくりに専念できるようになったことが、何より大きい。「個人練習は、自分に合った練習を見つけるための時間です」と、気が付けば体重も81キロまで絞り込めていた。
今ではストレッチとともに必ず行うのが、シャドーピッチング。腕の軌道を確認しやすくするため、専用のスティックを持ってやるのが日課となっている。「実は今年の春は、腕の位置をどこにするか考えているうちにリーグ戦に入ってしまいました。それで前半はちょっと調子が上がらなかった。ようやくいい感じになってきました」と、投球動作の中で力を抜くタイミングをつくれるようにもなってきた。
ブルペンでも気が付けばすぐにビデオを撮ってもらい、フォームを確認する。これまでは細かいところまでチェックしすぎて、かえって深みにはまることも多かったが、最近では「良くなかった日は、良くなかったということを確認できればそれでいい。あんまり考えすぎないようにしています」と、気持ちにも余裕が出てきた。
「体のケアをすることも大事な練習。上のレベルでやろうとするなら、ケガをしない体をつくることが大事だと思います」と、メンテナンスの重要性を改めて強調した。
主砲が取り組む個人練習はジャグリング!?その意図とは?
伊藤 諄選手のボールジャグリング
≪伊藤 諄≫
1年春から4番を任され、ベストナインにも4度選出されている主砲の個人練習は、かなりユニークだ。打席での集中力を養うため、伊藤が取り組んでいるのは、なんとジャグリング。「高校時代に集中力をつけるためのいいトレーニング方法がないか、動画を検索していたらジャグリングを見つけたんです。みんなからは遊んでいるようにみられるんですけど、自分は結構真剣にやっているんですよ」と、人懐っこい顔をほころばせた。
187センチ93キロの堂々たる体格とは裏腹に、3つのボールを起用に操る。スピードを変えたり、高さを変えたりと、見事なパフォーマンスを披露してくれた。「少しでも気持ちがブレると失敗してしまう。肩の力を抜いて、気持ちを一定にしておかないと続けられないんです」と普段は3球でやることが多いが、より集中したい時やオフシーズンには4球でチャレンジすることもある。試合前のベンチ裏ではもちろん、打撃練習の前にも行い、集中力を高めてからバットを握る。
1年生の時は配球を読んだり、細かいフォームを気にすることなく「来た球を打つ」というシンプルな意識でも、ある程度結果はついてきた。それでも学年が上がるにつれて、相手も研究してくるようになると、フォームを崩されることが多くなった。「ボール球に手を出すことが多くなりました。ポイントも前になりすぎて、体が突っ込んで、ボールが待てなくなってしまいました」と、3年春の開幕前には極度のスランプにも陥った。
この状況を打開するため試行錯誤を繰り返し、出した結論は「トップ」をしっかり作ること。トップが決まれば余裕を持ってボールを待つことができる。そのための練習法が、バットを逆手で持ってスイングすることだった。左手が右手の上にあることで、テイクバックした時に意識することなく理想の位置でトップを作ることができる。この感覚を徹底的に体に覚え込ませるために、ティー打撃も逆手で行っている。
さらには手首をこねるクセを矯正するために取り入れたのがゴルフスイング。「スイングの軌道を意識しながら、最後まで真っ直ぐに振り抜くイメージ」で、手首が自然に返る感覚を身に付けていった。イメージ通りのスイングになってくると、ボールをセットして、本当のゴルフのように打つこともある。「手首が返りすぎると、ボールが真っ直ぐ転がっていかないんです。ボールの転がる方向でスイングを確認しています」と独特の練習法を説明した。
一見、どの練習法も遊んでいるように見えてしまうが、そこはしっかりと結果で周囲を納得させている。今春のリーグ戦では打率.441。誰にも文句を言わせない数字を残してみせた。「でも打点が少なかった。秋は最低でも2ケタの打点と、より多くの勝利打点を挙げてチームに貢献したい」と伊藤。ベンチ裏でジャグリングをしてから、ネクストバッターズサークルでゴルフスイング、打席に入る直前に逆手でスイングする一連のルーティンで、不動の4番は最後のシーズンも打ちまくる。
(取材・文=京田 剛)
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