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「体を大きくするために大切なこと」石川裕治先生(下)

2011.12.01

「体を大きくするために大切なこと」 石川整骨院 石川裕治先生(下)

「マッサージで体を大きく」 石川整骨院 石川裕治先生(下)2011年12月01日

由規投手の姿勢がカッコイイ理由とボールが速い理由

■座る姿勢、立つ姿勢

 石川先生のもとに、由規投手が通っているという話は最初にした通り。由規投手が高校2年だった2006年夏の宮城大会決勝で延長15回引き分け再試合の時も献身的にケアをした。

 延長15回を投げきったその夜も、70キロある治療ベッドをトラックに積んで運んでもらい、由規投手の自宅を訪問。

 翌日の再試合に備えて、いつもの筋肉の質を改善する特殊な治療を施した。疲労を最小限に抑えて、翌日の再試合に登板。東北に6-2で勝ち、甲子園へ。

 翌2007年夏の甲子園では、甲子園最速の155キロをマーク。中田翔(現日本ハム、当時大阪桐蔭)、唐川侑己(現ロッテ、当時成田)とともに「高校BIG3」と呼ばれ、ドラフトでは5球団が1位指名して競合するほどに成長した。

「由規が仙台育英に入学する時に約束したことがありました」と石川先生。

Q.どんな約束だったのだろうか?

「授業をしっかり受けなさい」ではない。授業中は、ほとんどが教室で椅子に座っている状態だろう。答えは、「四六時中、座っている時も立っている時もきちっと骨盤を立てて、その上に背骨を乗せなさい」。

「高校に入ったらとにかく姿勢をきちっとして、座骨を立てて背筋を伸ばすように。これは腸腰筋を常に伸ばして使う方法です。立っている時も同じことが言えます。四六時中、そうしなさいと。それをしなければ、もうここ出入り禁止にするよって言ったんです」。

 石川先生もそれくらいの覚悟を持っての提案だった。

「だから、いつもやっていました。彼、マウンド上での姿がかっこよかったでしょう。マウンド上での立ち姿がよかった」。
授業中、ずっと見張っているわけではないが、やらなければ、体の変化で見抜くことができるという。ずっと姿勢を正していたからこその立ち姿だった。

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【図29】骨盤を立てた正しい姿勢

【図30】骨盤を立てた正しい姿勢

【図31】骨盤が寝てしまっている悪い姿勢

【図32】骨盤が寝てしまっている悪い姿勢

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「座骨を立てるというのは、腸腰筋がストレッチした状態なんですよ。伸ばされた状態。座骨を寝せてしまうと、短くなってしまう。これがひどい人は、中が短くなるから表面のアウターの腹筋や腹斜筋が短く使ってしまいます。そのため、おなかが出たりとかそれがひどくなると、背中が丸くなり体重が後ろに引っ張られた状態になります」

Q.では、体育座りはいいでしょうか?ダメでしょうか?

 体育座りをして、骨盤が立つだろうか?骨盤は絶対に寝ている状態だ。ミーティングでの長時間の体育座りはお薦めできない。

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由規投手はベンチプレスを50キロしか上げられなかった!?

「由規は高校時代、ベンチプレスを50キロも上げられなかったんですよ。みんなに笑われるくらいのベンチプレスに対する筋力だったんです」

 意外や意外。150キロを越える速球を投げる由規投手の筋力は、そんなものだったのだろうか?

「速く投げる秘訣の1つに、腕力にたよらなくても、腸腰筋の働きをしっかり良くし、胴体のしなりを使えることがあります。由規はたまたまできる環境にあったからそうだったけど、ウエートトレーニングの考え方も「ウエートトレーニングでの筋力に頼らず、動作の中で筋出力をアップした方が良い」とアドバイスしました。

 たまたまウエートトレーニングをする時があったみたいだったけど、ベンチプレスを50キロも上げられなかった。筋力はなかったかもしれないけれど、野球で投げるための筋出力は大きかったんですね。
勘違いしちゃダメなのは、筋力がいくらアップしても、野球のための動作の筋出力がアップしなければ、結局、パフォーマンスをアップすることはできない」

 大切なのは、動作に対する筋出力。
 『投げる筋出力。走る筋出力。打つ筋出力』

「地面をちゃんと足で踏みしめて、その力を膝、股関節、背骨、肩、肘を通り、力を指先まで伝えるわけです。途中でロスなく力を伝えるためには、硬いところがあったらダメなんですよ」

 ロスする可能性が高い部分は、股関節周りと背中だとういう。

「重力下において、体を支える筋肉を抗重力筋(こうじゅうりょくきん)といいますが、全身に対しての総量は多くを占めます。抗重力筋が柔らかく使えれば、しなやかな力感のある動きを表現することができるんです。

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筋肉が大きくなるということ

 ウエートトレーニングをして鍛えれば、筋肉は大きくなるだろう。しかし、それは、先に述べられたように「鎧筋肉」になる可能性が高い。

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【図33】

【図34】

【図35】

【図36】

【図37】

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「一応、筋肉(図33)。全部、筋肉がそろっている状態で、伸び縮みしますよね。本来は最大限に収縮して、最大限に伸びればいい筋肉です。これが何かの原因で故障しましたと。こういう筋肉(図34、黄色)が出てきましたと。そしたら、これに合わせた動きになるから(図35)これだけの筋肉の総量があっても結局、筋出力は低下しますよ。伸びもしない縮みもしない。こういう状態でウエートをしたらどうなりますか?
今度、これが紐状になりましたと(図36、茶色)。」

「こんな状態だとバチーンと切れますよ(図37)。 筋環境を良くして正しい使い方をすると、血管系の流れがよくなります。自然に末端までの血流はよくなってくるので。当然のことながら、より多くの栄養物を運んでくることになります。より多くの栄養物が運ばれてくれば、死滅する細胞に対して再生する細胞が多くなります。結果的にはたんぱくの合成が効率的に行われ、筋肥大も期待できます」


寝ている時も要注意!?

「寝る子は育つといいますが、これは生理学的にも立証されています。まず、筋肉の環境が良い(筋肉が深部から柔らかい状態)ということは、自律神経への働きも良いということです。試合とか練習は戦闘モードで交感神経が優位な状態といえます。逆に、リラックスしている時は交感神経よりも副交感神経が優位になります。この時に血管が拡張して各組織に血液を送り込むことができるということです。

 筋環境がよければ、寝る時にもよりリラックスモードに入りやすく眠りも深く、各組織に栄養を送り込むことができます。結果、栄養状態が良くなった分、育つということだと思います。筋肉が柔らかいと成長ホルモンも出やすいと聞いたこともあります。

 リラックスモードにして睡眠を取ること。これが上手い選手というのは、短時間で熟睡できる。睡眠時間じゃなくて、熟睡できるかどうか、これが大事です。

 そこで、1人で行うメディカルチェックです。朝、起きた時の状況を知りましょう。朝一番に、起きた時にむくんでいるとか、痛いとか、張っているとか。例えば、起きてすぐにかかとが痛くて足をつけないとか、肘もなかなか伸びにくいとか、本来ならば、安静にしているから痛みはないはずなのに、朝、起きて、痛いということはどういうことでしょうか?

 血圧が日中動いている時よりも夜に寝ている時の方が低い状態になっています。筋肉が硬い人は、結果的に組織の循環が悪いところは血液が送り込みにくく、静脈血も戻りにくくなってきます。そのために、筋肉がより収縮してしまい、朝起きたときには疲労物質がたまり、痛みを出す物質が産生されます。
 ただし、少々のところであれば、ちょっと動いただけで血流改善が起こり、それで痛みがなくなるために、本当の状態が分からなくなってしまいます。1つのメディカルチェックとして、朝一番に起きた時に痛みがあるのは完全に治療の範囲内で、ちょっと重いとかむくんでいるとかという時は、そこの場所を見極めて、ストレッチないし、ダイレクトストレッチ(直接圧迫)をするのが大事。

 寝相が悪いのも筋肉が硬い証拠です。自分で体勢を変えて、防御的にストレッチをしている。最悪なのは、片足を開いて、ガマガエルみたいに寝ている人は、完全に故障しますよというサイン。腰痛を起こしますよ」


体のベース

「サプリメントがいろいろと出ていますよね。どんなに良い物をとっても、よい筋環境がなければ、細胞まで目的の物質が行き渡りません。もったいないですよね~。

 良いと言われるサプリがありますが、どんなに良い物があっても、血流改善とか睡眠とか筋肉を柔らかくするとかいう簡単な話が抜けているから、結果的にはムダになってしまうことがあるかもしれません。経済効果は良くなるかもしれません!!

 確かに良い物を摂取するのは大事だと思いますが、ベースをしっかり作っていれば、普通の食事をして、自己管理をしっかりしていれば、十分に良い体になると思います。

 ウエートトレーニングも過密にしなくても、練習の中で体を鍛えることを考えてサポート的にウエートをやるくらいで良いような感じがします。

 私のところに来ているプロ野球選手に「一生懸命、ウエートやったんですか?」と聞いたら「一生懸命、やったことはない」という選手が多い。ただし、プロに入って、一生懸命やらなければならない時に持ちこたえられるだけの循環のよい柔らかくモチモチした筋肉の容量がないと結果的にはつぶれますよ、と。そういう筋肉の容量のある体にしておくのは大事。容量がない体の人はどんどん、どんどん疲労がたまって熟睡もできなくなり、良い物をとっても吸収されにくくなり、硬い筋肉を作って、疲労が残って、そのまま練習して、また疲労がたまってという悪循環に陥ります。

 昔はよかったのにという選手で、力が出せなくなる選手がいます。良い筋肉だったのかもしれませんが、自己管理をおろそかにするために持っている容量の『使いべらし』放出するだけの活動をするために容量がなくなって力が出せなくなると思います。

 継続的に血液を送り込めることのできる深部から柔らかい筋肉が大事です。これが、全身そうだったらどうでしょうか?」


自分たちで出来る!筋肉の質をよくする方法

 筋肉の質の大切さが見えてきただろうか。でも、話を聞いただけで筋肉の質が改善されるわけではない。そこで、1人で、または選手同士でもできる方法を伺った。1つは、何度も出てきた「ダイレクト(直接的な)ストレッチ」だ。

「筋肉を適切に圧迫して、そこの筋肉の循環をよくする。血液が巡ってきたかどうかというのを判断する1つの方法ですが、「指麻酔」という方法があります。その場所を、ずーっと同じ圧力で、2、30秒くらい押さえるんですね。そしたら、だんだん痛みを感じなくなってきます。そこだけ、穴が開いたようにぼこっと凹んでくるんですよ。圧を感じることによって、脳の中でそこに血液を送り込みなさいという作用が生じるので、血液が巡ってきたら筋肉が柔らかくなり、柔軟性を生じてくる。それをつなげていったらいいわけですよね」

 その方法の1つに「ボール体操」がある。(ボール体操に関しては、後日、公開予定)

「当たり前のことなんだけど、筋肉の血液循環をよくする方法ですよね。循環をよくして、筋肉の状況がよくなれば、当然、感覚もよくなって、感覚のいい筋肉で使えば、筋出力も大きくなり、筋出力が大きくなれば、どんどん発達する。そういうスパイラルですよね。
関節をを曲げたり伸ばしたりするのは、間接的ストレッチ。ダイレクト(直接的)ストレッチは手でもんであげるということ。一番、簡単なのはね、餅をこねるようにうまく揉んであげるといいんですよね。その後に間接的ストレッチも、この様にしてあげれば効果的です」

【ダイレクトストレッチ】

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【図41】大腿部前面

【図42】下腿部前面(スネ)

【図43】大腿部後面(主にハムストリング)

【図44】下腿部後面(ふくらはぎ)

【図45】臀部(おしり)

【図46】背部(背中)

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★ポイント:骨の上を転がすように、餅をこねるように。パン粉、うどん粉、そば粉とかをこねるイメージで、手のひらでいいですから。下手に指でやる(図47)よりも故障がないんですよ。おしりも一緒。背中も一緒。指で押すと嫌になってきますよね。本当に餅こねるイメージ。この背骨の上で、肋骨の上で餅こねるように。
肘も前腕も、これだったら絶対に故障ないですから。その代わり注意、指を立てない。手のひらで。これだけで効果でると思いますよ。


石川先生から球児へメッセージ「みんな可能性がある!」

石川裕治先生(石川整骨院・院長)

「みんな、可能性があるんですよ。潜在的なものを持っていながら、使っていない選手がほとんどなんですよ。元々の持っているものをうまく引き出し、全部の筋肉を総動員させれば、潜在能力のかなりのものを発揮することができる。力がないとかって嘆いているんじゃなくて、眠っている筋肉を動員させることによって、変わってくるんですよ」

 脳からの指令が正しく伝わる柔らかい筋肉にするのが大切。

「そしたら、正しい使い方をする限り、何やってもよくなるんですよ。ウエートトレーニングをやろうが、死ぬほど練習しようが、いい循環があって、良い筋肉があれば、良い練習ができる。どんどん筋肉の質もよくなるし、感覚も感性もよくなる。

 筋肉が良くなれば、自律神経の反応で精神的なもの(プレッシャーに強くなる)にもよくなります。たまたま、それで練習して上手くなった選手っていうのは、筋環境がよく、様々な条件がそろった状態だったから活躍する選手になったということです。だから、可能性はある。

 硬いからとか力が出ないとか、バッティングでボールが飛ばないとか、遠投力がないとか強いボールを投げられないからということで嘆いていないで、自己管理能力を確立し、根本的に深部から表面までの筋肉を柔らかくする方法と正しい足のつき方、体の使い方を身に付ければ良いと思います。

 トレーニングで筋肉を大きくしたところで鎧の筋肉を付けてはダメですよ。胴体の軸、足の軸をちゃんと作って、筋肉を柔らかくして、その軸の周りにしなやかで強い筋肉をつけていくという形にすればいいんです。体幹・コアを鍛えるっていうでしょ。軸に巻きつけるような柔らかい筋肉を作ることが大事だと思いますよ。
 スタビリティー(安定性)、スタビライズ(安定移動)という言葉があります。膝の例をあげてみますが、膝を鍛えると、スクワット、レッグエクステンション、レッグカール、ランジtecというトレーニング法が一般的になりますが、良い条件がそろえば、イメージで生ゴムの様な筋肉、悪い条件がそろえば、車のタイヤのゴムの様な硬い筋肉になります。

 どちらも強い筋肉には変わりありませんが、柔らかい方はスタビリティーもよくスタビライズも出来る関節になります。硬い筋肉はスタビリティーの悪いスタビライズできにくい関節になります。半月板を痛めるプレーヤーは絶対的に後者と言えます。強い筋肉でも、硬い索状になるとスタビライズできない分、関節部分に負担をかけてしまいます。

 ある実験データでは、大臀筋が硬くなり緊張すると、大臀筋と大腿筋の外側(外側広筋)は筋肉と筋肉が繋がっていますから、最大で5cmも引き上げられてしまうという結果があります。
このことを考えても、半月板を痛める選手は筋肉が硬くなると循環が悪くなり、患部の血流が悪くなるばかりか、関節の安定移動ができなくなるため、強いコンプレッシュンを受けた部分が損傷することになります。

 栄養学を勉強して体に良い物を入れる。素晴らしいなと思うけど、その受け皿がないと、もったいないですよね。ベースのベースだと思いますよ。血流改善と一般に言われているけど、一体、どういうことなのか?ということ、表面的な話が多く、体のベースの部分が抜けている様な感じがあります。

 筋肉を深部から柔らかくし、全身のリラックス状態をとり、睡眠をしっかりとる環境を作る。ストレッチも、同じことを毎日やってチェックする。例えば、前屈のストレッチを毎日やって、その違いを自分で観察し、自己管理する。1cmや2cmの違いを感じ取る。その上で正しい使い方をする。目新しいことをやって、1回、2回で良くなるようなこと、生理学的に考えて、そういう魔法は1つもありません!!

(文・高橋昌江

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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