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「体を大きくするために大切なこと」石川裕治先生(上)

2011.11.29

「マッサージで体を大きく」 石川整骨院 石川裕治先生(上)

「マッサージで体を大きく」 石川整骨院 石川裕治先生(上)2011年11月28日

□筋肉は硬いほうがいい?柔らかいほうがいい?
□足ってどこから?
□正しく立てている?
□今やっているストレッチは正解?
□ウエートトレーニングはやった方がいい?やらない方がいい?

 こんなこと、考えたことがあっただろうか。

「みんなね、可能性があるんですよ。潜在的に使える筋肉を持っていながら、そのほとんどを使えていない選手が多いんですよ」

 そう語るのは、仙台市にある石川整骨院の院長・石川裕治氏(以下、石川先生)。東北地方の大学野球の雄で、これまでプロ野球選手を40人以上輩出した東北福祉大の選手や東北高、仙台育英高はじめとした高校球児、野球少年たちも通い、ゴルフの選手も手がける。地元にプロ野球団が誕生してからは、そこの選手たちも通っている。

「昔は、未熟な治療技術だったけど、選手はよく来てくれたと思います。しばらくして、これじゃ、ダメだと思い、一切、表に出なくなったんですよ。理論的にも技術的にも理にかなった治療法、MT-MPS(筋肉の質を変化させる治療法)に出会い、技術の確立を図るために10年間、一切トレーナー活動を控えた。その10年後に由規との出会いがあり、今の技術がどれだけ通用するかすべてを提供しようと思いました」。

 石川先生にとっても、1つの挑戦だった。当事は無名の佐藤由規投手の筋肉の質を変化させるための治療。小学校6年から通い、高校入学から徹底的に治療技術を注ぎ込んだ。中学3年生の時は125キロ程度だった直球の球速は、高校1年秋で148キロ、そして、高校3年夏には155キロまでアップした。

 何故、由規投手はわずかな期間で球速が30キロ近く上がったのか。その手助けをした石川先生の「身体」に関する考えを聞いた。

 「筋肉が柔らかくなれば、個々の持っている潜在能力を思いのままに発揮する可能性が広がる」(石川先生)
 体を大きくするために必要なコトは、筋肉の質の改善にある。ウエートトレーニングをする前に、いいサプリメントを取る前に、大切なことが詰まっています。目からウロコが落ちまくること、間違いなし。


「鎧筋肉」???基本的な考え方

 今回のテーマは「体を大きく」。では、石川先生が「体を大きく」するために、必要だと考えていることは何なんだろうか?

「筋肉が硬かろうが、柔らかかろうが、スクワットをして筋肥大させなさいとか、筋肉を作りなさいと言うけど、そういう筋肉というのは、簡単に言えば俗に、鎧(よろい)筋肉。鎧を着けて、走ったら、どうなりますか?もっと言い方を悪くすれば「バカ肉」。そういうバカ肉、鎧筋肉をつけても、何のパフォーマンスアップにもなりませんよ」。

 最近、こういう考え方は徐々に浸透しているように思う。でも、実際、どうすればいいのか理解している人は少ないのではないだろうか?(鎧筋肉が付いているかどうかの判断方法は後ほど)

「まず、うちでやっている治療自体が、筋肉の質をよくして、いろんな動作に反映させることです。簡単に言ったら、筋環境をよくするという事なんですよ。筋肉を解剖学的、生理学的、運動学的に判断して、適切な刺激を与えて筋肉の環境をよくするという治療なんです」
 

■筋環境が良いって?

「簡単に言えば、リラックス時には非常にフワフワした感じで柔らかく、血液の循環が継続的に良い状態をいいます。

 よく血流がいいとか血流改善という話しがありますよね?誰でも使いますよね。それは、どこでも取り上げられている底辺にあるような話です。でも、今、世の中で言われているのは、例えば、関節がよくなったとか、骨盤が矯正されたとか、テーピングで治ったとか、サポーターをつけたらよくなったとか。その時は症状が変化しますが、根本的に何がよくなっているのかという話しなんです。

 テープを張ったり、ネックレスやブレスレットを付けたりすると、反射的に体内で何らかの生理学的反応が引きこされます。結果的には、血流が一時的に良くなる。だから、「あ、軽くなった」とか「良くなった」となるんです。一時的に症状の変化を求めるならいいですが。お風呂に入っても似たような効果だと思います。しかし比較的すぐに症状が元に戻ってしまいますよね。ネックレスや手にブレスレットのようなものを付けている選手が当院へ来て治療する姿を見ると、何か不思議に思います」。

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野球のセンスがあると言われる人の「筋環境」

■筋環境がいいとどうなる?

□筋肉の端から端まで柔らかい状態なので、最大限に収縮し、最大限に伸張する分、運動範囲が大きくしなやかで大きな力を発揮することができる。
□疲れにくい。熟睡できる。朝の目覚めがいい。
□筋肉痛になりにくく、なってもすぐによくなる。
□ウォーミングアップで早く体が出来る。
□体の心から温かい。
□怪我をしにくい。
□怪我や傷を負っても早く治る。
□肌の色艶が良い。(一流選手はキメが細かく、色白の人が多い傾向にあるみたいです)
□ストレス、プレッシャーに対して強い

「筋環境がいい選手は俗に野球センスが良いとか巧みな動きが出来るといわれる人です。よく筋肉を鍛えて強くすれば、運動の能力が上がると考えられていますが、これは、筋肉は体を動かす運動器だけの考え方です。筋肉はそれだけでなく、筋肉自体が効果器(センサー)の役割があります。センサーですから外からの情報をキャッチして脳に伝える役割があります。脳ではその情報を的確に判断して脳から末梢(筋肉、内臓、神経、血管など)の状態をコントロールします。

 筋環境が良い(簡単に言えば、深部までの筋肉が柔らかい状態)ということは、筋センサーが外からの情報を脳に的確に伝え、逆に脳から末梢の状態を良くしようという働きと、脳からの指令(考えたことを表現すること)を筋肉が忠実に守り、再現性を持って働いてくれることだということです。よく感覚がいいとか悪いとかって言うでしょう?感覚がいい人っていうのは、絶対に深部からの筋肉が柔らかいですよ。感覚がいいというのは、脳からの指令を筋肉がちゃんと忠実に再現できるからいいわけなんです」

■筋環境をよくするには?

毎日、ストレッチとマッサージをする。筋肉に故障がある人は治療が必要→自己を管理する能力がなくてはダメ。

「よく『ストレッチしなさい』というけど、これは間接的なストレッチで終わってしまっています。間接的というのは、筋肉の端と端を、張力を使って伸ばす形。もちろんストレッチにはなっているけど、筋肉は真っすぐだけの繊維じゃなくて、斜めから走ったり、ねじれたりなど、筋膜を介して中継したりしています。間接的なストレッチだけであれば、果たして伸ばされているかといったら、どうだろうか?完全となると無理があるんですよ。

 大きな筋肉の表面(大腿直筋とか)だったら、伸ばせっていったら伸ばせるでしょ。それは間違いではありませんが、「大腿直筋の内側の縁を伸ばせ」と言ったら無理が生じてきます。その様な細かいところや深部の筋肉をしっかりと伸ばすためには、直接的に伸ばすダイレクトストレッチが必要になります。筋肉を直接、押さえるということは、さらにテンションを上げるから、これがダイレクトなストレッチになります。押さえるということは、ストレッチという意味もあるんですよ。筋肉の張力をプレスすることでさらに上げるわけですから、伸ばせるんですよ」

■筋環境が悪い筋肉って?

全体的にリラックス時にも硬く、ガチガチの状態で血液が末端まで運ばれにくい状態。「いわば、硬い筋肉ですから動きが硬い直線的な動きになるんです」と石川先生。

□筋肉痛になりやすく、戻りにくい。
□疲れやすく怪我もしやすい。
□寒がり。
□ウォーミングアップで体が仕上がりにくく、あめやすい。
□熟睡できない。
□寝相が悪い。
□肌がサメハダ。
□背中の日焼けの後がマダラに焼け残る。
□シミが多い。
□怪我が治りにくい。
□くすぐったがり。
□怒りっぽい

 身体や筋肉に対する考え方がちょっと、変わってきたのではないだろうか。では、冒頭に出てきた「鎧筋肉」。自分の筋肉が、そうなのかどうか、判断する方法がある。

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「鎧筋肉」のチェック方法

Q.片足でちゃんと立てますか?

【方法1】そんなの立てるよ!とは言わずに、まずは2人1組になってほしい。実験する人の、足を上げない方の腰の横に、もう1人が手を添えて、そのままシフトせずに片足を上げられるだろうか?添えられている手に触れないようにしようとすると、フラフラしてしまわないだろうか?

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【図1】正しい立ち方

【図2】正しい片足での立ち方

【図3】腰がシフトしてしまう

【図4】上半身が傾いてしまう

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「筋肉の容量ある子は、これができなくても野球の上手い子はいますよ。ただし、ケガ予備軍。疲労が蓄積してなかなか戻らない人がほとんど」

【方法2】
仰向けになる。

「この方(【図6】)が楽っていう子、結構、いるよ。仰向けで寝た時に足が外側に開いている選手、これはもう完全に外側系の筋肉が短くなって固まっている証拠。この様な選手は、腰や肩、肘を痛めやすいタイプといえます」

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【図5】正しい状態

【図6】悪い状態

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「認識したらできますよ。でも、素になったときに外側に開く選手多い。寝る時に外側に開く選手は、かなり外側系(おしり、大腿筋、下腿筋)の筋肉が硬く短くなっている証拠。今日、松井稼頭央選手を見たら、何も言わなくても、ちゃんと正しい状態でした」

【方法3】うつぶせになる。

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【図7】正しい状態

【図8】悪い状態

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あなたの靴は大丈夫?

いきなりだが…

Q.足ってどこからでしょうか?

答えを出す前に石川先生が聞いたことがあるという道場破りの話をしてくれた。

「昔、ある有名な武術家が道場破りに行く時に、そこの道場の草履を見たそうです。草履のかかと部分、外側が減っている所は『ここはたいしたことない』と思って、破れると。逆に足の親指側とかかと部分の内から外まできれいに減っている所、ここはあなどれない、締めてかからなければと思ったそうです。
 これを筋運動学的に考えると、外側が減っているということは下肢の外側の筋肉が硬くなり、引っ張っているということ。足裏も内側を向くようになり、かかとの外ばかり着いてしまう。靴のかかとの外側部分が減っている人っていますよね?

 当然、この様な使い方をすれば体を力んで使うようになり、下からの刺激がうまく上半身から指先まで伝わりにくくなる。バットスイングでアウトサイドからインに振る選手はこのタイプと思います。内側を使えるタイプは、下からの刺激をうまく背骨まで伝わる分、体の使い方が力まずスムーズに体をコントロールできます」

Q.立つ時に体重をかける正しい場所はどこでしょうか?(詳しい解説図はページ下部をご覧ください)

「正しい位置は、内くるぶしの下から土踏まず(図9、10)脛骨で体重を乗せないといけない。それが、悪いと外くるぶしの下とかかとの外(図11)腓骨でついちゃうんです。脛骨だから骨が大きいでしょ。体重を大きな骨で受けることができるということは、無駄な筋肉を動員しなくても、いいんですよ。それが腓骨、こんな細かい骨を使って付くと、腓骨の周りの筋肉を固めて使う。すねが硬い人というのは、みんなそれです。普通、スネは硬いもんだなと思うでしょうが、一流選手はスネ肉が軟らかいですよ。松井稼頭央選手は軟らかいですね。高須洋介選手はその足のつき方をしっかり理解していて、内くるぶしの下から土踏まずに体重を乗せると、『その方がバッティング狂いません』と言っていますよ」

では、そろそろ、足はどこからか、答えが出ただろうか?


足はどこから?

【図12】みぞおちの奥

 答えは、「みぞおちの奥(図12→正面から、図13→横から、図14→下から)。大腰筋起始部の背骨の前。前から見たら、内くるぶしから下腿の内側から内転筋、股関節を通って、大腰筋の起始部。これが1本の足。それが一流。でも、みんな、股関節からというでしょう。ここからねじるのと(図15→正面から、図16→横から、図17→バットを持つと)、ここからねじる(図18→正面から、図19→横から、図20→バットを持つと)のとは違うでしょう。軸の長さが違うと、出力が違うんですよ。」

「超一流になれば、足はもっと上から(図21、図22)。横隔膜、気管、食道を通って、ここまで来るんですよ。そうすれば、首の位置も一定する。バッティングでも首の位置がズレないと、目線がブレない。目の位置で1センチ、ズレると、ミートポイントでどれだけ違うかということ。

 バッターで打席に入った時にピッチャー側の肩にあごを乗せる選手がいるでしょう?それは自分で首の位置を一定にして目線の位置を確認しているんです。ズレないようにする防御策として目の位置を一定にするためにやっているんですよ」

■分かっているようで、分かっていない!?股関節の柔らかさ

野球選手で、一流選手の証としていえることが、股関節の内旋能力の高い人だという(図23)

「よく股関節周りを柔らかくしなさい、と言うけど、それは何を柔らかくするのか。一般的には、おしり(大臀筋、中臀筋)や大腿部の前面と後面の筋肉を鍛えたり、ストレッチしたりします。しかし、その筋肉の本当の機能まで考えて動かしている選手は少ないと思います。」

【図25】横から見た正しい姿勢

 内転筋が伸ばされる方向というのは、股関節を外転内旋(外側に開き、内側にねじる)、それで伸ばせるんですよ。それが短くなるということは、膝が開いて腰の位置がどんどん低くなります。短くなって固定されたら、こうなりますよね(図26、24→前から見た正しい姿勢、図25→横から見た正しい姿勢)。

 内転筋の中で考えたらそうですけど、今度、腸腰筋も臀筋も短くなってくると、骨盤が後傾してきます(図27)。さらに臀部も同様に硬くなります。
より戻そうと思ってまっすぐにしたら出っ尻になるんですよ。こういう選手、いるでしょう(図28)。」

「これは、腸腰筋が短くなってしまっている。結果的に腰の筋肉を短く詰めて硬くしてしまっている。逆に腸腰筋を伸ばして正しい姿勢にしていこうと思ったら、背骨もちゃんと後ろにこうきて、よりよい立ち位置になる。
出っ尻でバッティングしているのは、これはあくまで出っ尻で体を固めてやっていますから、ツボにきたら打てますけど、例えば、カーブに弱いとかテークバックやステップ時に体が流れるとかいう現象が起こります。

 ましてや内転筋も短くなると膝が開いて外を向いてしまいます。全然、力がたまっていないことになります。うまくためるということは、少ない力で多くの筋肉を総動員できるということです。少ない力で大きな作用が生まれる。腸腰筋が短くなっている人は出っ尻。腹直筋や斜腹筋がたるんでくるとお腹が出てきます」

■ところで、腸腰筋って?

大腰筋(図38)と腸骨筋(図39)の総称(図40)。

「体を大きくするために大切なこと」 石川整骨院 石川裕治先生(下)に続く

(文・高橋昌江

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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