Column

「野球ノートに書いた甲子園3」取材秘話――県立佐賀北高等学校

2015.09.22

 2015年8月11日発売したシリーズ3作目「野球ノートに書いた甲子園3」。
今回はそこに掲載されている佐賀北高校の取材秘話を紹介。
巻頭を飾った佐賀北の選手と監督の「日本一、心がぶつかり合う日誌」とは。

受け継がれる伝統

野球ノート(県立佐賀北高等学校)

 2007年の夏の甲子園で優勝を果たしたことで一気にその名を全国に知られることとなった佐賀北高校。
無名の公立高校が奇跡のような試合の連続で一気に頂点まで上り詰めた夏は、多くの人の感動を呼んだ。
あれから8年――佐賀北高校に変わらず続いているものがある。

「野球ノート」だ。

 取材に訪れた2015年6月。前日から降り続いた雨の影響で佐賀北高校のグラウンドはぬかるんでいた。
さすがに屋外練習は難しいと思われたが、昼休みからはじめたグラウンド整備のおかげで、終業のチャイムが鳴るやいなや野球部員たちはグラウンドへと元気よく走っていく。

 選手が揃うと、グラウンドに一列に並び全員で黙想。ここから練習が始まる。大会まで残り一ヶ月というタイミングであるにも関わらず、走りこみ、打ち込みといった体力づくりのメニューが多くをしめるのは伝統である。

重圧、不安、焦り、そして悔しさ―――キャプテンの苦悩

 今夏の佐賀北高校は2年連続の夏の甲子園出場がかかっていた。
キャプテンの諸富 隆浩昨夏甲子園に出場したチームの4番打者。チームのなかで頭ひとつ抜けた実力を持つも、なかなか結果の出ないチームに不安を隠せないでいた。
そんな諸富の野球ノートにこんな言葉がある。5月に書かれた記述だ。

「最近全然勝てていない…100万円払ってその答えが買えるなら臓器を売ってでも買いたい。そのぐらい打開策は見つからないし、チームはどん底だと思う」

 その数日前にはこんなことを書いている。

「50日後の新聞に“前年度優勝佐賀北初戦敗退”ではなく“佐賀北夏連覇”の見出しがつくように、今やれることをやりたい。夏の初戦で負けて、先生が怒鳴り散らかして自分たちに火がついても、もうそこにもう1回はない」
諸富はチーム結成以降、つねにこうした悩みを抱えていた。

例えば1月。
「プレイヤーとして成長できていないのかもしれない。それぐらい周囲への気配りが増え常に周りを見るようになった。でもまわりは応えてくれない。常に己の中に非を探して、周りを背中で引っ張るように心がけてきたが、特に反応はない。本当に自分がくやしい。

 ああしてほしい、こうしてほしいはどんどん意見として言ってくれと言ったが、それもなく、ただ黙ってなんとなくという感じだと思う。これは自分についてきているとは感じない。
自分の足跡ではなく背中を見てほしい。“オレについてこい”と言えたらいいんだろうけど、不安で自信が小さくなっていくのが分かる。そう言えるように、もっと実力をつけようと思う」

 諸富は「キャプテン」として悩み、苦しみ、葛藤し続けていたのだ。


注目記事
・9月特集 野球ノートの活用法
・2015年秋季大会特設ページ

 『野球ノートに書いた甲子園3』 特設ページ

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[page_break:返された「野球ノート」に書いてあった監督からの言葉とは]

返された「野球ノート」に書いてあった監督からの言葉とは

指示を出す百﨑監督(県立佐賀北高等学校)

 チームメイトがついてきてくれないのは自分の力不足のせいではないか――そう思いつめていた。そんな悩みが半年以上続いていた。
キャプテンといえどもまだ高校3年生。自暴自棄になってもおかしくない。
それを食い止めてきたのは佐賀北高校の「野球ノート」の存在だった。

 監督の百﨑 敏克はこうした悩みに本音で答える。

「雄太しか分かってくれない→一人でも仲間が居る。いいことじゃないか!
たくさん心の中の不満を書いてくれたのは嬉しい、ありがとう。本当はもっともっと周りに不平を言いたいのだろう 腹立たしいのだろう。それだけお前がよくがんばっているということだな。
何しろ人に言うのは それだけ自分もしなくてはならないから勇気が必要だ。しかし雄太一人でもいい。1年生だから素直に従う…でもいい。少しずつ あせらずあきらめず プラス思考で!皆からも注意が言葉として出るようになるだろう。
(オレも時々雷を落とそう!)(時には片目をつぶってやることも必要だよ!)」

 不平、不満はときに監督の言動に及ぶこともある。それでも百﨑は正面から言葉を返す。

「それは、腹の立つこともありますよ。勢い任せにそれを書き殴ることもある。でも、それを読み返すと、ああオレも反省しなきゃいけないことがあったなと思う。結局、自分への気付きとして返ってくるんですね。それが書くことの大事さなんだと思うんですよ」
百﨑はそう言った。

心が通じる瞬間、チームはもっと強くなる

 本音のやり取りは、2007年優勝したチームにもあった。
エースの久保 貴大は感情を見せない選手だった。
不満を言うわけではない。でも、選手と心でつながっているという実感がなかった。
言葉を変えながら百﨑は久保に本音でぶつかっていく。そしてある日、野球ノートにこんな言葉が書かれていた。

「オレだって、がんばってるんです!」

 久保からの反論。百﨑は「ようやく本音を書いてくれたな、ありがとう」と書いた。
心が通じたのが嬉しかったのだ。

 その数ヵ月後――佐賀北高校は高校野球の頂点に立つ。

 佐賀北高校の野球ノートに特別な方法論はない。ふつうのキャンパスノートに思ったことを書く。それを監督に出し、監督が返す。
けれど、その内容は特別だ。書けば書くほど監督と選手の心が通じ合う。不平不満は文字となり、文字で返ってくる。すると不思議と心が通う。

 高校生にとって本音を書くことは難しい。監督からすればふた周りも歳の離れた子どもに心のうちを晒すのはもっと難しい。
でも、それができるからこそ多くの人に感動を与えるチームができあがったのだ。

<日本一、心がぶつかり合う選手と監督の本気のやり取りは「野球ノートに書いた甲子園3」でご覧ください>


注目記事
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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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