「今までの意識と行動を変えるノート」 沖縄尚学高校
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現監督の比嘉公也氏がエースナンバーを背負った1999年の全国選抜高校野球大会で、沖縄県代表として初の全国制覇を成し遂げた沖縄尚学。その9年後の2008年にも東浜巨(亜細亜大※2012年ソフトバンク1位指名)を中心としたチームで二度目の選抜大会優勝を飾った。
また今年の戦績をみても、春・夏・秋すべての公式戦で高い結果を残している。春季県大会優勝、選手権沖縄大会準優勝、新人中央大会準優勝、秋季県大会準優勝、秋季九州大会優勝。この11月に行われた明治神宮大会では、初戦の北照戦で最終回にサヨナラソロホームランを打たれての惜敗。
各地区を制してきた強豪との戦いでも簡単に崩れず、最後まで分からない試合を演じた沖縄尚学。彼らのその強さの秘密を、今回は『野球ノート』から学んでみよう。
スタートは紙きれ一枚
▲沖縄尚学野球部 比嘉公也 監督
沖縄尚学が野球ノートを始めたきっかけは、2006年6月。部員同士でトラブルがあったあとのことだ。
母校の監督に就任した比嘉公也氏が就任3か月目のことだった。
「 君らが思っていることを、何でもいいから書いてみろと。最初は紙きれ一枚のようなものから始めました」
今、子供たちが何を考えているかを知らないといけないという思いに駆られて、野球ノートを始めたという比嘉公也監督。今でも変わらないが、この野球ノートに決まりごとはない。どんなことを書いてもいいのだ。
実際に書かせてみると、意外とそこには本音が見え隠れしていた。
また続けていくうちに、1年から2年、そして3年生になるにつれ、ノートの行数も増えていくのが分かる。そこには、部員一人ひとりの成長の跡があった。
「不思議なもので、ノートの内容がしっかりとしてきたら、技術も伸びてくるんですね」(比嘉監督)
とはいえ、正直なところ中身を見たら、驚くものもいっぱいあるという。
「ノートの提出が義務だからやっている」そんな意識を持って取り組んでいる部員は、やはりレギュラーから遠い位置にいることが多い。逆に、ノートの内容に厚みがある選手ほどレギュラーであるか、またはその座に近いのだ。「ノートと技術は比例する」と、比嘉監督は話す。
好調のときこそ、野球ノートが必要
沖縄尚学ナインを代表してキャプテンの諸見里匠と、左右両輪の宇良淳、比嘉健一朗の三人に、野球ノートについて伺った。
沖縄尚学野球部 諸見里匠 主将
主将・諸見里匠
「 やっぱり1年生のときは意識が低くて、ノートも練習も”やらされている”という感じでしたが、ひとつ上の学年になり、最上級生になったときに、伸ばしていける点や課題点などが見えるようになりました 」
キャプテン就任の日の諸見里のノートには、『キャプテンは行動、声、背中でチームを引っ張ること、指導者や選手たちから信頼してもらえるようになる 』と記されている。この秋は、その言葉通り、キャプテンとしてしっかりとチームを引っ張り、秋季九州大会の優勝にも貢献した。
また、指導者に注意されたことも、毎回ノートに書き留めているという。これも、諸見里にとっては重要で、「ノートに記したことが自分の成長につながっている」と話してくれた。
沖縄尚学野球部 宇良淳 選手
投手・宇良淳の場合はこう振り返る。
「 僕は中学(西原東中学)の時から野球ノートを書いていましたが、当時は感想や反省ばかりのレベルでした。沖縄尚学に入って、例えば練習で気付いたことや、それを意識することによって自分がどう変化していったかというような具体的な内容を書くことが出来るようになりました 」
調子が悪くなったときに、以前書き留めておいたページを開いては、良かったときのことを振り返るという。比嘉監督に言われた「調子が悪いときこそ、振り返られるようなノートにしろ」とアドバイスしてもらったことを、忠実に守っている。
沖縄尚学野球部 比嘉健一朗 選手
同じく投手の比嘉健一朗は、
「悩んでいるとき、自分にしか分からない苦しみの中にいるとき、どうしたらいいか方法が見つからないともがいている時、ふと我に返って『野球ノートがあるじゃないか!』と振り返れるのがこのノートです。原点に戻れる存在です 」と語る。11月10日の比嘉のノートにはこう書かれている。
『最初は真っ直ぐも変化球も、浮いたり抜けたりして自分の思うようなボールが投げられない。これは体重移動が後ろに流れているから、リリースと体が離れて抜けていると思う。それを意識するとしっかりとコースに投げ分けられた』
こういった記述こそ、調子が悪くなった時に、「あっ、もしかしたら」という気付きを与えてくれるものになる。
さらに、三人からノートをつけることの野球でのメリットを教えてもらった。
諸見里匠
「最初は何を書いたら良いかと惑う部分はあるんですけど、書いていくうちに次の課題点や伸ばしていける部分など見直す部分が出てくるので、自分のためになります」
宇良淳
「ピッチャーは好不調の波があるんですけど、その(好不調の波)大きさをどう小さくしていくかがポイントだと思います。ノートをつけていくことで、良いときはどのような意識だったか、悪いときにはどういうふうになっていたのか。自分で理解していたことが書かれている。ノートをつけて損することはないです」
比嘉健一朗
「原点に戻るというか、自分を見つめ直す、自分をより良くするために、ノートを書くことはとても良いです!」
意識と行動を変えるためのノート
比嘉監督は言う。
「ノートを書くだけの人間はダメ。書いて行動に移せる人になってほしいですよね。彼らには、グランドと私生活は別にするなと日頃から言ってあります。落ちているゴミを拾える人、授業終了のチャイムが鳴ったなら、次の準備を即行える人に。この野球ノートは、自分の意識と行動を変えるためのノートなんです」
書いてすぐ行動にうつすことがノートのポイント
また、人という生き物は反省は、書きやすいものである。しかし、自分の良いときこそ、その内容をしっかりと書いてあったなら、それもまた、その選手にとっての最高の宝物となる。
「調子が良いときこそ、何で良かったのかを知ることが出来なければ、次のステージに上がれないんだ」と比嘉監督は語る。人は忘れる生き物。しかし、毎日書くこと、メモを残しておくことで、例えば不調のときに読み返してみて、こういう取り組みをしたから直ったんだないうことが書いてあったなら、それはその選手にとって”秘密の参考書”になってくれるはずなのだ。
(文・取材=當山雅通)