高校野球研究会 「東京都の高校野球を育てた樋口秀司先生の功績」
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講演する日大三・小倉全由監督
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「東京都高校野球研究会発起人・樋口秀司先生」
毎年この時期、12月の恒例行事の一つとして東京都を中心とした高校野球関係者の間に定着してきた、高校野球研究会。今年も、12月の第二日曜となった14日に、[stadium]神宮球場[/stadium]に最も近い都立高校である都立青山高校の大講堂で開催された。
東京都の高校野球を育てた樋口秀司先生の功績
今年で30回目となる高校野球研究会。本来ならば、お祝いのあいさつから始まるところだったのだろうが、今回は冒頭に訃報が伝えられた。図らずも、この会の発起人の一人であり、第1回の講師を務めた都立大島などで監督を務めていた樋口秀司先生が、かねてから病気療養中だったが、この会の開催を前にした12月6日、13時57分、肺炎をこじらせて他界したのだった。享年69歳、まだまだ高校野球に対しての熱い思いは失せないままだったという。
その報告をした都立世田谷工（現・都立総合工科）元監督の長嶺功先生は、生前に樋口先生から戴いていた、この会に対するメッセージをCDで流して紹介した。
それは、何はともあれ30回が迎えられて嬉しいという話や、「30回の講師には是非、日大三の小倉全由監督にやってほしい」ということを何年か前から決めていたということ、そして、若い世代に引き継いでいって、もっともっと盛り上げていってほしい、というようなことが語られていた。
そもそも、この会は、夏休みに大島で合宿を行ったり、合同練習を組んでいた都立校の指導者たちが中心になって、「どうしたら、私学の強豪校を倒すことができるのだろうか」ということを話し合っていたというところが発端になっている。そして、それならばいっそ、研究会としてみんなで意見を出し合ったり、誰か講師を依頼して勉強会をしたり、パネルディスカッション的にやってみようかということで、1980（昭和55）年に第1回が開催されたという経緯である。
高校野球研究会のメンバーが続々と結果を残す
第1回は当時、都立大島の監督だった樋口先生が講師となった。そのテーマとは、「高校野球のあるべき姿」というものだった。以降、当時の千葉経済大・大沼徹監督に打撃や守備など、技術的なことをテーマとしたもの、長年甲子園の審判員も務めていた西大立目永氏を招いて審判員の目から見た高校野球を語ってもらったり、東京大の平野裕一元監督にトレーニング方法を語ってもらったりという形で、毎回テーマを変えながら実施してきた。
都立総合工科の有馬監督
そして、99年夏にはこの会の仲間である有馬信夫監督率いる都立城東が甲子園出場を果たすことになる。もちろん、学校の枠を超えて、みんなが仲間の快挙をたたえて、我がことのように喜んだ。
また、このことが他の都立校の仲間にも勇気と自信を与える効果もあった。2年後の2001年には、有馬監督の異動に伴って、梨本浩司監督が指導していた都立城東が再び甲子園出場を果たす。また、この年は現都立小山台の福嶋正信監督が率いた都立江戸川もベスト4に進出するなど、研究会の成果が着実に結果を出し始めていた。
こうして、会の充実とともに結果も生み出し、都立校の躍進の背景にもなっていった。近年も、最も安定して強さを示している都立日野の決勝進出や、都立昭和、都立片倉などもベスト4進出を果たしている。さらにはまだ記憶に新しいのは、この春の小山台の21世紀枠代表として、初のセンバツの甲子園出場を果たしたことだ。こうして、高校野球研究会の仲間たちが、結果を残している。
長嶺先生は、「（前東京都高野連理事で都立東大和などで監督を務めていた）佐藤道輔先生と、天国で野球談議に花を咲かせていることでしょう」と、樋口先生の報告を締めくくった。
そして、30回目となった今年、故樋口先生の思い通り、日大三の小倉全由監督を講師に迎えて開催された。98年に、当時はいくらか低迷していた母校の監督に就任して以来、徐々に名門を復活させていった小倉監督。監督としては、前任の関東一時代にセンバツで準優勝一度、そして日大三では01年と11年に夏の全国制覇を果たしている。まさに、指揮官としても脂がのり切って円熟期を迎えつつある。
小倉監督は、実は日大時代に母校日大三の学生コーチとして、当時の小枝守監督（拓大紅陵監督）を補佐していたのだが、樋口先生とは、その時代からお付き合いがあったということだ。
ただ、小枝監督の退任、異動によって、小倉監督自身も母校に居所を失った。そこから、就職浪人のような身で実家の農家を手伝っていたという話から始まった。
今の日大三の小倉監督の姿は多くの苦労を乗り越えてきたもの
現在の、栄光の結果ばかりを見ていると、すべて順風満帆の高校野球指導者人生だったのかと思われがちだが実はそうではない。1985年に関東一を初めて甲子園に導いたり、1987年センバツ準優勝という栄光に輝いた一方で、結果が出ないときには周囲に人たちも急に冷淡になっていったという。そして、自身のあずかり知らないところで、勝手に噂のみが独り歩きしていくという世間の現実。そして、4年間野球から離れていたことによって、改めて見えてきたものがあったということ…などに関してのなどが、より熱く語られた。というのも、小倉監督としては、結果を出している今よりも、結果が出ないで苦しんでいた時代や、野球に係れなかった時代にこそ、今の自分を見出してくれる要素があったからだという思いがあるからのようだ。
日大三の小倉監督
そして、その時の思いなどに対しては口惜しさも含めて、思うところもあったのであろう。むしろ、もう野球には一生係れなくてもいいという気持ちにさえなっていたという。現在の、日大三での栄光を知る者からすれば、改めて驚きの事実ともいえる。
そして、野球の現場に戻ってから、また違った自分の野球が出来るようになったという新たな発見、そんな話をふんだんに盛り込んで、充実の1時間の熱弁だった。日大三の名物とも言われている、今の時期の過酷なトレーニングへの思いも、それを通して、選手たちの気持ちがどのように変化していくのか、そのことを11年に全国優勝を果たしたチームの話をメインに語ってくれた。
来年、東京六大学では法政大の畔上 翔（インタビュー）、慶應大の横尾 俊建（インタビュー）、立教大の鈴木 貴弘（インタビュー）をはじめとして、当時のメンバーのうち都合6人が、大学野球で主将もしくは副主将を務めることになるという。
日大三の強さの秘訣は、技術や目に見えるパワーだけではなく、実はこうした気持ちがしっかりしていてリーダーシップを発揮できる選手が多いというところにこそ、秘められているのではないだろうか。改めて、そんなことを感じさせてくれる、小倉監督のスピーチだった。
耳を傾けていた、多くの指導者たちも、改めて日大三の壁の厚さを感じつつも、都立日野の嶋田雅之監督のように、「改めて、あの壁を破らないことには、甲子園には届かないということを実感しました」と、決意を新たにする指揮官も少なくなかった。
（文・手束仁）
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