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学生野球に一石を投じた2013年センバツ 浦学小島、済美安楽の2年生エースの熱投 

2022.02.19

学生野球に一石を投じた2013年センバツ 浦学小島、済美安楽の2年生エースの熱投  | 高校野球ドットコム
安樂 智大(済美)、小島和哉(浦和学院)

 2013年、4月3日。第85回記念選抜高校野球大会決勝のマウンドには、2人の2年生が立った。
 浦和学院(埼玉)の小島 和哉投手(現ロッテ)と、済美(愛媛)の安楽 智大投手(現楽天)。一方が2年生ならよくあるが、両チームともに2年生エースの決勝は、なかなか珍しいのではないか。

 小島は、準決勝までの4試合をほぼ1人で投げ抜いてきた。大差のついた3回戦(11対1山形中央戦)で1回、準々決勝(10対0北照=北海道)で2回マウンドを譲っただけで、ほかは2試合完投の33回。もっとすごいのが安楽で、広島広陵(広島)との延長13回完投から始まり、4試合すべて完投の40回だ。広島広陵戦では初回、いきなり150キロをマークすると、その試合では2年生として過去最速の152キロを計測した。ぐい〜んと体重を前に乗せるフォームからのストレートは垂れることがなく、広島広陵戦では13三振を奪取。高知との準決勝では、9回に151キロを投じる圧巻のスタミナも見せた。

 大会前から話題だった球速だけじゃない。タテに大きく割れるスライダーに、球速がさらに落ちるカーブと緩急も巧みで、それが40回で35の三振につながっている。そういうなかでも、「インコースを攻めていきたい」「腕をしっかり振っていきたい」と、自分の身上を繰り返してきた。

 一方の小島は、球速は130キロ中盤だが、球の見えにくいフォームで大胆に打者のフトコロをつくから体感速度は速く、さらにカーブ、スライダー、スクリューを巧みに投げ分ける。初戦、土佐(高知)を6安打で完封すると、準決勝では「迫力が違う。全国で上を狙える。こいつらで勝てなかったら、僕はいつ勝てんねん」と東 哲平監督が自信を持つ敦賀気比(福井)の強力打線を、5安打1失点の完投だ。4試合の防御率0.55は、安楽を大きくしのぐ。なにより、ピンチでも動じないのがいい。得点圏に走者を背負っても1球1球集中し、後続を退ける。

 小島に、出どころの見えにくいフォームについてたずねたときだ。
「僕、肩甲骨周りなどがけっこう柔らかいんですよ。小学生時代は並行して水泳もやっていました。野球のほうがおもしろくなって5年生でやめたんですが、中学では水泳部に頼まれて大会に出て、100メートルバタフライで関東大会まで進んだんです。そういう経験は、肩の可動域などに関係しているんじゃないですか」
 野球に専念するまでは毎日10キロを泳いでいたというから、そりゃあ可動域も広くなる。決勝は、高校入学以来初めての連投となるが、
「水泳をやっていたのは、スタミナという面でも大きなプラスだと思いますよ」
 と、小島は自信をのぞかせていた。


学生野球に一石を投じた2013年センバツ 浦学小島、済美安楽の2年生エースの熱投  | 高校野球ドットコム
安樂 智大(済美)

 当時は準々決勝が2試合ずつ、2日に分けて行われていたから、浦学の小島は準々決勝から中1日での準決勝、そして決勝。だが準々決勝の2日目に試合が組まれた安楽は、決勝が3連投となる。もともと安楽は、投球数過多が危惧されていた。広島広陵戦では232球を投げ、済々黌(熊本)との3回戦も完投としては多めの159球。さらに準々決勝、準決勝の連投で272球…。それでも安楽は、3日連投の決勝を前にしても、
「すべての試合を1人で投げきるのがエース。そのための練習をしてきましたし、日本の高校野球とはそういうものだと、ずっと思っています」
 と、昭和のファンを喜ばせる発言をしている。当時の済美・上甲正典監督は安楽の起用法について、
「本人に聞けば、必ず”行きます”と答えますよ。だから状態を見て、こっちがストップをかけないと…。ただ、決勝で”投げます”といわれて、あなたが監督なら止められますか?」
 と、苦しい胸の内をさらしていたっけ。ともあれ、決勝は小島と安楽の先発で始まるわけだ。

 さすがに、心は張っていても、疲労からか安楽のストレートはなかなか走らない。4回までは変化球とのコンビネーションでなんとか無失点でしのいだが、そこまで150キロどころか140キロ超えも1球のみ。5回には打球処理で体勢を崩すなど、明らかな疲労が見てとれた。結果、集中打を浴びたこの回に7点を失い、6回9失点でマウンドを降りることになる。対する小島は、大量リードをもらっても気をゆるめず、9回を7安打1失点で完投した。

 この翌日。アメリカの野球専門誌・ベースボール・アメリカ電子版が、安楽が9日間の5試合で772球を投じたことを、「酷使。メジャーの投手なら5〜6週分に相当する」と報じ、ちょっとした騒ぎとなった。いわゆる『安楽の772球』だ。高校野球で2020年から、7日間で500球という投球数制限が設けられたのは、おそらくは、これが一因になっているのじゃないか。ただ浦和学院・小島にしても、3回戦から準決勝までの5日間で319球を投げていたのだ。決勝を含めれば、6日間で447球。500球制限は辛うじてクリアするが、これを酷使としたアメリカの報道は、寡聞にして知らない。

 この稿とはちょっとかけ離れて、当時の浦和学院・森 士監督の言葉を記しておく。
「私が尊敬するのは、東では恩師である故・野本 喜一郎先生(元上尾浦和学院監督)と、西では上甲監督なんです」
 この数年前から、センバツに出場しないときには春先に四国に遠征していた浦学。済美ともよく練習試合を組み、その際、夜には上甲監督と野球談義に花を咲かせた。吸収するものが多かった。野球への情熱、選手への愛情…。そこでヒントをつかんだ森監督。17対1、浦和学院悲願の初優勝は、恩返しだったのかもしれない。その”恩師”も、いまは亡い。

(文=楊 順行)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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