3発の豪快さの裏にある大阪桐蔭のしたたかさこそが、強いチームの証拠だ
花田旭(大阪桐蔭) 写真:東京スポーツ/アフロ
恐ろしいほど、迫力のある打球だった。
大阪桐蔭の打者が放った打球のことだ。土砂降りの雨の末に、コールド勝ちで、「東の雄」東海大菅生を破った。スコアの上では結果的には競り勝ったが、打撃のレベルでいえば、その差は歴然だったと思っている。
1回から猛威をふるった。3番池田陵真外野手(3年)が、三塁への内野安打を放ち、悪送球で二死二塁。続く4番花田旭外野手(3年)が強烈な先制パンチをお見舞いする。真ん中やや内角よりに入ってきた低めのスライダーを強振すると、打球はグングン伸びてバックスクリーンで弾んだ。
決して、東海大菅生の先発、やや横手投げの左腕・桜井海理投手(3年)の失投ではなかった。右打者からすれば一番打ちにくい、桜井投手からすれば打ち取りやすいコースへの変化球だったはずだ。それが先制2ランとなった。桜井の混乱ぶりは想像にかたくない。
お次は3回、2番打者のスイッチヒッター、藤原夏睴内野手(3年)が、またも内角低めのスライダーを今度は左翼ポール際に弾丸ライナーで突き刺した。今はやりの「打球速度」を測ってみたくなるほどで、バットにはじかれた硬球はさぞかし痛かっただろうと、変な想像もしてしまうほどの「剛打球」だった。ファウルになってもおかしくないコースと変化球だったが、桜井のショックは恐怖に変わっただろう。
そして3発目だ。さらに二死後に打席に5番前田健伸内野手(3年)が入る。今度は外角やや高めに浮いたスライダーだった。前田が強振すると、打球はバックスクリーン右の、甲子園で一番「深い」とされる右中間外野席に吸い込まれた。胸を張ってダイヤモンドを一周する前田と呆然とする桜井が対照的だった。
3人ともに共通点がある。上からたたいている。
もちろん、3人だけのことではない。大阪桐蔭の打線のスイングが全員、そうなっている。前田の本塁打を放った時の映像のスローを見れば見るほど、上からたたくスイングになっている。トップをしっかり作ってポイントまで最短距離で上から振り下ろすようにスイングしていた。外角高めの球に腕を伸ばしたポイントまで、上からたたいたからこそ、あそこまで飛んだと思っている。
花田、藤原のスイングはどうだったか。ともに内角よりの低めの球だ。すくい上げるようなスイングにはなっているが、フォロースルーを大きくとるようなスイングではなく、自分の一番力が入るバッティングポイントまで最短距離でバットを上から出してたたいている。花田はセンター方向へ飛ばしているが、これはバットが内側から出てこないとあんな打球にはならない。藤原は普通に引っ張ればファウルになるが、バットが最短で内側からヘッドが効いたスイングになっているから、打球が切れない。
3人は試合後、自身の本塁打について、次のようにコメントしている。
花田旭外野手
「試合前から叩いていくぞと西谷監督に言われて、低い打球がホームランになりました」
藤原夏睴内野手
「打ったボールはスライダーで、あの打席は自分の形で打てたので良かったです」
前田健伸内野手
「自分は逆方向に打つつもりで、引き付けて叩けたのが大きいと思います」
それぞれが、チームの中の役割を心得て、自分の仕事をした結果だった。
今のトレンドとは、やや逆行している。メジャー、プロ野球では「フルスイング」「アッパースイング」「フライ革命」などをキーワードにした、打球を上げて遠くに飛ばす打撃理論が流行っているように感じる。エンゼルスの大谷翔平もそうだが、遠くに飛ぶ角度をつけるためでもあるというが、やはり高度な技術と鍛錬が必要だと思う。高校生レベルでは、追いつけない。遠くに飛ばすことはできても確率を上げることができない。何より、「勝てる打撃」を求められることも多いのが高校野球なのだ。
この日のコンディションで打つ方が考えないといけないのは、フライを上げてはいけないことだ。足元がぬかるみ、野手の送球は何が起こるか分からない。飛球は取ればアウトだが、転がせば何かといろいろ起きる。現に両チームともに2失策ずつあった。強豪チームらしくない。普段とは違うことは明らかだった。
7回になり雨が相当振り出した後は「試合」にならなかったが、その前の6回までは小雨が振り、グラウンドはぬかるんだ状態だった。その状況下で、東海大菅生の5三振をのぞく13アウト中、ゴロのアウトは2個しかない。三塁ゴロの送球を一塁手がそらした失策も入れても3個だ。逆に大阪桐蔭は6回までの6三振をのぞく12アウト中、ゴロアウトは7個。遊撃手の送球エラーを入れれば8個になる。凡打しても半分以上はゴロを打った大阪桐蔭と、13アウト中11個がフライアウトだった東海大菅生の差は、雨のなかの試合では結果はあきらかだった。
大阪桐蔭の本塁打も「飛球」だが、狙ったわけではなく、上からたたく理想のスイングをしっかりできたからだと思う。たとえ打ち損ねてもゴロになる。相手守備へのプレッシャーも違う。相手投手のレベルが違うという考えもあるだろうが、ともに優勝候補と言われる投手陣を誇る。そこは互角だ。
記録上の安打だけがすべてではない。そういう打撃ができるチームが、勝てるチームなのだろう。
(取材・文=浦田 由紀夫)