群馬の実力校・樹徳の現在「何らかの試合をして締めくくらせてあげたい」
5月20日、第102回全国高等学校野球選手権大会・地方大会の中止が決定した。戦後では史上初の決定。今まで味わったことがない事態に、指導者、選手はどう受け止めて、次に動いているのか、各校の想いを紹介していきたい。今回紹介するのは、群馬桐生市の強豪・樹徳である。
指揮官が明かした苦渋の胸の内
井達監督の話を聞く樹徳選手たち ※写真は2019年8月から
1991(平成3)年と翌年夏に、連続出場を果たしている群馬の実力校・樹徳である。その後には、一時的には低迷期もあったが、近年では県内2強と言われている前橋育英と高崎健康福祉大高崎(健大高崎)を同じ桐生市にある桐生第一と共に追いかけているという位置づけとなっている。
その樹徳を現在率いるのは、92年夏の出場時の主将だった井達誠監督だ。井達監督は甲子園では2回戦で天理に接戦の末敗れるのだが、実は、その前の試合があの歴史的な「松井の5敬遠」として今も語り継がれている星稜と明徳義塾の試合だったのだ。だから、騒然とした空気の中で試合開始を迎えたのが甲子園の記憶だという。
昨夏はベスト8だったが、昨秋はベスト4に進出。その実績を持って一冬を過ごしてきた。いい手ごたえを感じながら、今シーズンを迎えた矢先での活動自粛ということになってしまった。
それでも、群馬県の場合は感染者数もそれほど多くはなかったということもあって、3月当初は紅白戦なども短い時間ながら行えていたという。また、練習自粛となってからも、井達監督は、選手個々の家庭訪問をしていくという形で気持ちを切らさないようにということで、選手の顔を見るようにはしていたという。
ただ、4月になって以降は、自粛要請が強くなってきたので、それもままならない状況になったのは致し方のないことか。
「群馬県は、春季大会の開催もぎりぎりまで粘って頑張っていてくれたのですが、やはり中止となってしまいました。選手たちには、基本的には電話で話しながら、意識確認などを行っています」
というのが4月から5月上旬の現状だったという。
しかし先日、日本高野連と主催新聞社から、夏の全国高校野球大会の中止が発表された。
「生徒たちも薄々はわかっていたでしょうし、覚悟していたかもしれませんでした。やはりこの現実を伝えるのに、自分としても最初は言葉がありませんでした。ただ、結果としては、(中止という事実を)受け入れるしかないのだから、そのことは強調して言いました。医療現場などでは、もっと苦労している人もいっぱいいるんだから、自分たちだけが辛いのではない、ということも伝えました」
井達監督も、その苦渋の胸の内を話してくれた。
それでも、群馬県の場合は、6月6日に今後の方向性が決定されることとなったという。今はその結果を待つということしかできない。
樹徳の場合、グラウンドそのものは、学校から離れたところにあり、特に密の状態にはならないのではあるが、やはりグラウンドに一斉に集まることは控えている。それでも、やっと週3回は学校施設が使えるようになったので、その方針に沿って分散して2時間程度ずつ練習していくということにしている。これは、強豪のバスケットボール部なども同様だという。
[page_break:お腹いっぱいにはならないかもしれないけど、野球はやらせてあげたい]お腹いっぱいにはならないかもしれないけど、野球はやらせてあげたい
樹徳の選手たち ※写真は2019年8月から
それまでは各自が、それぞれの工夫によって体づくり、体調維持をしていくしかなかったという状況は、どことも変わらない。
学校としては、学習課題も出されていて、教科によってはZOOMによって、オンライン授業のような形でやっているものもあったという。学校の授業そのものも、今後の状況によって、分散登校になるのか、時差登校になっていくのかはわからないが、徐々に平常に戻っていく方向性もありそうだという。
「何らかの形で、大会(試合)はやる前提で準備をしておくようにしなさい」
このことは、変わらず伝えている。
ただ、現実の中では、選手たちの進路ということを考えると、決めきれない部分もあるのが心配だし不安だという。それでも、過去の縁などを伝手に、希望している選手のことは(大学などに)伝えていくという努力はしているという。
また、新入生に関しては、井達監督も4月に一応2~3回はわずかな時間ではあるが、集まって顔を見ており、27人という人数も把握している。
「ただ、今は待ってもらうしかないですね。群馬県は、通常、すぐに1年生大会というのがあって、入学早々で試合の場を得られるのですが、今年はそれも中止です。もどかしいですが、一応用具などは手渡してあるので、意識は出来ているとは思います」
いろいろ歯がゆい中でも、前を見て、グラウンドに選手たちが集まってくる日を心待ちにしている。
「甲子園を目指す戦いの場はなくなってしまいましたけれども、何らかの試合をして締めくくらせてあげたいです。お腹いっぱいにはならないかもしれないけれども、野球をやらせてあげたい」
指導者としての、正直な思いであろう。
(取材=手束 仁)
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