Column

【監督×選手】 明石商業・狭間 善徳監督 「教え子との心温まるヒストリー」

2015.11.23

 10月4日に行われた秋季兵庫県大会決勝で、報徳学園を2対0で破り、創部63年目で初優勝を果たした明石商。今夏も、第97回全国高等学校野球選手権兵庫大会で初めて夏の決勝まで勝ち上がるなど、これまで強豪私立勢が常に大会上位を独占してきた兵庫県内に新しい風を吹き込んでいる。
その明石商野球部を率いているのが、今年で就任9年目を迎える狭間 善徳監督だ。

狭間 善徳とは倒れるまで勝利を目指す男

明石商・狭間 善徳監督

 明石商野球部の卒業生をはじめ、狭間のことをよく知るものたちは、狭間 善徳という男についてこう語る。

「狭間監督は怖いか?と聞かれたら、怖いですけど、狭間先生がおっしゃることに、理不尽なことは全くなくて、いくら厳しいことを言われても、どの言葉にも意味があるから素直に受け取れます」

「狭間先生は、倒れるまでやったるという先生です。徹夜で相手チームのことなど勉強をされているようで、あれだけ自分たちのためにやってくれる指導者の方は初めて出会いました。監督さんがあれだけやられていたら、僕がやらんわけにはいかん!みんな、そう思って取り組んでいました」

 かつて、明徳義塾高でコーチを務め、その後、1993年9月から明徳義塾中の監督に就任すると、全国中学校軟式野球大会で4度の全国優勝を果たした。

その実績を買われ、2006年4月に、地元・明石に戻ってきた。
 

 今でこそ、県内では強豪の仲間の入りを果たした明石商だが、狭間が就任1年目は、野球への意欲が全く感じられない部員たちとの戦いから始まっていた。手入れがされていないグラウンドの整備から、まずは野球が出来る環境を整えるところまで、野球部を応援してくれる地域の人々と協力しながら、何から何までゼロから作り上げた。

 練習試合でも、あえて格上のチームに試合を申し込み、勝ち負け以上に大事なことを教えた。
「全国で勝てるチームの選手が見ている土俵は、お前らは見上げても見えないけど、お前らが見ている土俵は、相手チームの選手らは見下ろすことが出来るんや。練習試合では、向こうの土俵をのぞいてこい。スパイクがきれいに磨かれて並べてある様子も、人の話を聞く姿勢も、グラウンド整備も、全部を見てみぃ。そこからが始まりや。そのために俺は、バスを運転して、どこでも連れてったる。そこで負けてもえぇ」

 そう言って、自らハンドルを握って、バスを走らせた。

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[page_break:狭間監督は一度に3回、試合をする]

狭間監督は一度に3回、試合をする

2010年当時の明石商業の選手たち

 1試合を無駄にすること無く、「試合前の準備」「試合後の反省」と、それぞれの時間も、大事にした。それを狭間は、「一度に、3回試合をする」と表現する。
狭間と選手の間でやると決めたチームのこだわりを一つひとつ積み上げていく中で、明石商は強くなっていった。

 だからこそ、最後の夏に、誰かひとりでも、戦うことを諦めるような態度をみせた瞬間があれば、それが3年生にとって最後の試合であっても本気で叱る。

 そんな狭間が、明石商に就任して過去8度、采配を揮った夏の大会で、涙を流した試合が一度だけある。2010年、この年、明石商は準々決勝で敗退した。(兵庫市川 4対5 ●)

 試合後のミーティングで、狭間は、泣いていた。
当時のチームでキャプテンだった岩永 広大明石商神戸学院大卒)は、その日のことをこう振り返る。
「試合が終わって、選手同士で『やるだけのことはやったから、俺ら泣かんとこう。涙を流したら監督に失礼や』って話していたんです。でも、狭間監督の涙をみて、全員が泣き崩れました」

『ホンマにすまん。
お前らを勝たせてやりたかった』

 [stadium]明石球場[/stadium]を出て、人目につかない木陰に座った選手たちにそう語りかけた狭間の言葉は今でも忘れない。

「僕らの代は3人しかレギュラーで出てなくて、自分も副キャプテン2人もレギュラーじゃなかったけど、最後に監督さんの涙を見た時は、自分たちのやってきたことは間違ってなかったんだって思いました。俺たち、ちゃんと頑張ってきたんだなって。卒業してからも自分自身の自信にも、つながりました」

 狭間は言う。
「あいつらに勝たせてやりたかった。夜は9時、10時と遅くまで練習やって、朝も早くから練習やっとった。自分が何も言わなくても、キャプテンの岩永は下級生集めてミーティングしたり、同級生にもガンガン言える男やった。そんなキャプテンのもとチームも強くなって、の準々決勝では1点差で負けて、悔しい負け方やったからね。監督である自分が泣くほど、悔しい負け方やった。勝たせてやりたかった」
 

 狭間の魂こもった指導が、ようやく選手の情熱と共鳴した夏。
それでも遠かった、甲子園。
しかし、先輩たちが叶えられなかった夢に今、チームは少しずつ、近付いていることは確かだ。

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[page_break:狭間監督が考える野球で大切なこととは?]

狭間監督が考える野球で大切なこととは?

2015年秋季兵庫大会優勝記念の明石商の集合写真

 ここまで、強いチームを作り上げてきた狭間が、夢を実現するために大事にしている考え方とは、どんなことなのだろうか?

「野球において最も大事なことは、備えること。そして、間(ま)と、タイミングと、バランスです。備えようとすれば、1年365日、1日24時間、人間に平等にある時間の中で、どれだけ必死になって、時間を過ごしているか。この時間を上手いこと過ごしていれば、『ここだ!』というときの決断力や判断力になる。そこまでのプロセスを必死になって取り組んで、俺はこうなりたい!と思ってやっている人間は、いつかここやっていうタイミングを捉えることが出来ると思う。ここで決断せなあかん。それが分かる」

 さらに、言葉を続ける。
「毎日、そういう取り組みを積み重ねているやつが信用と信頼を勝ち取る。生き方も変わってくる。勝ち取れば、もう1つ上のレベルのやつらと同じ土俵で勝負ができる。野球はその繰り返し。人生もその繰り返し。だから、ここを疎かにしている人間は、絶対に人生も疎かにしてしまう。やっぱり、それを真剣に考えられるやつは、生き方が他のやつらと違うと思うわ」
 

 365日、1日24時間。もうワンランク上の強いチームになるために、指揮官として、やるべきことを本気で備え続けている狭間だからこそ、腹の底から発することが出来る言葉だ。

 狭間の言う「備えと、間と、タイミングとバランス」がすべて揃ったとき、明石商は、創部初となる甲子園の舞台に立っているのだろう。

 狭間 善徳監督率いる明石商にとって、その日は、もう遠くはない。

(文・安田 未由

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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