Column

清峰高等学校(長崎) 吉田洸二監督

2012.03.29

第1回 清峰高等学校(長崎) 吉田洸二監督2012年03月29日

 05年の春に長崎・清峰高校を甲子園初出場に導くと、06年の春に甲子園準優勝。さらに、09年春のセンバツでは優勝を果たしました。
 2011年、昨夏の長崎大会では決勝まで勝ち上がるも、7対8で長崎海星に惜敗。あと一歩で夏の甲子園に届きませんでしたが、今は新たな取り組みで、また全国でも勝てるチームを再び作り上げている清峰の吉田洸二監督。

 今回は、そんな吉田監督に、センバツで優勝後、改めて気づいたこと。また昨今の甲子園優勝校のプレーをみて学んだことなど、伺いました。

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打撃に注力した理由

合宿や遠征先で力を発揮するために

――センバツ優勝当時、清峰の練習で行なっている「丸太トレーニング」が一時期話題になりました。今でも、トレーニングでは器具は使わないのでしょうか?

吉田洸二監督(以下「吉田」)   丸太トレーニングについては、メディシンボールを買うお金が無かったから、それで始めたんですよね(笑)ただ、以前は確かに器具を使わないトレーニングを行なっていましたが、現在はトレーニングをした方が良い筋肉の部分と、そうでない部分があることを学んだので、この2年でトレーニング方法も変わりましたね。

 日本の高校野球は、大半が冬場に体をしっかり鍛えるチームが多いと思いますが、清峰は2年4ヶ月かけて体作りをします。天候や気温関係なく、大会前でもシーズンオフの期間でも年間通じて週2回、同じメニューのトレーニングを実施するんです。
 そうしないと、清峰は常に力のある選手が集まるわけではなくて、寮ではなくて通いの選手が多いチームなので、オフシーズンだけトレーニングに力を入れているようでは、甲子園では通用しないんです。

――実際に夏の大会での選手たちのプレーも変わってきましたか?

「吉田」  これまでは、清峰は秋から春で結果を残してきた印象が強いと思いますが、去年は夏の県大会で準優勝をしました。創部当初は、夏は県でベスト8にも入れないチームだったので、そこを考えるとチームは格段に強くなりましたね。
 センバツで優勝後、ここ数年、思いっきって色んなことを変えてきたんです。全国制覇した時は、今と比べても圧倒的に力のある選手が集まっていたんですけど、今は当時のチームでレギュラー取れる選手は半分もいないくらい。周りの強豪私立に比べても、力は落ちているかもしれません。

――それでも、今度は夏に強いチームへと変わってきたのは、なぜでしょうか?

「吉田」  まず絶対的に、全国で戦うには、体が大事だと気づいたんです。だから、体をしっかり作る。それがバッティングにもつながるかなと。
 清峰は、“まぁまぁのレベルの選手”を“スペシャルな選手”にしないとダメなんですね。まずは、その子が持っている体力を最大限に活かしてあげること。そして、バッティングと技術面をその子が分かりやすいように伝える。それは、こちらの技術を押し付けるのではなく、その子が理解できるように伝えていくのが大切で、僕自身も勉強していく中で、20年過ぎてやっとですけど、バッティングの大切なポイントを外さないようになってきました。

――「打撃理論」で正しいポイントを気付き始めたというのは、いつの時期からですか?

「吉田」  センバツで優勝した次の年くらいからですよ。最近、ようやく分かってきた感じですね。06年09年の優勝時には、全くそれは生かされていなかった。
当時はある程度、力のある選手が多かったので、その子たちが気持ちよく野球が出来るように、力を発揮できるようにという勉強の部分に力を注いでいたからです。
 だけど、翌年からは、指導方針を変えていきました。今の選手の力をどう引き上げるか。これまでの選手に指導していたことが、今の選手にはそのポイントが合っていない可能性もある。だから、もう一度見直していったんですね。僕は春のセンバツで優勝したあとから、清峰を打撃のチームに完全に変えていきました。

[page_break:「右打ち」をせず、強く叩け]

「右打ち」をせず、強く叩け

合宿や遠征先で力を発揮するために

――なぜ打撃のチームへと変えたのでしょうか?

「吉田」  これまで、清峰はセンバツで勝ちやすいチームがいつも出来ていた。でも、夏は勝てなかった。その理由は、ハッキリしていたんです。夏は打てるチームじゃないと勝てない。夏の甲子園で勝つチームはやっぱり打てるチームなんですよね。
 昨夏の日大三光星学院のバッティングもそうですし、日本文理夏の甲子園決勝に行った時も、僕らは春にセンバツで対戦していて、その時は4対0で勝ったんですよね。

 でも、僕はその試合で日本文理のバッティングにすごく驚いたんです。春は、(雪の影響で)外でバッティング練習したのが3回だけと聞いていたのに、すごいいいスイングをしてたんですよね。それで4ヶ月後の夏の甲子園では決勝戦まで勝ち進んだ。そこでやっぱり夏は絶対に打つチームじゃないと、勝てないんだと感じましたね。

――今は、吉田監督はどのような打撃の指導をされているのでしょうか?

「吉田」 まず、練習量でいえば、打撃に費やす時間が変わりました。それまでは練習の5割だった打撃練習を7~8割に増やしました。
 また、理論でいえば、野球は左にランナーが走るスポーツだから、一塁側に強い打球を打った方がランナーは走りやすいという考え方が高校野球にはある。一塁にランナーがいて、レフト前ヒットだと一・二塁でランナーは止まる。でも、ライト前ヒットだと、一・三塁とチャンスを広げられる。だから右に打ったほうがいいと言われています。でも、右に打つという高校野球の常識をまずやめたんです。

――それは、なぜですか?

「吉田」 打球の方向というのは、結果的に投手の投げるコースと、バッターの打つタイミングによって、右に飛んだり、左に飛んだりするんです。
よく「どうしたら右打ちが上手くなるか?」と聞かれますが、投手の投げたボールのコースによって、打球の方向は決まるから、実際には“右打ち”というのはないんです。
 僕も今までは、「右に打て」って指導してきたんですけど、そうではないことに気付きました。 
だから、今は、とにかく「強くボールを打て!」「強くしばき倒すくらいの気持ちで打て!」と教えるようにしましたね。人間ってものを叩くときに、腕を伸ばしては叩かない。曲げたほうが力が強くなる。だからバッティングは腕が曲がったところで打つ。腕が伸びるところで打つんじゃないだと。
 これは、言葉にするのが難しいんですが、よく「こねる」というバッティングがある。そこで考えると、「こねる」か「こねない」かのギリギリのポイントなんですよね。
 こねてしまうのと、こねずにこらえるのと、そのちょっとしたポイントを選手に教えきることが出来ると、彼らの打撃力がグンと高くなっていくんです。去年の夏の長崎大会も準決勝までの4試合で33得点をあげました。体の小さい選手でも、ホームランも打っていましたね。

[page_break:伸びる選手の特徴]

伸びる選手の特徴

合宿や遠征先で力を発揮するために

――打撃論からテーマが変わりますが、続いて、4月から新しく入ってくる新入部員に向けてメッセージをいただければと思います。2年半で大きく成長する選手の特徴とは?

「吉田」 まず、勝負強い性格を持ってる子、ひょうひょうとした子。だけど、それは性格の問題ですね。そこで考えると、とにかく素直な気持ちを持っているかどうかが一番大事。だけど、何でも教わった通りばかりのことをやる選手、考えない選手はよくないですね。
 例えば、指導者に教えてもらって自分で試してみて、上手くいかないなと思ったらそれは選択しない。自分とフィーリングが合うと思えば選択する。

 

その選択するしないの能力は、大きいと思います。やっぱり、高校生でも考えないといけませんね。
 また、一番成長が遅いのは、人の話を聞かない選手です。

――それは、こだわりが強い選手とは、また別ですか?

「吉田」 僕がよく選手に言うのは、「こだわるのは、いいことだよ。野球が上手ければ、こだわりを持て。だけど、下手でこだわりが強いのが一番タチ悪いよ」って。

 例えば、今村猛(2010年に広島カープに入団)も、強いこだわりがあったので、ピッチングを教わっていて「どうしても、このフォームは投げにくい」と言ってきた。そのあと、僕は「お前の自己責任で、投げやすいように投げていいぞ」と伝え、自分で考えさせて投球をしていたら、急に注目のピッチャーになったんですよね。本当に力がつくのであれば、自分のこだわりを信じてやらせることも大切なんだなと感じました。
 今村もそうでしたけど、うちの選手たちの中には、打撃練習でフォームが崩れるからとバッティングゲージに入らない選手もいる。全体練習でみんなが使っている長いバットを使わない選手もいる。みんな僕にその理由を話しにきてくれるんです。試合で結果を出すためには、いろんな練習があるので。

 要するに自分が上手くなるために、考えながら練習している選手は伸びていきますね。考えるのは大切ですからね。そういう選手は、こだわりが強いといっても、人のアドバイスにも耳を傾けることも出来る。そのあとで、実際にやってみて自分で選択していくんですね。

吉田監督、ありがとうございました。一度、春に全国の頂点を掴んでも、まだまだ清峰を進化させていく吉田監督。昨今は県内だけでなく、県外の練習試合の相手からも、その破壊力ある打線に驚かれるという清峰打線。この高い打撃力を武器にこの夏は、08年以来4年ぶりの夏の甲子園を目指します。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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