正しくインナーマッスルを鍛える
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
前回は肩や肘が痛くなったときにまずチェックしたいこととして、下半身の柔軟性や投球フォーム、肩関節の可動域(関節の動く範囲)などをお話しました。今回は肩関節そのものに着目し、関節を支える小さな筋肉群(いわゆるインナーマッスル、英語ではローテーターカフ)について、どのような役割を持っているのかといったことや、正しいトレーニング方法についてご紹介したいと思います。
肩の「インナーマッスル」とは大きな筋肉と比較して、一つ一つの筋肉が小さいことからこの呼び名が定着していますが、本来は俗称です。日本語で腱板(けんばん)といい、肩の関節付近に付着し、関節そのものの安定性を高める役割があります。構成している筋肉は棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょっかきん)、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)の4つで、棘上筋は肩甲骨の上方に、棘下筋、小円筋は肩甲骨の後面に、肩甲下筋は肩甲骨の前面にそれぞれついています(図1、図2)。棘上筋は肩をあげるときにまず働く筋肉であり、腕をしならせるときには棘下筋、小円筋が、腕を振り下ろすときには肩甲下筋の働きが関係しています。
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図1:赤線は大筋群のひとつ、三角筋の走行を示す |
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インナーマッスルを構成する4つの筋肉のおよその割合は、
肩甲下筋(4):棘下筋(3):棘上筋(2):小円筋(1)
といわれています。これらの筋肉がしっかり働くことで肩関節の安定性が保たれます。これらがうまく機能しないと、肩関節の中が不安定な状態になり、その状態が長く続くと肩関節の障害が発生しやすくなると考えられているため、これらのインナーマッスルをトレーニングすることは肩の障害予防にとって必要不可欠なものなのです。
投げるときに大きな力を発揮する三角筋や上腕二頭筋、上腕三頭筋などと違って、インナーマッスルは非常に小さい筋肉です。これらをトレーニングするときはできるだけ軽い負荷のもので行います。チューブであれば黄色、白色といった負荷の小さなもの、またダンベルであれば500g~1㎏程度の軽いものを使用しましょう。少し物足りないかなという程度を目安にします。
さて実際のトレーニング方法ですが、インナーマッスルの部位を肩の後面、前面、側面と3方向からとらえて行います。
図3
【肩の後面(棘下筋・小円筋)】
小さく前へならえの状態で、反対側の手はわきの下に入れます。わきの下に手を入れる理由としては、肩甲骨は真横に位置しているのではなく少し前方に角度をもっているため、わきの下に手を入れることで、より効果的にトレーニングをすることができるためです。そして身体に近い内側から外側に向かってチューブをゆっくりひきます(ダンベルやペットボトルでもOK)。肩の後方を意識して行いましょう。回数は20回程度、セット数は2~3セットを目安とします(図3)。
このときに一番気をつけてほしいことが、肩甲骨の動きです。肩甲骨が動いてしまうとインナーマッスルを正しくトレーニングすることができません。何も持たない状態でまず身体に近い内側から外側に向けての動きを確認し、利き手と反対の手で肩甲骨の下を直接触ってみましょう。肩甲骨が内側によってくるポイントが必ず見つかりますので、そのポイントまでの範囲内でトレーニングを行います。
図4
【肩の前面(肩甲下筋)】
同じく小さく前へならえの状態で、反対側の手はわきの下に入れます(理由は後面のときと同じ)。身体に遠い外側から内側に向かってチューブ(もしくはダンベル・ペットボトル等)をゆっくり引き寄せます。このとき肩の前方を意識して行いましょう。回数は後面同様に20回程度、セット数は2~3セットを目安とします(図4)。
こちらも肩甲骨が動かない範囲で行うことが重要です。何も持たない状態でトレーニング動作を行うと肩甲骨が外側に移動するポイントが見つかりますので、そのポイントまでの範囲内でトレーニングを行います。
図5
【肩の側面(棘上筋)】
トレーニングを行う側の腕に抵抗としてチューブをかけ、肩が60~70°程度になるまであげます。このとき肩の側方を意識して行うようにしましょう。回数は20回程度、セット数は2~3セットを目安とします(図5)。
腕にチューブをかけている理由としては、なるべく筋肉(棘上筋)の近くに軽い負荷での抵抗をかけたいため。片方の足でチューブを押さえて手で引く動作やダンベルで腕をあげる動作でも、もちろん棘上筋は鍛えられますが、腕の長さの分だけ抵抗が大きくなってしまい、インナーマッスル以外の筋肉も動員してしまうことにつながります。
インナーマッスルトレーニングについて、おさえてほしいポイントを理解しないまま、行っていた選手も多いのではないでしょうか。正しい知識とトレーニング方法で肩の安定性を強化し、肩関節のケガ予防やコンディショニングに役立ててもらえると嬉しいです。
【正しくインナーマッスルと鍛える】
●肩のインナーマッスルは肩関節の安定性を高める役割がある
●代表的な4つの筋肉は、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋
●トレーニングを行うときは負荷は軽めに、少し物足りないかなと思う程度
●肩の前面・後面をトレーニングするときは肩甲骨が動かない範囲で行うこと
●肩の側面のトレーニングではなるべく筋肉の近くに軽く抵抗をかけること
●肩のケガ予防と日常のコンディショニングのために正しく行いましょう
(文=西村 典子)
次回、第40回公開は03月15日を予定しております。