関節のゆるみとケガのリスク
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
野球に限らずスポーツ全般において、身体の柔軟性はパフォーマンスアップに欠かせないものと言われています。またケガを未然に防ぐためにもストレッチは毎日の習慣にしたいところです。一方で関節がグラグラする場合は身体が柔らかいということではなく、関節の安定性に問題があることを示すものです。今回は関節のゆるみがアスリートに及ぼす影響についてお話をしたいと思います。
関節弛緩性テストで関節のゆるみをチェック
関節弛緩性テストの7項目をチェックしてみよう
【関節のゆるみをセルフチェック】
関節のゆるみには、何かきっかけがあったわけではなく、もともと関節の動きが大きいものと、ケガなどをきっかけにして関節がゆるくなってしまうものとに分けられます。個人の持っている関節の柔らかさが、通常では起こらないほどの関節可動域(関節の動く範囲)をもつ場合、関節がゆるいという評価を受けることがあります。自分の身体はもともと関節にゆるみがあるかどうかを確認するセルフチェック(関節弛緩性テスト)を行ってみましょう。鏡などを使うと自宅で一人でも簡単にできます。
《関節弛緩性テスト》
1)母指が前腕につく
2)肘が15°以上過伸展する(肘が反り返る)
3)背中の後ろで指が組める(挙げた方の腕を測定側とする)
4)膝が10°以上過伸展する(膝が反り返る)
5)膝を曲げて足首が45°以上背屈する
6)前屈で手のひらが床につく
7)踵と膝をつけて足のつま先が180°以上開く
できるものには1点、片側のみができるものは0.5点(1〜5)とし、合計点数を出します。満点は7点です。
この中で3点以上ある場合は、関節弛緩性があると判定しますが、女子アスリートや特に柔軟性が求められる競技(たとえば体操、バレエなど)によってはやや高くなる傾向にあります。6点以上の場合はもともと持っている関節弛緩性が高く、特に関節のゆるみからくるケガを予防するためにトレーニングを行ったり、必要に応じて装具などを準備する必要があると考えられます。逆に0点、1点といったように点数が低い場合は関節のゆるみよりも、関節周辺部にある筋肉などの柔軟性が低下していることが考えられるため、入念にストレッチを行うことがケガ予防につながります。
関節のゆるみとケガのリスク
つま先をあげてスネの前を鍛えるトゥレイズ。チューブを利用してもよい
【ケガによって関節がゆるくなる?】
関節はそれぞれ動く範囲がある程度決まっていて、その中でさまざまな動きを行っています。また関節可動域を超えて動かないように靱帯を始め、腱や筋肉などで関節をサポートしています。特に靱帯は骨と骨をつなぐ役割を持ち、関節の動きをコントロールしているのですが、捻挫や脱臼などによって靱帯を傷めてしまうと、その支持機能が失われ、関節が思った以上にグラグラと動いてしまう…といったことが起こります。
よく見られるケースとしては肩関節脱臼後のルーズショルダーや、足関節捻挫後の足首の不安定性などが挙げられます。野球選手の場合、投球側の肘を痛めてしまい、靱帯を損傷するタイプの野球肘なども当てはまります。このような状態のままプレーを続けると、ケガを再発しやすくなるばかりではなく、プレーそのものも十分にできないといったことが起こります。関節のゆるみがケガによるもので、プレーに支障がある場合は早めに専門家に相談するようにしましょう。
【関節のゆるみを筋肉でサポートする】
関節がゆるいと感じるときに装具やテーピングなどを用いることも一つの方法ですが、関節周辺部の筋肉を鍛えることもまた、関節の安定性を高めるのに役立ちます。特に多く見られるのが足関節捻挫の後に足首のゆるさを感じるケースではないでしょうか。このときは脛の部分にある前脛骨筋(ぜんけいこつきん)を中心に鍛えるトゥレイズというエクササイズや、脛の外側に位置する腓骨筋(ひこつきん)を鍛えるチューブエクササイズなどが効果的です。
肩関節のゆるみに関しては肩関節の安定に貢献している腱板(けんばん:いわゆる肩のインナーマッスル)をトレーニングすることによって、不安感の軽減が期待できます。ただし2、3ヶ月筋力強化を続けて行ってみても変わらず関節のゆるさを感じるときは、筋肉のサポートでは間に合わないレベルで関節内が傷んでいることが考えられます。このような状態でのプレーはさらなるケガにつながりやすいため、医療機関を受診し、適切な診察と検査を受けるようにしましょう。
【関節のゆるみとケガのリスク】
●関節のゆるみには個人差とケガによるものがある
●関節弛緩性テストで自分の関節のゆるみを確認しよう
●ケガによって靱帯を傷めると関節のゆるみが大きくなる
●トレーニングや装具・テーピングなどは関節の安定性を高める
●関節のゆるみが改善しないときは早めに医療機関を受診する
次回コラム公開は5月30日を予定しております。
(文=西村 典子)