ケガを起こしやすいトレーニングとは
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
先日センバツ大会の出場校も発表され、いよいよ野球シーズンが近くなってきたことを実感させられます。出場校の皆さん、おめでとうございます! センバツ大会に向けてよりレベルアップ出来るよう、この一ヶ月の過ごし方をさらに充実したものにしてくださいね。さて今回は体力づくりの一つとして多くのチームが取り入れているフィジカルトレーニングですが、行っているエクササイズによってはケガのリスクが高まるものもあります。ケガ予防のために行っているトレーニングがケガにつながってしまわないように一度チェックしてみましょう。
腰椎を反る動作は気をつけよう
膝を伸ばしたままで足を前後させるエクササイズは腰が反り、腰痛を引き起こしやすいので避けよう
身体の軸をつくるために必要な体幹(身体の胴体部分)を鍛えるために腹筋・背筋運動を行っていることが多いと思いますが、背骨の形状はもともとまっすぐではなく、少し弯曲(わんきょく:弓形に曲がる)していることが知られています。頸椎では前方に、胸椎では後方に、腰椎では前方にとS字のカーブを持っており、このカーブの傾斜がきつくなってくるとさまざまな不具合が生じてきます。腰椎のカーブがきつくなると背骨とあわせて動く骨盤も前方へと傾き(前傾:ぜんけい)、関節と関節の間にあるクッションの役割を果たす椎間板や、関節そのものに大きな負荷がかかって腰が痛くなってしまうことがあります。
膝が90°以上曲がってしまう動作
膝が90°以上に曲がってしまう動作を繰り返すことは、膝関節と関節の中にある半月板という組織を痛める一因となりやすいことが知られています。スクワットの姿勢で膝が前に出ないようにする理由は、膝の関節を保護しトレーニングによるケガを防ぐ目的があります。また一番下までしゃがみ込んで立ち上がるフルスクワットは膝の角度が90°以上になりますので、よほど下肢筋力がある場合を除き、高負荷で繰り返し行うのは避けておきましょう。以前はグランドで下肢筋力強化を目的としたウサギ跳びを行うところも少なくなかったと思いますが、現在では膝を痛める一因となることが広く知られているため推奨されません。膝の角度が深くなり、そこにジャンプ動作で自分の体重の何倍もの負荷がかかってくると膝関節や半月板を傷めやすくなります。また腹筋の筋力が低い選手が低い姿勢を保とうとすると、腰椎が反り返って腰が痛くなることも考えられます。低い姿勢を保つことを目的とするのであれば、捕球体勢を維持しながら、膝の角度を90°以上に深くしないで歩くニーベントウォークなどのエクササイズが適しています。
肩を極端に鍛えるトレーニング
身体の硬さは人それぞれ。特にパートナーストレッチではむりやり筋肉を伸ばそうとしないこと。
ときどきトレーニングにのめり込み、見た目の姿を筋肉質にしたいと「サマーボディ」を目指してやたらと上半身を鍛える選手を見かけますが、トレーニングを行う目的は「野球が上手くなるため」「野球によるケガを予防するため」であることを思い出しましょう。上半身のトレーニングも必要ですが、身体全体をバランス良く鍛えることが大切であり、特に肩周りの筋肉をつけすぎてしまうと肩がスムーズにまわらないといった弊害も起こりやすくなります。ショルダープレスといって肩から上にウエイトを挙げて、僧帽筋や三角筋といった肩周辺部の筋肉を鍛えるエクササイズは、筋肥大が起こってくると肩が上がりにくくなり、肘が下がった状態で投げる動作を繰り返すと肩や肘に負担がかかってケガをしてしまうことにつながります。上半身のエクササイズであれば、投球動作に近い動きであるプルオーバーなどのエクササイズを採用しましょう。
むりやり伸ばすストレッチ
身体が柔らかいとパフォーマンスも良くなり、ケガの予防にもつながるのですが、身体が硬いのにむりやり伸ばすストレッチを行うと逆に筋肉の付着部(骨に筋肉がついている部分)を傷めてしまいやすくなります。特に気をつけたいのが2人1組などで行うパートナーストレッチです。自分一人で行うストレッチは自分で力加減をコントロールしながら行うことができますが、パートナーがかける負荷は時に思いもよらないほど大きな力を加えることがあります。ストレッチをする人は息を吐きながら筋肉をゆるめて伸ばすようにし、ストレッチをサポートする人は相手が「痛い」といわない程度にとどめて行うようにしましょう。身体が冷えた状態ではさらに筋肉の柔軟性は低下しやすいので、練習後や入浴後など身体が温まった状態で行うことも大切なことなので覚えておきましょう。
足が速くなるための万人向け、万能エクササイズというのは挙げることがむずかしいものですが、「足を速くする」ための要素を分解し、一つずつ確認していくことで自然と速くなることが期待できます。今まで試してみたことがなかったものについては、ぜひ一度チャレンジしてみてくださいね。
(文=西村 典子)