肩を強くするためのトレーニング
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
すっかり秋らしくなったこの時期ですが、寒暖の差が大きくなり体調管理がむずかしい時期でもあります。体調を崩してしまうとパフォーマンスに影響を及ぼすばかりではなく、体力面でもかなりダウンしてしまうので、日頃から汗をかいたら身体が冷えないように着替えたり、調子がよくないと感じたら十分な休養をとるなどの対策をとっていくようにしましょう。さて今回はトレーニング期によくある質問の一つ「肩を強くしたい」ということについて考えていきたいと思います。
肩のトレーニングだけでは強肩にならない?
肩を強くするためには肩のトレーニング以外のことも行う必要がある
「肩を強くしたい」と聞くとどうしても肩周りを強くするためのトレーニングを行ってしまいがちですが、実は肩を強くするためには肩のトレーニングだけでは不十分です。投球動作を考えてみると力の伝わり方は地面から下半身、体幹をとおって上半身へと伝わっていき、最終的には指先からボールを力強く押し出すことでボールに力が伝わります。
この一連の動作を理解していると、肩のトレーニングだけでは肩が強くなるということは考えにくく、この力の連動性にロスが少ないこと、下から上に伝わる力そのものが大きいことが「強肩」につながると言えるでしょう。また力のロスを最小限にし、身体全体のしなりを使って投げるという点では、股関節や肩関節などの関節可動域(関節の動く範囲)が大きく、筋肉の柔軟性も高い方がより強いボールが投げられることになります。
大きな力を発揮するためには下半身・背中のトレーニングを
個人によって筋力レベルは違うので一概には言えませんが、大きな力を発揮したい場合はまず下半身を中心とした筋力アップを行う必要があります。スクワットやランジ動作は足を地面につけて行うトレーニングであり、投球動作は必ず足を地面について行うため、ここで大きな力を発揮できるように鍛えていくようにしましょう。
ダンベルやバーベルなどのフリーウエイトを使った下半身のトレーニングは、下肢筋力を鍛えるだけではなく、負荷をもって移動する時の体重移動やバランス能力の向上にもつながります。ただ単に重いものを挙げるというだけではなく、重いものを持った状態で身体がブレないように移動できるようにすることが、投球動作における力のロスを少なくすることにもつながります。下半身の筋肉は非常に大きな力を発揮するため、優先すべきものはまず下半身のトレーニングであると言えます。
体幹トレーニングはブレない軸をつくる
リアサイドレイズは肩後方部、背中を鍛えるとともに身体を支える体幹強化にもつながる
体幹を鍛えるトレーニングは筋力強化とともに筋持久力を鍛え、同じ動作を繰り返し行ってもブレない軸をつくることに役立ちます。投球動作を繰り返しているうちに体幹が身体を支えきれなくなり、身体が前後や左右にずれることでリリースポイントが変わってしまったり、投球フォームが崩れて上体だけで投げるようになってしまったりします。
日頃から腹筋・背筋などを鍛えている選手は多いと思いますが、ただ単に回数を繰り返すのではなく、動きの中でブレないようにさまざまな方法で鍛えていくことが大切です。フリーウエイトを使った下半身のトレーニングは、下肢の筋力強化とともに体幹を強化することにもつながります。
肩のトレーニングをするとしたら?
プルオーバーは投球動作に近い動きを伴い、背中と肩の連動をスムーズにする
下半身の筋力強化、腹筋・背筋の筋力、筋持久力の強化を優先させ、その次に行うのが肩周辺部のトレーニングです。肩関節は複雑かつ非常にさまざまな動きをすることのできる関節です。投げる動作を繰り返し、肩を上に挙げる動作や、腕が前方に投げ出されるときには腱板(以後、インナーマッスルと呼びます)と呼ばれる小さな筋肉群が肩関節をあるべき位置に保持できるよう筋力発揮をしています。
これらインナーマッスルの機能が低下すると、投げるたびに肩関節のポジションに小さなズレが生じ、動きにくさを感じたり、痛みを伴ったりするようになります。投球動作を繰り返す投手や捕手はもちろんですが、肩を強くしたいと考える選手にとってもインナーマッスルの強化は日頃から習慣として行うようにしましょう。
力を発揮するためのアウターマッスル(インナーマッスルに対する言葉、外側の筋肉)についても、土台となるインナーマッスルが安定した上でトレーニングを行っていきましょう。投げる動作をイメージし、背中と肩の連動性を考慮しながら行うようにすると、より専門的な動きの中で筋力強化を行うことができます。身体を前傾させ、背中とともに肩を鍛えるリアサイドレイズや、投球動作に近い動きで行うプルオーバーなどは積極的に行っていきたいエクササイズの一つです。
肩を強くするために出来ることはたくさんあります。自分の体力を再確認し、必要なものをしっかりと行っていくようにしましょう。
(文=西村 典子)
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