試合期に行うショートスプリント
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
いよいよ暑い夏が近づいてきました。沖縄ではすでに甲子園をかけた夏の地方大会がはじまり、他の地方でも次々と始まります。3年生にとっては高校野球ラストサマーとなる夏の大会、思い残すことのないように精一杯プレーをしてほしいと思います。さて今回は試合期に向けたコンディショニングの仕上げ段階として、ランニングにおけるショートスプリントについて考えてみたいと思います。
野球は短いダッシュの繰り返し
体幹のひねり動作を意識したキャリオカで身体のキレを出そう
オフシーズンはロング走、インターバル走などを多く取り入れ、体力の中でも特に心肺持久力や筋持久力、スタミナの強化といったことを行ってきたと思いますが、試合期ではより野球の動作に近いものを行っていくようになります。短いダッシュは塁間を全力で走り抜けるときや、守備でボールを追う時などさまざまな場面で見られます。距離としては塁間(約27.43m)を基準として30mダッシュや50mダッシュ、スタートを意識するときは10mのスタートダッシュなどを繰り返し行うこともあります。一般的にショートスプリントというと100〜200m程度を指しますが、野球の場合は100m全力で走るシーンはあまり見られないので、それよりも少ない距離でも問題ありません。
野球の試合ではスパイクを履いて走るため、なるべく条件をそろえて走る場合と、下肢への負担を考えてランニングシューズなどに履き替えて走る場合とがありますが、「何のために走るのか」を明確にしてランニングプログラムを組むようにしましょう。ランナーを想定して走る場合はスパイクを履き、特に腰の高さを意識しながら、切りかえしてスタートする際に目線が上に浮かないようにすることが大切です。
またランナーがスタートダッシュをかけるタイミングは音(聴覚)というよりも目からの情報(視覚)によるものが大半ですので、スタートをする際の合図を笛(聴覚)ではなく手(視覚)で合図をしたり、実際にピッチャーとして前に立ってもらって牽制とホームへの投球をミックスしたスタートの合図を行ってもらったりと、野球のプレーに近いダッシュを繰り返すようにします。
キャリオカの動作や背面走りからのダッシュ
身体のキレを意識するという点では腰のひねり動作(回旋動作)にもスピードが求められます。ランナーのスタートダッシュでは上半身はリラックスし、ピッチャーと正対していても、下半身は次の塁に向けて腰を素早くひねったツイスト動作が必要となります。また牽制では次の塁を狙いつつも、ピッチャーからボールが投げられたときは元の塁に素早く戻ることためにやはり体幹のツイスト動作を行います。
しなやかな動きが再現できるようにするためには、股関節の動きをよくすること、下肢と体幹の柔軟性を高めることが求められるため、普段のウォームアップにキャリオカ動作を取り入れたり、バック走から切りかえして前にダッシュを行うようなひねり動作を含むショートダッシュも行うことが大切です。
[page_break:ショートダッシュは大きなパワーを必要とする]ショートダッシュは大きなパワーを必要とする
ショートスプリントは下肢に大きな負担がかかるため、練習後のケアは入念に
短い距離を走るショートダッシュはロング走やミドル走に比べて体力的に「楽」だと思う選手がいるかもしれません。これは心肺持久力や筋持久力に負担のかかるものではなく、短い時間に大きな力を発揮するための筋力とスピード(=パワー)を必要とするものだからです。ショートダッシュであっても何回か繰り返し行っていると特に下肢を中心にきついと感じるようになりますし、筋肉そのものに大きな負荷がかかるため、ひどい筋肉痛が起こったり、肉離れなどを起こしたりするリスクが高くなります。
試合が続いて全体的な疲労感が抜けない場合は、ショートスプリントといえどもケガをすることも考えられるため、本数を決めて行う、疲れているときはジョギングなどで疲労回復をはかるといったプログラムの変更も時には必要です。ランニング後にストレッチ痛がある場合は無理に伸ばそうとせず、痛みのある部位をアイシングするようにして筋肉の炎症を抑えるようにしましょう。
試合が近いこの時期は全体的な体力レベルを上げるというよりも、持っている体力レベルをしっかり発揮できるようにするためのコンディショニングが必要となってきます。ショートスプリントもその一つ。野球のプレーにより近いものを行ったり、体幹や股関節をつかった回旋動作がスムーズにできるようなものを取り入れたりしながら、よりよいコンディションで試合に臨めるようにしてくださいね。
【試合期に行うショートスプリント】
●野球のプレーに必要な短いダッシュを数多く行う
●スパイクを履いてのダッシュ、ランニングシューズでのダッシュ等それぞれ行う目的を明確にする
●ランナーを想定したダッシュでは視覚による合図も取り入れよう
●体幹と股関節の動きを意識し、ひねり動作がスムーズに行えるようなキャリオカ、切り返し走なども行う
●ショートダッシュは大きなパワーを必要とするため特に下肢の筋肉に大きな負担がかかる
●ダッシュ後、ストレッチ痛がある場合は無理に伸ばそうとせず、アイシングを行って炎症を抑えるようにする
(文=西村 典子)
次回コラム公開は7月15日を予定しております。
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