反復動作によるケガを防ぐ
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。
秋の公式戦も一段落し、多くの学校では実践練習を行いながら、体力レベルを上げる時期にさしかかってきました。プロ野球の秋季キャンプなどではひたすら振り込みを繰り返したり、走り込みを行ったりしながら、集中的に正しいフォームの習得や基礎体力強化に取り組んでいる段階であるといえるでしょう。さて今回はこうした基本練習を繰り返す中で想定されるスポーツ障害について、その予防法や対策などについてお話したいと思います。
非対称の動作は一部分に大きな負担をかけやすい
野球は非対称の動作が多いため、筋力バランスを意識することが大切
野球は非対称の動作が多い競技特性(特徴)があります。中には右打ち、左打ちと両方できる選手もいると思いますが、ほとんどの選手が左右どちらか一方の打席に立ってバッティングを行うため、スイング動作は常に右打ちもしくは左打ちとなります。こうしたバッティング動作を繰り返していると、左右の筋力バランスや姿勢が崩れ、筋力的に弱い部分を中心に疲労がたまったり、痛みを伴うようになったりすることが考えられます。
この段階で練習後に筋力バランスを改善するようなトレーニングであったり、ストレッチやアイシング、必要に応じて身体のケアを行い、疲労の蓄積を防ぐように努めることが大切です。その許容範囲を超えてしまうと大きなストレスを受けた部位を中心に痛みや違和感を伴うことになります。バッティング動作でいえばまず考えられるのが腰痛、投球動作であればいわゆる「野球肩」「野球肘」と言われるものがこの中に含まれます。
正しい動作を繰り返すことが大切
ただやみくもに同じ動作を繰り返していると筋持久力や筋力、バランス能力の低下とともに姿勢が崩れ、正しいフォームで行うことが出来なくなってきます。ある程度の繰り返し動作はフォーム固めに不可欠ですが、崩れた姿勢のまま繰り返すと本来の目的から遠ざかってしまうだけではなく、慢性的なスポーツ障害を誘発してしまうことになります。
正しいフォームが崩れてきた段階で一度インターバルをあけたり、バッティングであれば逆スイングなどで違った筋肉を刺激するなどして特定の部位に繰り返し負担がかからないように配慮することが大切です。練習の合間に体幹強化や自重トレーニングを取り入れるなど、練習内容を見直し、身体全体をまんべんなく使うようにすることがケガ予防にもつながります。
走り込みの目的はどこにある
走り込みの目的を明確にし、疲労を蓄積させない努力をしよう
走り込みと称してランニングを行うことが多くなるのもこの時期の特徴ではないかと思います。以前に「運動生理学から考えるランニング」のコラムでも紹介しましたが、さまざまな体力要素の中で何を鍛えるのかを明確にし、その目的にあったランニングプログラムを組むことが大切です。ただ単にキツいだけのランニングでは走るたびに身体に疲労が蓄積され、目的の体力要素(たとえば筋持久力や全身持久力、敏捷性、パワーなど)を鍛えるためのランニングになっていない可能性があります。
距離や本数、タイムなどに関しても個々の体力レベルに応じて柔軟性をもたせた設定となるように配慮する必要があるでしょう。
疲労をため込まない努力をする
反復動作を繰り返すことは野球の技術力向上のために必要な練習の一つですが、何度も繰り返し同じ動作を繰り返すとある一定の部分に大きな負荷がかかりやすいこと、肉体的な疲労はどんどん蓄積されていくことをまず理解しておきましょう。その上で、疲労をため込まないように日頃からセルフコンディショニングを心がけ、違和感や痛みを感じるときには無理をせずに休むことも大切です。オフシーズンになれば野球以外のスポーツや運動なども積極的に取り入れるようにすると、普段とは違った動作によって筋肉を刺激し、心身のリフレッシュ効果も期待できます(これをクロストレーニングといいます)。
同じ投球動作でもバドミントンのラケットとシャトルを使って行ってみるとか、全身持久力向上のためのランニングをスイミングに変更してみるといったことがその例として挙げられます。
基礎体力強化や正しいフォームを身につけるための反復練習は必要不可欠なものですが、過度に繰り返すことによってスポーツ障害を助長するリスクもあることを理解し、いろんな動作を取り入れながら練習に取り組むようにしてみてくださいね。
【反復動作によるケガを防ぐ】
●野球は非対称の動作が多い競技特性をもつ
●崩れた姿勢のままで反復動作を繰り返さない
●一定の部位に大きな負担がかからないよう、練習では身体全体を使う工夫を
●肉体的疲労を蓄積させないようセルフコンディショニングを行う
●心身のリフレッシュをかねて他競技などのクロストレーニングを取り入れよう
(文=西村 典子)
次回コラム公開は11月30日を予定しております。
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