Column

何かを仕掛けるしかない 盛岡大附vs東北 09’春季東北大会

2012.05.29

無死満塁コラム

 2009年春。第56回春季東北地区高校野球大会2回戦。後の甲子園(第91回選手権)日大三を破るなど2勝を挙げた東北と対戦した盛岡大附
この大会前の練習試合で大敗していた相手に4回まで0対1と接戦を繰り広げていた。迎えた5回表に掴んだ無死満塁のチャンス。
様々な攻撃の選択肢がある中で、盛岡大附の関口清治監督の脳裏には、ある試合での場面が浮かんだ。
果たして、指揮官はどんな策をとったのか?

この無死満塁の両校の攻防を徹底解剖。

“ホームエンドラン”

【白石猛紘(盛岡大附)】

 何かをしかけるしかない――。
盛岡大付・関口清治監督はそう思っていた。

 2009年春の東北大会初戦(2回戦)の東北との試合。その後、夏の甲子園日大三を破るなど2勝を挙げた東北には、以前の練習試合で0対10と大敗していた。
 0対1で迎えた5回表、盛岡大付に願ってもないチャンスが来た。四球、バスターエンドラン成功(レフト前安打)、二塁前のプッシュバント成功(内野安打)。繰り出す作戦がことごとく当たって無死満塁になったのだ。

 打席には8番の峯岸央。打力はない。打たせれば併殺も頭をよぎるが、スクイズは「フォースアウトが怖かった」と関口監督は思い切ってヒッティングさせた。打球は痛烈なピッチャーゴロ。投手の佐藤朔弥ははじいたが、落ち着いて本塁に送球して1死満塁となった。
打順は9番の津志田卓也。「点数を取るとしたらスクイズしかない子」(関口監督)だったため、中盤にもかかわらず思い切って代打・白石猛紘を起用した。

 「練習試合のことがあったので、競ったところで負けるのは目に見えていた。競っても『いい試合だったね』で終わるのが関の山だと…」(関口監督)

 カウントが2ボールとなり、関口監督が動く。選んだのは、何とヒットエンドランだった。

 「白石は当てるのがうまいんです。三遊間に打つのがうまい。2-0(2ボール0ストライク)だし、外角のストレートで(ストライクを)取りに来るだろうと思いました」(関口監督)

 読み通り、佐藤が投じたのは外角低めのストレート。それを白石が狙い通りレフト前に運んで二者が生還。逆転に成功した。

 「ランナー三塁での(ヒット)エンドランは練習試合でもあったので驚きませんでした。ひきつけて、つまってもゴロを打つつもりで打ちました。2ボールだったのでそんなに厳しいコースは狙ってこない。エンドランをかけやすいカウントだし、甘い球ならゴロを打ちやすい。バットに当てる自信はありました」(白石)

 その後、2死となるが、代わった清原雄貴から2番の川村健太がレフト前へタイムリー、さらに3番の熊谷童夢もレフトへの2点タイムリー二塁打で続いて一挙5点。その後も6回と8回に1点ずつ追加し、7対2で盛岡大付が振り切った。

 走者三塁、この場合は満塁でのエンドラン。第三者からすれば、一瞬、スクイズでサインミスをしたのかと見間違えかねない大胆な策だ。

 この、“ホームエンドラン”

 実は、この作戦を始めたきっかけがあった。

[page_break:度肝を抜かれた菊池雄星との対戦]

度肝を抜かれた菊池雄星との対戦

【度肝を抜かれた菊池雄星との対戦】

 東北大会への予選となる春の岩手県大会準決勝で盛岡大付は花巻東と対戦した。(第81回)選抜大会準優勝帰りの花巻東は、6回からエース・菊池雄星(現・埼玉西武)がマウンドへ。

選抜での投げっぷりをテレビで見て、「あのピッチングをされたら、どんなバッターを揃えても厳しい。雄星の調子の悪いときにやりたいなぐらいしか思えなかった」と感じていた関口監督だが、一塁側ベンチで見て、さらに度肝を抜かれた。

 「予想以上に速かった。指先から離れて、ホームに着くまで見えるんですが、ピンポン玉が浮き上がる感じなんです。これが超高校級かと思いました」。

 その試合では、バントのうまい2番の川村が2度もスリーバント失敗。これで、菊池雄星相手にスクイズなどのバント戦法は捨てざるをえなかった。
「バントするのも厳しいのかと。送りバントができないんだから、スクイズは到底できない。これで発想されたのがホームエンドランでした。バットを長く持って、どこかに当たればいいだろうと」と実感した関口監督。
 18・44メートルの距離を縮め、近距離にマシンをセットした。体感150~160キロ。走者をつけ、バットに当てる、転がす練習をひたすらくり返した。

 その成果が東北戦での白石の打撃だった。関口監督は振り返る。
 「公式戦初のホームエンドランのサインがあれです。相手が東北だからしかけられた。力が同等や下のチームならやれません」。

 自分たちの方が力がない。そう思ったからこそ、1点差の5回に同点に追いつくことは考えなかった。最低でも逆転、あわよくば大量点。無死満塁だっただけに、なおさら1点で終わる気はなかった。

 結果的にこのホームエンドラン成功で勢いに乗った盛岡大付は、羽黒八戸西、仙台育英も破って春夏を通じて東北大会初優勝を果たした。

無死満塁、8番打者で始まったチャンス。流れを呼び込むというよりも、もぎ取ったという表現があてはまる積極策で、東北チャンピオンまでももぎ取った盛岡大附

ビッグチャンスだからこそ、大胆にしかける――。

(文=田尻賢誉

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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