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【U-18大会総括】 紙一重の勝負を演じた日本とアメリカ!準優勝からみえた次なる課題

2015.09.07

 第27回 WBSC U-18ベースボールワールドカップは惜しくもアメリカに敗れ、準優勝に終わった。今回は優勝したアメリカの野球力を振り返りつつ、日本代表の戦いぶりと今後へ向けての課題を述べていきたい。

綿密なプランニングで日本を破ったアメリカ代表

優勝カップを授与され盛り上がるアメリカ代表

 1stラウンド第2戦で日本に敗れたアメリカ。率いるグレン・セッチーニ監督の頭の中は決勝戦に切り替えられていた。1stラウンドは1敗したら終わりではない。上位3位に入ればスーパーラウンドに進出できる。アメリカは決勝戦を見据えてどう戦えば良いのか、逆算をしながら戦っていたのだ。1stラウンド第4戦のオーストラリア戦で左腕・ニコラス・プラットが8回1失点の好投で勝ち投手になった。セッチーニ監督はプラットの投球を見て、決勝戦で投げさせるプランが浮かんだという。

「この日のプラットは素晴らしい内容でした。とても攻撃的な投球ができていましたし、変化球のキレが良い投手なので、日本打線を抑えるキーマンだと考えていました。またプラットは牽制が非常に上手い投手であるので、足のある日本を封じることもできると思っていました」とプラットを使った理由を明かしてくれた。

そしてプラットも、「前日に僕が決勝戦で投げるイメージが浮かんできました」と振り返るように、監督と選手の意志疎通が図られていたことが分かる。

 アメリカは個人の才能の高さが注目されるが、スーパーラウンドからの戦いぶりがすごかった。韓国戦では9回表にブレーク・ラサフォードの逆転3ランから勝利すると、キューバ戦、カナダ戦ともすべて逆転勝ちだった。絶対に諦めずに最後まで食らいつく必死さが今年のナインから感じられた。アメリカナインの喜びようはすごく、試合を決定づける得点が記録されれば、ナイン全員がベンチから飛び出てきた。その中でもとくに喜びを現しているのがセッチーニ監督だったが、その姿に騙されてはいけない。想像以上に計算高い監督である。

 決勝戦では、プラットが7回途中まで1失点の好投。日本打線はプラットのストライク先行の投球に戸惑いを隠せず、さらにチェンジアップで空を切るパターンが目立ち、5回表にオコエ瑠偉の牽制死もあったように、プラットの牽制がうまく効いていた。さらに左腕・ブラクストン・ギャレットが8回途中までつなぐと、最後は右腕・レジナルド・ジェファーソンローソンが150キロ前後の快速球で、追う日本打線を完璧に封じこんだ。継投するタイミングも見事であった。アメリカの戦略勝ちとも言っていい。

 今年のアメリカは個人の能力は確かに高かったが、それ以上に気迫、粘り強さなどメンタリティの強さは例年以上に強かった。また決勝戦を見据えてのスタッフのマネジメント、プランニングも素晴らしく、優勝に相応しいチームであった。

 試合結果と応援メッセージは下記リンクから!

2015年 第27回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ

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第27回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ

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侍ジャパンU-18代表も2年前に比べて大きく進歩

惜しくも準優勝に終わった日本代表

 侍ジャパンU-18日本代表はアメリカ代表に決して劣っていたわけではない。チーム打率.345、チーム防御率0.28は、出場国トップ。個人表彰では多くの選手が名を連ねている。

 大会の首位打者(打率.556)、打点王(12)、さらにベストナイン外野手部門で選出された勝俣 翔貴東海大菅生)、最優秀防御率賞(0.00)を記録した上野 翔太郎中京大中京)、2勝0敗で最優秀勝率投手と最優秀先発賞を受賞した佐藤 世那仙台育英)、常識を超えるプレーで世界野球の関係者も驚かせ、最優秀守備賞を受賞したオコエ 瑠偉関東一)、最多得点(10)を記録した舩曳 海天理)、また堀内 謙伍静岡)が捕手として、平沢 大河仙台育英)が遊撃手として、主将の篠原 涼敦賀気比)が三塁手としてベストナインに選出されており、まさにスーパーチームだったと評価できるものであった。

 1stラウンドでは圧倒的な力を示したが、スーパーラウンドになってもその勢いは衰えることなく、カナダ戦では佐藤の快投で完投勝利を挙げると、韓国戦では強力な韓国投手陣を打ち崩し、コールド勝ち。さらにキューバ戦でも勝負強さを発揮し、9対0で完勝と完璧な試合運びであった。

 決勝戦では2勝を挙げている佐藤が4回で降板しながらも、接戦に持ち込めたのは上野の快投が大きい。アメリカ代表のセッチーニ監督が、「日本は素晴らしいチーム。紙一重の勝負でした」と語るように、この試合はアメリカの試合前の綿密なプランニングがわずかに日本を上回っていたということであろう。振り返れば、2013年の前回大会決勝は、2対3の1点差で敗れたが、決勝戦前の第2ラウンドでは4対10で敗れており、大きな差を感じたものだ。

 今回アメリカには1stラウンドで勝利し、決勝戦でも3投手をつぎこんで、日本打線を抑え込んだ。アメリカを本気にさせ、1点差の勝負を演じたことは大きな進歩であっただろう。

 今回の代表選手の成績を並べれば、国際大会にかなり適応しているといえる。これまでの代表選手は木製バットへの適応に苦しみ、内野に飛ばすのがやっとの選手が多かった。そして捉えたと思っても平凡な外野フライというケースが多かったが、今回は多くの選手が鋭いライナー性の打球を飛ばすことができており、国際大会へ向けてどういう準備をすればよいのかという点が、以前に比べてだいぶ進歩していた。

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[page_break:悲願の世界一へ…世界レベルの逸材の出現がカギ]

悲願の世界一へ…世界レベルの逸材の出現がカギ

走塁、守備で驚愕のプレーを見せてきたオコエ 瑠偉(関東一)

 世界一を狙う日本代表の課題・・・実は大会トップの打率を残した打撃である。投手力は防御率0.28を記録したように、配球を駆使して抑える投球術は世界トップクラス。なぜチーム打率が高い打撃が課題なのか。それはアメリカ、キューバ、カナダ、韓国など強豪国の選手たちと比較して感じたことなのだが、彼らの打撃を見て、打撃成績だけではすべて語れないパワーと技術の違いである。日本以外の試合を見れば、その差が歴然とわかった。

 また同時に世界レベルの選手になるにはどれだけの積み上げが必要なのか、非常に良い物差しになる大会でもあった。
侍ジャパンU-18代表の強みといえば、技術を突き詰めて、集中力の高さを発揮し、勝利へ向けて最大限のプレーができること。その積み重ねが今回の8勝1敗という成績にもつながったのだ。 

ただ、U-18の選手たちはこれだけで終わりではない。この先NPB、MLBなどさらに高いレベルでの環境を目指してプレーをしていく。

 日本の選手たちは「上手い」と、うならせるプレーは数多くあった。しかしアメリカ、キューバ、カナダに匹敵する凄味のあるプレーを見せていたのはオコエ 瑠偉の足と守備、勝俣 翔貴のヘッドスピードの速さを生かした打撃だけだと感じたが、やはりトップレベルで活躍する選手はそういう「凄味」を備えた選手になってくる。

 この2人は大会を振り返ればキーとなる活躍を見せていた。とくにオコエの足は各国の選手たちを慌てさせるものがあり、日本にとって大きな勢いをもたらした。
 日本の打撃陣は打率面を見れば確かに優れていた。しかし、速球投手の対応には苦手にしている。そう感じたのがアメリカ戦である。左腕であれば、140キロ中盤、右腕であれば、145キロ以上。そういう投手に対して、苦労している様子が見て取れた。それは今大会に限らず、これまでの大会を見てもそういった試合は多かった。高校生にそんなレベルを求めなくてもと思うかもしれないが、アメリカvsキューバの試合を見た時、日本では打ち崩すのは難しいパワーピッチャーに対して両国とも軽々と打ち返しているのである。それができるのも普段からそういう準備を行ったり、そういう投手と対戦している経験が多いからだろう。

 だが今から世界を見据えて準備をすれば、追いつけないものではない。
西谷監督、篠原主将があと1つ足りなかったと語っていたもの。それは世界のパワーピッチャーに対抗できる技術とパワーを持った選手の存在。そして今回のように、決勝戦を見据えて知略を尽くし、3連覇を果たしたアメリカを上回るようなプランニングも必要だと感じた。

 世界レベルの逸材。もちろんそんな選手が多くいるわけではない。津田翔希浦和学院)のような守備職人、郡司裕也仙台育英)のような頭脳派捕手の存在、平沢大河仙台育英)の高い集中力を発揮し、攻守で精度の高いプレーをできる選手の存在は欠かせないピースであり、そういう選手たちをこれまでに、コラムでも紹介してきた。

 だが、一振りで流れを変えられる打者の存在、ワンプレーで球場の雰囲気を変えてしまう選手の存在は必要で、大会3本塁打を放ったカナダのジョシュ・ネイラーは一振りでチームの勢いを変えられる選手だった。日本の場合はオコエの守備、走塁でチームに大きな勢いにもたらしたように世界レベルと誇れるような逸材を育成する重要性、選出する重要性はオコエの活躍で高まったのではないだろうか。

 2年後、カナダで行われるワールドカップでそのピースが埋まったとき、初の世界一が実現できるはずだ。

(文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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