Column

個性的な選手が世間を沸かせた2014年の高校野球

2014.12.31

 後編では、夏の甲子園で主役となったチームや選手を中心に話を進めていきたい。今年のドラフト指名選手から、どんなタイプの選手が今年の高校野球界のトップになったのかを考察する。

スローボールで魅せた西嶋 亮太、強打の敦賀気比、機動破壊の健大高崎

西嶋 亮太(東海大四)

 第96回高校野球選手権大会の地方大会では、前年優勝前橋育英前年選抜優勝浦和学院、最速157キロ右腕・安楽智大擁する済美が相次いで敗退。またセンバツ出場校中、夏も甲子園に戻れたのは、32校中8校のみで、改めて夏の大会を勝ち抜く厳しさを実感させられた。そして、甲子園開幕戦では選抜覇者龍谷大平安春日部共栄試合レポート)に敗退した。

 今夏の大会の特徴としては、高校野球ファンだけではなく、世間から注目される個人やチームが多かったことが挙げられる。

 まず個人では、西嶋亮太東海大四)が大きく注目を浴びた。168センチ59キロと小柄な体格ながら、キレのある130キロ台のストレート、精度の高い変化球をコントロール良く投げ込む。さらにスローボールも交えて、南北海道大会を勝ち抜く活躍をみせた。
甲子園初戦の相手はプロ入りした清水優心古澤勝吾と強打者2人擁する九州国際大附。試合前は、九州国際大附有利の見方が多かったが、西嶋は緩急自在な投球で、強打の九州国際大附打線を手玉に取り、完投勝利(試合レポート)を挙げた。そして試合中に投げた超スローボールで一躍、注目を浴びるようになった。

 西嶋のすごさは、遅い球を投げる勇気があるというところだ。あるプロ野球の投手でさえも、「めちゃくちゃ勇気がいります」と語るように、一歩間違えれば、痛打を浴びるリスクもあるのだ。相手の目先を変えるためにスローボールの練習に取り組み、自分の武器として身につけた西嶋の姿勢は高く評価されるものだろう。

 またチームでは、猛打で勝ち上がった敦賀気比、機動破壊で甲子園のファンを湧かせた健大高崎が話題の的となった。敦賀気比は、初戦で坂出商(試合レポート)を16対0で下すと、春日部共栄試合レポート)には10対0、盛岡大附試合レポート)には16対1、八戸学院光星試合レポート)を7対2で破り、準決勝に進出した。毎試合本塁打を記録するなど、3回戦まで3試合連続二桁得点の勢いはすさまじいものがあった。

 打線の中心である浅井洸耶岡田耕太峯健太郎のクリーンナップは周囲の期待通りに本塁打を放った。また、前後を打つ選手の打撃能力も非常に高く、「敦賀気比は強打のチーム」と印象付けた夏だった。破壊力の秘訣は、冬に取り組んだ毎日800本のフルスイングだった。打撃強化のためには、スイングスピードを速くすることと、それを継続することが出来る体力が必要といわれている。スイングスピードが速ければ、速球に対応することが出来る。また始動の仕掛けが遅くなることで、ボールを長く待つことが出来る。プロの打者が、全体的に仕掛けが遅く小さな始動で打てるのは、スイングスピードがずば抜けて速いからだ。

 敦賀気比は、毎日800本のフルスイングに取り組んだことによりスイングスピードが速くなった。また、タイミングの取り方に余裕が出たことで、速球、変化球に難なく対応できるようになった。そして、速いヘッドスピードを振り続ける体力を身に付けたことで、真夏の甲子園でも強打を発揮することが出来たのだ。

<コラムに登場した学校の野球部訪問を紹介!>

第50回 九州国際大学付属高等学校(福岡)

第142回 龍谷大学付属平安高等学校(京都)


第155回 春日部共栄高等学校(埼玉)


第158回 敦賀気比高等学校(福井)


第151回 高崎健康福祉大学高崎高等学校【前編】


第159回 高崎健康福祉大学高崎高等学校【後編】


第160回 前橋育英高等学校(群馬)【前編】

<コラムに登場した選手のインタビュー・関連記事>

第159回 九州国際大学付属高等学校 清水 優心 選手


第199回 前橋育英高等学校 高橋 光成選手


第201回 【侍ジャパン18U代表】前橋育英高等学校 高橋 光成選手


連載コラム 安樂智大(済美)

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[page_break:一致団結して2年ぶりの全国制覇を成し遂げた大阪桐蔭]

一致団結して2年ぶりの全国制覇を成し遂げた大阪桐蔭

 そして、健大高崎は、初戦で岩国試合レポート)に2回裏まで0対3とリードを許すが、足を絡めた作戦で逆転に成功し、5対3で2回戦に進出。2回戦では、利府試合レポート)に大会記録の1試合13盗塁に迫る11盗塁で、10対0の快勝。この試合で、機動破壊のインパクトを存分に見せつけた。3回戦の山形中央試合レポート)は佐藤 僚亮石川 直也の2人の好投手を擁していたが、得意の足を絡めた攻撃で勝利を収め、準々決勝に進出した。

 そして足だけではなく、打撃力もみせた健大高崎前橋育英高橋光成を打ち崩さない限り甲子園の道はないと、走塁のみならず打撃も徹底的に強化したことが今大会の躍進につながった。

夏4度目の全国制覇を成し遂げた大阪桐蔭

 しかし今大会注目されたその二校を破ったのが大阪桐蔭だった。昨秋の大阪府予選で、履正社にコールド負けを喫し、立ち上がったチームだ。

 大阪桐蔭春季近畿大会優勝を決めると、夏の大阪大会準決勝で履正社(試合レポート)と再戦し、6対2でリベンジ。決勝ではPL学園試合レポート)を9対1で破り、3年連続の甲子園出場を決めた。甲子園では開星試合レポート)、明徳義塾試合レポート)、八頭試合レポート)を破ると、準々決勝で健大高崎試合レポート)と対戦。

 2対2で迎えた7回表に主将の中村誠が勝ち越しの2ランを放ち、さらに8回にも中村の適時打で、5対2とする。投げてはエースの福島 孝輔健大高崎打線を沈黙させ、準決勝進出。準決勝(試合レポート)では敦賀気比のエース・平沼翔太を打ち崩し、15得点で快勝を決め、決勝進出した。

 三重三重との決勝戦(試合レポート)は1点を争う好勝負となった。5回表まで3対2で三重三重がリード。しかし7回表、一死三塁で、大阪桐蔭バッテリーが三重三重のスクイズを外したことで、大阪桐蔭に流れが傾いた。7回裏、主将中村の2点適時打で逆転に成功すると、9回表のピンチをしのぎ、大阪桐蔭が2年ぶり4度目の優勝を果たした。

 今年の大阪桐蔭藤浪 晋太郎(阪神タイガース)のようなスター投手はいなかったが、香月一也峯本匠を中心に走攻守に完成度の高い選手が揃っていた。そのような選手たちが一致団結し、束になってかかってくれば、これほど怖いモノはない。改めて大阪桐蔭の恐ろしさを実感した大会だった。 

<コラムに登場した学校の野球部訪問を紹介!>

第35回 大阪桐蔭高等学校(大阪)


第131回 履正社高等学校(大阪)


第141回 履正社高等学校(大阪)


第142回 龍谷大学付属平安高等学校(京都)


第153回 三重高等学校(三重)【前編】


第154回 三重高等学校(三重)【後編】

<コラムに登場した選手のインタビュー記事>
第202回 【侍ジャパン18U代表】大阪桐蔭高等学校 香月 一也選手

第209回 【侍ジャパン18U代表】大阪桐蔭高等学校 峯本 匠選手

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個性的な野手が目立った2014年の高校生


岡本 和真(智辯学園)、脇本 直人(健大高崎)、栗原 陵矢(春江工)

 最後に2014年に活躍したの高校生を振り返ると、個性的な野手が多かった。
注目を集めた智弁学園の岡本和真が主に守るポジションは一塁手。スカウトは一塁手の選手を敬遠する傾向にあり、指名しないケースが多かった。それでも巨人がドラフト1位で指名したのは、岡本の高校通算73本塁打を記録した長打力に将来性を見出し、大きな期待をかけているからだろう。

 走攻守三拍子揃った選手が求められている理由は、2つある。まず1つめは、昔に比べ広い球場が多くなったことだ。それにより本塁打が少なくなり、守備、走塁に優れた選手の需要が高まった。またスピード系トレーニングや道具の高度化で、よりスピードを発揮出来るようになったことが挙げられるだろう。現在、身体能力が高い選手が指名される傾向にあるだけに、岡本のような打撃に特化した選手のドラフト1位指名は大きな価値がある。

 また高校生捕手が、育成枠を含め8名も指名されるという珍しい年となった。プロへ進む捕手は、身長が180センチを超えるがっしりとした体形をしていて、強肩強打というタイプが多い。北海道日本ハムに2位指名された清水優心(九州国際大附)はまさにそんな選手だが、福岡ソフトバンク2位指名の栗原陵矢春江工)は、178センチ75キロとそれほど体は大きくない。だが、身のこなしが良く、強肩、インサイドワーク、キャッチングの良さが光る好捕手だ。また、18Uアジア選手権で主将を務めたリーダーシップも高く評価されている。

 一昔前のプロ野球では、清水のような選手が好まれ、ドラフト上位で指名されることは多かった。だが栗原のような選手は上位指名されることはなかった。だが今は栗原のようにセンスの秀でた選手が野球界で求められるようになってきたのも、一つの変化ではないだろうか。

 野球界のスピード化の流れにより大きな強みを発揮しそうなのが、千葉ロッテ7位の脇本直人健大高崎)だ。長打力に加え、健大高崎で徹底的に鍛えられた走塁や盗塁の技術はプロの舞台でも大いに発揮されることだろう。

 プロに進み盗塁が多くなった選手は、プロで専門的な指導を受けて、盗塁数を増やしたケースが多い。2013年のセ・リーグ盗塁王の丸佳浩は投手出身で、盗塁について本格的に取り組み始めたのはプロ入りしてからだという。健大高崎は技術、心理の2つの面から走塁を徹底的に磨くチームなだけに、脇本は大きなアドバンテージを持ってプロ入りすることになる。そんな脇本が活躍すれば、プロ入り前にレベルの高い走塁指導を受ける必要性はより高まるのではないだろうか。

 2015年は、最速152キロ右腕・高橋純平甲子園4強右腕・平沼翔太など、今のところ右の好投手の活躍が目立つ年となりそうだ。冬の期間は、選手の力が一番伸びる時期。秋と春ではトップに位置付けられる選手が大きく変わるだけに、来年はどんなタイプの選手がトップになるのか、非常に楽しみだ。

登場した選手のインタビュー!

第159回 九州国際大学付属高等学校 清水 優心 選手


第179回 智辯学園高等学校 岡本 和真選手


第190回 広島東洋カープ 丸 佳浩選手(千葉経済大学附属高出身)


第200回 【侍ジャパン18U代表】智辯学園高等学校 岡本 和真選手


第208回 【侍ジャパン18U代表】高崎健康福祉大学高崎高等学校 脇本 直人選手

 (文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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