Column

第94回全国高校野球選手権大会総括

2012.08.24

第94回全国高校野球選手権大会特設サイト(高校野球ドットコム)

史上初の同一カード決勝戦 強さを維持した両校の健闘が光る

▲藤浪 晋太郎(大阪桐蔭)

 史上初の同一カード決勝戦は大阪桐蔭が3対0で光星学院を再び下し、2年ぶり7校目の春夏連覇を成し遂げた。それにしても両校、全く相手を寄せ付けない強さだった。勝ち上がり方が実に淡々。大きな波乱もなく、自分たちのペースで勝ち上がった。このブレのない戦い方だからこそ、2連覇を成し遂げ、そして三季連続決勝進出を成し遂げたのだろう。

 全国トップレベルの強さを2年近く維持するというのは並大抵のことではないのである。それだけに両校はここまで勝ち進んだだけでも大きな価値がある。大阪桐蔭の連覇が出来た要因。一番はエース藤浪 晋太郎が絶対的な実力、安定感を備えたことだ。

 去年の藤浪はスピードが145キロ前後。スライダー、フォークを投げ分け、既に全国クラスの実力が備わっていた。しかし終盤になると甘い球が増え、打ち込まれる傾向があり、甲子園をあと一歩で逃してきた。終盤に打ち込まれやすい。全国制覇を狙う大阪桐蔭にとっては一つの懸念材料だった。

 しかしセンバツからこの夏にかけて成長した姿を見せ、特にこの夏の投球は高校生レベルでもずば抜けた投球を見せた。常時140キロ後半の速球を高低に投げ分ける技術を備え、スライダー、縦スライダー、フォークの精度はさらに増し、一試合通して出来るスタミナがついた。

 そして正捕手・森 友哉が打者の狙いを外す絶妙なリードで、藤浪の持ち味を活かしたのも見事だった。夏は打高投低の傾向が強まり、今年は大会2位の56本塁打を飛び出すなど、投手受難の大会。その中で、藤浪は防御率0.50、奪三振率12.25、被安打率3.50と文句付けようがない成績を残した。如何にして彼が別格の存在であったかが伺える数字であろう。最強の投手が期待通りの結果を残し、全国の頂点に登ったのである。

 そして打線は森 友哉田端良基だけではなく、2回戦でホームランを打った笠松 悠哉決勝戦でホームランを打った白水 健太と下位からでも得点が取れる打線であることをアピール。投打が絡みあっての春夏連覇。素晴らしいチームであった。

 光星学院は勝負所を逃さない果敢な猛打は今年も健在であった。特に3番田村 龍弘、4番北條 史也のクリーンナップは圧巻であった。田村は173センチとは思えないほどの威圧感のある構えから、甘い球は豪快に振り抜き、そして難しい球は執拗にカットし、コンパクトなスイングで、窮屈な内角を捌く巧打も披露し、4番北條は懐の深い構えから、ゆったりとタイミングを取って、右腕を強く押し込んだパワフルなスイングで、大会記録にあと1本に迫る4本塁打。うち3本塁打がバックスクリーンと内容があり、そして強烈な印象を与える本塁打ばかりであった。北條は決勝まで打点を叩きだす勝負強さを発揮し、4番打者としての働きを全う。光星学院打線も相手を寄せ付けない強さがあった。

[page_break:常にうならされた堅守・東海大甲府、緻密な試合運びを見せた明徳義塾]

常にうならされた堅守・東海大甲府、緻密な試合運びを見せた明徳義塾

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▲渡邉 諒(東海大甲府)

▲岸 潤一郎(明徳義塾)

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 4強入りした東海大甲府は守りの堅さは4強入りしたチームの中でNO.1だった。二塁手・新海亮人、遊撃手・渡邉 諒の堅い守備は天下一品。彼らの球際の上手い好守には常に唸らされ、内野手守備好きにとってはたまらないプレーの連続であった。打線も勝負所を逃さず、着実に点を積み重ねるスタイル。エース神原 友は甲子園で躍動。140キロ台の直球、切れのあるスライダー、フォークとのコンビネーションで、強打の龍谷大平安宇部鴻城作新学院を抑えてのベスト4入り。能力の高い選手にきめ細かさが備わった完成度の高いチームであった。

 明徳義塾は全国優勝した02年以来の全国ベスト4。3校に比べると突出した選手はいないが、試合運びの巧さはさすがで、僅差でも勝てるチームを作り上げた。投打でキーマンとなった岸 潤一郎(1年)の2年後が再び楽しみなチームになっていきそうだ。

歴史的記録と強烈な記憶を残した桐光学園・松井裕樹

 今年の甲子園で最も印象に残したのは松井 裕樹を擁する桐光学園だろう。神奈川大会記録となる68奪三振を引っ提げて甲子園に臨んだ。初戦は大会記録の22奪三振を記録し、歴史的偉業を成し遂げた。4試合で68奪三振を記録した。身体全体をダイナミックに使った躍動感溢れる投球フォームから投じる140キロ台のストレート、縦に鋭く落ちるスライダー、カーブのコンビネーションは並みの高校生では打ち崩すことはできなかった。これからは多大なプレッシャーの中で、プレーをしなければならないが、常に自分を見失わず、自分の素質を高めていってほしい。プレッシャーを乗り越えた松井裕樹はもっと打ち崩しようがない投手に成長しているのではないだろうか。

[page_break:試合時間1時間59分、先頭打者本塁打4本、56本が示す先行逃げ切り型スタイルの急増]

試合時間1時間59分、先頭打者本塁打4本、56本が示す先行逃げ切り型スタイルの急増

▲天久 翔斗(光星学院)

 今大会で特徴だったのは本塁打の多さであろう。56本塁打は大会記録にあと4本と迫る数字であった。データでは本塁打を打たない選手でも、高めにフルスイングをした打球が、甲子園特有の浜風に乗ってスタンドインする。予想以上の打球の伸び方に驚かされた。

 本塁打が出る。打撃戦が展開されやすく、長時間ゲームになりやすい。そういうケースが自然と浮かび上がるが、なんと試合時間は1時間59分。総得点も昨年の426から400に減ったのだ。本塁打が大量点に結びつくわけではないが、今大会で特徴的だったのは試合序盤に仕掛けて、試合の主導権を握り、得点を取った後は淡泊な攻撃で無得点。ダメ押しをしない先行逃げ切りのチームが殆どだった。

 それを現すのは先頭打者本塁打4本。優勝した大阪桐蔭の1番森 友哉、準優勝の光星学院天久 翔斗、2回戦で敗れた龍谷大平安井沢 凌一朗と長打力・ミート力を兼ね備えた選手を一番に置いて、あるいは二塁打以上の長打で無死二塁、無死三塁の状況を期待するチームが増えた。

 それに伴って1ストライクから積極的に打つチームが増え、それが試合短縮につながった。積極型スタイルの良いところは打者が受け身の姿勢にならず、自分の間で打つことが出来るところだ。1ストライクから積極的に打つスタイルが功を奏しているチームが多かった。その半面、打ち取られると短い球数で済んでしまうので、淡泊な攻撃になるデメリットがある。不利になった時に粘れない。今年は逆転劇が少なかったのは積極攻撃型スタイル故のデメリットが出てしまったからであろう。

▲篠原 優太(作新学院)

 積極的に打っていくか。それともじっくりボールを見極めていくべきか、振り回さずにセンター返し中心の打撃をするか。投手に応じて攻め方を変えなければならない。その使い分けが出来るチーム、好投手にも対応出来るチームが今大会勝ち上がった。

 大阪桐蔭光星学院に次いで対応力が高かったチームは作新学院だ。石井 一成篠原 優太高山 良介と中心とした打線は破壊力だけではなく、各打者が引っ張りに入らず、逆方向にも強い打球が打てる選手が揃い、攻めの幅が広い印象を受けた。去年はプロ注目投手を打ち崩してのベスト4入り、今年も要所の勝負強さを発揮してのベスト8。全国では常に打力の高さ、対応力の高さを発揮する作新学院は今後も注目だ。

 他には仙台育英佐久長聖浦和学院宇部鴻城富山工。甲子園の舞台で打力を発揮したチームが目立った。この5チームもジワリジワリと攻める逆転を狙うチームではなく、先行逃げ切りで、早めに仕掛けていくチーム。今年は先行逃げ切りの打撃型チームが集まりやすい年だった。

 記念大会となる95回はどんなスタイルを持ったチームがトレンドになっていくのか楽しみである。

(文・編集部 河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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