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【U-18 総括】1対0で守り勝つ野球を見事に体現した侍ジャパンU-18代表 来年、世界一になるための課題とは?

2016.09.06

 見事、アジア選手権で2大会ぶりの優勝を果たした侍ジャパンU-18代表。今回の大会を総括し、来年、カナダで開催されるU-18ワールドカップへ向けて、日本の高校野球は何をしなければならないのかを考えていきたい。

極めて難しい1対0で守り勝つ野球を見事に実現した史上最強の投手陣

堀瑞輝(広島新庄)と九鬼隆平(秀岳館)

【一次ラウンド】

香港 19対0試合レポート
台湾 3対0試合レポート
インドネシア 34対0試合レポート

【スーパーラウンド】

中国 8対0試合レポート
韓国 3対1試合レポート

【決勝】

台湾 1対0試合レポート

 日本は史上最強の投手陣と呼ばれた投手陣が期待通りの結果を残した。6試合中、5試合が完封。無安打試合が香港戦インドネシア戦中国戦の3試合。香港戦は寺島 成輝島 孝明のリレー、インドネシア戦は藤嶋 健人が5回完全試合、中国戦では、寺島、早川 隆久の完封リレーと圧巻の内容であった。

 強豪国との試合を振り返っても、まず台湾戦では3点のリードを今井 達也堀 瑞輝の投手リレーで完勝すると、そして決勝進出を決めた韓国戦では高橋 昂也が8回二死まで1失点の好投。再び堀が完璧なリリーフ。そして決勝の台湾戦では今井と堀のリレーで1対0で勝利と、まさに守り勝ちの試合が多かった。

 大会前の戦力分析では、投手陣の力量を評価し、打線に不安があると解説したと思う。2対1か1対0で勝つプランで臨まなければならないと述べたが、決勝戦は実際に1対0のスコアになった。野球経験者の方ならば、1対0で勝つのはかなり難しいと感じるはず。そんな難易度の高い勝ち方ができるのは、投手陣の集中力の高い投球と九鬼 隆平の緻密なリードがあったからこそだろう。

 九鬼の頭脳の高さは、寺島をリードした時のコメントに表れている。

「やはり日本でやる野球とは違い、自分たちよりパワーのある外国の選手と試合をするので、そういったところに対して毎試合、毎試合、成輝の一番良いボールでもあるストレートをただ投げるわけではなく、早いイニングはストレートを中心に、そこからは相手の様子を見ながら、配球を組み立てていこうという話はよくしています。今日は真っ直ぐで押せて、中国打線もストレートにタイミングが合っていなかったので良かったとは思いますね」

 またナイトゲームが多いので、マニキュアを塗って見えやすくしたり、さらに、投手の視力によってサインを変えたりと、気配りを感じられた。小枝 守監督は、6試合1失点に抑え込んだ。

「バッテリーを見ていて感じたのは状況によって順応性が高いことです。我々も勝つために高い要求をするのですが、彼らはしっかりと理解して、それに応えてくれ素晴らしい投手陣、捕手陣だったと思います」

 また6試合で3失策に抑えた守備陣の動きも見逃せない。ロースコアで勝利をモノにするには、投手の実力だけでは決して実現しない。そこには優秀な守備力を持ったバックの存在が必要となる。ショート部門・佐藤 勇基を中心に安定したスローイング、打球処理ができる選手がいた。エラーから失点をしない。そこが素晴らしかった。

 彼らは今大会3本塁打を放ったが、決して打てる打線ではない。何度もコールド勝ちしていた昨年の侍ジャパンU-18代表とはどうしても差はある。

 しかし今年の代表選手は自分の強みと弱みを理解していた選手たちであり、自分たちの強みである守備力、投手力をしっかりと発揮するために何をするべきなのかを理解し、打てなくても全力疾走を必ず行うなど、一瞬のたるみもなかった。ここは来年のU-18代表に引き継がれるべきところだろう。

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[page_break:高校2年生が5人もいた台湾代表、韓国代表]

台湾は自慢の強打で日本を追い詰めることができるか?


左から姜白虎(韓国)、王泓逸(台湾)

 さて、来年のカナダで行われるU-18ワールドカップ。清宮 幸太郎早稲田実業)を中心とした高校2年生が中心になりそうだが、ライバルである大会準優勝の台湾、3位の韓国はすでに来年へ向けての編成も行っている。

 1999年4月2日生まれ以降の選手がどれだけ代表入りしているのかを調べると、韓国、台湾ともに5人いた。18人中、5人は大きな割合である。その中には韓国ならば4番を打ち、2本塁打を放った姜白虎、日本戦で先発した140キロ右腕・金珉、先発投手として活躍した梁敞渉、台湾ならば、1、2番を打ち、そして投手として140キロの速球を投げ込む王泓逸、5番レフトでスタメン出場した邱達昱など主力野手として出ている選手が多く、彼らは6試合も戦った。

 韓国の4番姜は、台湾の4番打者・陳琥とこの大会を機に仲良くなったそうだ。そういう他国の選手たちの出会いもあり、早いうちから国際大会を経験するアドバンテージは非常に大きい。韓国代表、台湾代表にとって来年には大きく活きる大会であった。

 そのため選手の経験値という意味では、日本の高校2年生たちは韓国、台湾に後れを取っていることである。もちろん今回の日本代表もアジア制覇するためにオール3年生の編成になったのは致し方ないとはいえ、韓国と台湾はワールドカップへ向けて、そういう編成をしているということはしっかりと認識をしておくべきだろう。

 今年は清宮幸太郎早稲田実業)を選出するかしないか話題になったが、やはり台湾、韓国の2年生たちがこういう経験したのを見ると、非常に勿体無い選考をしたと感じない限り、日本は変わらない。清宮世代は、増田 珠(神奈川横浜)、安田 尚憲履正社)などレベルが高い野手がいる。世界大会へ向けての1、2年生も入れる編成も必要な時期に入ってきている。

 では国際経験した1、2年生がいない日本は何をしなければならないのか?それは国際舞台で活躍する投手はどういうタイプなのか、捕手はどういう能力が望求められるのか?内野手、外野手の守備連携で気を付けなければならない部分は?木製バットで強い打球を打ち返すために技術的に意識しなければならないことなど、世界に通用するための条件を、今の現役球児に伝える必要があるだろう。また小枝監督が記者会見で語った代表選手の素晴らしい姿勢、メンタリティもしっかりと学んでいく必要がある。

 日本に必要なのは、良かった点、課題となった点を引き継ぐことだ。代表監督によって選考される選手のタイプが変わってくるのは当然なのだが、高いレベルで活躍するための基本は指導者が変わっても共通しているといえる。

 これで振り出しに戻った侍ジャパンU-18代表。昨年、あと一歩で逃した世界一実現へ向けて、どんな動きを見せていくのか、注目をしていきたい。

(文=河嶋 宗一


注目記事
【第11回 BFA U-18 アジア選手権特設サイト】

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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