Column

【第98回選手権大会総括】今年は伝統校復活の1年!また課題となった継投策について考える

2016.08.22


優勝を決めた作新学院ナイン

 第98回高等学校野球選手権大会作新学院の54年ぶり二度目の優勝で幕が閉じた。今大会を振り返って、今年の高校野球のテーマは何か。大会通して、新たに課題として出たことについて総括を行っていきたい。

作新学院、北海が大躍進!今年は伝統校復活の1年

今井達也(作新学院)

 54年ぶり二度目の全国制覇を果たした作新学院
 それは2006年から監督を務める小針崇宏監督の力が大きいだろう。自身も作新学院のOBで筑波大を経て23歳で監督に就任。春夏連覇の経験のある同校を率いるプレッシャーはかなりあったはず。それでもしっかりと自分が目指すチーム作りをしていった。小針色が見えたのは、2011年夏の甲子園。佐藤 竜一郎(新日鉄住金鹿島)、石井一成早稲田大)など多くの強打者を揃えて、ベスト4まで勝ち上がった。犠打をあまりしない攻撃型のチーム。これが今の作新学院の原形となった。その時の小針監督の姿は今でも強烈で、この時、28歳。20代の若手監督は見た目は選手とあまり変わらない印象を受けることが多い。だが小針監督はこの時からベテラン監督のような風格があったのだ。何かが違う…。

 芯の強い指揮官と感じたのだ。だからこそ若くして作新学院を立て直すことができたのだろう。5年連続甲子園に出場。例年、破壊力ある打線を作り上げていたが、あと一歩及ばなかった。それが絶対的なエースの存在。それが今井達也だった。その今井も、2年の時はストレートは速いけど、制球力も不安定で、試合が作れない。3年春までケガが続きと、成長の予測が難しい投手であった。

 それで今では、常時140キロ後半。マックスは152キロ。そして130キロ後半のカットボール、フォークを投げ分ける投手へ成長。全国の強力打線も全く太刀打ちができなかった。今井の成長を我慢強く見守ってきた首脳陣、チームメイトの力も大きい。

 あの江川卓氏でさえ達成できなかった夏の甲子園優勝。エースの今井の投球ぶり、作新学院の戦いぶりはまさに伝説が残す戦いぶりだったことは間違いない。

 まだ小針監督は33歳と若く、今のまま続けば、作新学院はこれから10年~20年と常に甲子園出場を狙える名門校として君臨することは間違いない。

また作新学院に限らず、88年ぶりのベスト4進出を果たし、初の決勝進出の北海など伝統校の躍進も目立った。北海は伝統のガッツポーズをしない、基本に忠実な野球を最後まで実践し続けた。感情のブレは少なく、守備で乱れる試合も少なく、終盤に強さを発揮する北海ナインの戦いぶりは、全国の球児にとって参考になるものであった。ケガで苦しんでいた北海。甲子園で勝てるにはどんな野球を見せればいいか。それを長年取り組んでいたことが今年実を結んだ。また伝統校の復活は、選抜準優勝の高松商もそうだろう。春夏通じて20年ぶりの甲子園に出場。強敵を破って、55年ぶりの決勝進出。1983年以来の甲子園出場を決めた市立尼崎も地元のファンを喜ばせた。29年ぶりの出場を決めた九州最古の公立商業高校・長崎商も29年ぶりの甲子園出場を決めた。

 伝統校の復活は1つのテーマだったといえる1年だった。

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[page_break:実感した継投策の難しさ 大事なのは周到な準備と対策だ]

実感した継投策の難しさ 大事なのは周到な準備と対策だ

山口裕次郎(履正社)

  今大会で実感したのは継投の難しさ。横浜履正社花咲徳栄とプロ注目のエースを擁したチームが、エースが登板せず、それ以外の投手が2回に5失点をして、取り返すことができず敗れるという事態になっている。こういう流れは連鎖するもの。他の学校の投手起用に大きな影響を与えたのは間違いない。優勝した作新学院は、過去の甲子園を振り返っても継投策をするチームで、今年も控え投手の力量も高い。しかしエース今井が相手が強敵だったというのもあるが、5試合で4完投したように、エースが先発しないで負けてしまった流れを見て、勝つためには継投策ではなく、1人で投げざるを得ない大会の雰囲気となっていたのではないだろうか。

 継投策は難しいものだが、先発投手、あるいはベンチスタートする投手の精神的な負担を軽減するための工夫はできる。先攻が良いのか、後攻が良いのか、その投手は、その打線に相性が合うのか、合わないのか。立ち上がりに不安を抱える投手にはどんな配球をすればよいのか、どんな準備をすればよいのか。また控える投手も登板してすぐに実力を発揮できる準備態勢はできていたか。さらに打撃力の高い投手はスタメンで起用するべきか、ベンチスタートにするべきかなど、そこまでの判断が問われる。

 これを満たしても結果が出るわけではない。しかし明らかに準備不足で、力が出ない状況のまま登板させていきなり打たれて流れを明け渡すというチームもあった。それは反省しなければならない選手起用で、継投策を成功させるには周到な準備とベンチワークがその投手の実力を発揮させるために大事なことだと実感させられる大会となった。

 そう考えると、ベスト4に終わったが、最大5人の投手を抱え、常に多くの投手の継投リレーで勝ち上がってきた秀岳館の起用は先進的なものであった。秀岳館の各投手は普通の学校ならば長いイニングを投げてもおかしくないぐらいの実力があった。秀岳館は普段行っている投手起用で二季連続ベスト4に進んだので、今後も継投策を当たり前にすると思う。

 また継投を使ったいなべ総合盛岡大附の投手陣の力量を見ると、全国的に見ても平均レベル。できないことはないのだ。しかし大舞台でも継投策を成功させるには、普段からのチーム作りしかなく、3チームはもともと新チーム当初から実践していた。いきなり継投策といってもできるものではないのだ。指揮官が的確な判断を行い、投手もどんな場面でも力を発揮するには、時間をかけて試して経験を積むしかない。

 これは1人の投手に対して、過度な負担をかけないためにも、そして多くの投手に登板機会を与えることで、選手として戦う意義も感じるのではないだろうか。そうなるとベンチ入りの選考の重要度はますます高くなっている。大会を勝ち切るために投手は何人にするべきなのか、内野手、外野手は誰にするべきなのかなど。ぜひ来年の夏の甲子園を夢見る各校は、勝ち上がった学校、負けた学校のいろいろな例を見てチーム作りを行ってもらいたい。

(文・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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