伝説となった決勝延長再試合プレイバック!話題の「樟南」が京都翔英と激突!
今年の夏の甲子園をかけた鹿児島大会の決勝戦は鹿児島実と樟南、第1、2シードの実力校同士の激突となった。夏休み最初の日曜日だった7月24日にあった決勝戦は、1対1のまま延長15回でも決着がつかなかった。98回の鹿児島大会史上初となる再試合が2日後にあり、こちらも1点を争う緊迫した展開の末、樟南が3対2で競り勝ち、3年ぶり19回目となる夏の甲子園への切符を手にした。
守備の樟南!伝説の一戦を振り返る!
綿屋 樹(鹿児島実)
樟南と鹿児島実。長く鹿児島の高校野球界をけん引し全国にもその名をとどろかす強豪校同士で、その直接対決は「伝統の一戦」として常に注目を集めている。伝統的に鹿児島実が「桜島打線」などと評されるような強打のイメージに対して、樟南は好投手を中心にした堅守、送りバントを確実に決めるなど堅実なチームの印象が強い。
今年のチームも、鹿児島実は全国でも注目される綿屋樹主将(3年)をはじめ、板越夕桂(3年)、追立壮輝(3年)ら昨夏の甲子園を経験した強打者を擁し、不動の4番・綿屋以外は相手投手によって多彩なオーダーを組める攻撃型のチームだ。準決勝まで5試合中3試合でコールド勝ちと攻撃型のチームらしい内容で決勝まで勝ち上がった。一方の樟南は浜屋将太(3年)、畠中優大(3年)の左腕2枚看板をフル活用した。コールド勝ちは3回戦の徳之島戦のみだが、準々決勝まで4試合を完封勝ち、準決勝まで5試合を無失策と堅守、堅実な樟南らしい勝ち方だった。
今大会を振り返ると、第4シード鹿児島城西が沖永良部に初戦で敗れるなど、8つのシード校のうち4校がベスト8に残れなかった。準々決勝では志布志がれいめい、鹿児島川内が神村学園、ノーシードから勝ち上がった県立校が優勝候補に挙げられるシード校を倒すなど、波乱の多かった大会だった。そんな中で決勝に勝ち上がったのは優勝候補の本命と目された2校で、伝統校の底力を印象付けた。県内最強の「鉾」=攻撃力を持つ鹿児島実に、県内最強の「盾」=守備力を誇る樟南。「鉾」が勝つか? 「盾」が威力を発揮するか? いずれにしても、今年の鹿児島は最も力のあるチームを代表として送り出すことが確定した。
樟南の盾、鹿児島実の矛
谷村 拓哉(鹿児島実)
終わってみれば2日間、計24イニング、6時間27分の死闘の末、樟南が再試合を1点差で競り勝った。本戦が延長15回で1対1、再試合は3対2、スコアが如実に物語るように樟南の「盾」が鹿児島実の「鉾」を機能させなかったことが最大の勝因といえるだろう。
樟南は、「盾」の中でも最も大きなカギとなる浜屋、畠中の左腕2枚看板の持ち味を機能させた。決勝の前日にあった準決勝、鹿児島実は第1試合で志布志に5回コールド勝ちだったのに対して、第2試合の樟南は鹿児島川内と延長13回、3時間21分の死闘に辛勝だった。エースの浜屋は192球を1人で完投。樟南としては準決勝から24時間空かずに決勝を戦わなければならない。
決勝戦で樟南がどんな投手起用をしてくるか、大きな見どころの一つだったが、山之口 和也監督は畠中を先発させた。「2巡目まで抑えてくれれば」という指揮官の期待に見事に応え、1巡目を完璧に封じ5回1失点で試合の流れを作った。6回から浜屋がリリーフ。4回に鹿児島実が4番・綿屋のチーム初安打が同点打となり、「鉾」が機能しかけたところでの見事な継投だった。以後、浜屋は15回まで10イニング、139球13奪三振で、鹿児島実打線に本塁を踏ませなかった。
鹿児島実の「盾」もまた見事で、エース谷村拓哉(3年)を中心に9回以降再三再四訪れたサヨナラ負けのピンチをことごとくしのいだ。要注意な左打者は敬遠し、勝負を急がない策も徹底していた。15回裏、樟南が二死一二塁と最後のチャンスを作り、代打・宮下 剛(3年)がレフト前ヒットを放ち、二走・吉内 匠(3年)が三塁コーチャーの静止を振り切ってホームを目指すも、鹿児島実は落ち着いた中継プレーで本塁タッチアウト。試合時間4時間の死闘で決着がつかなかった。
強いから勝つのか?勝ったから強いのか?
畠中優大(樟南)
2日後の再試合、こちらも両チームが誰を先発させるかを個人的には注目していた。地元FMラジオの電話出演で「樟南は2日前と同じく畠中君の先発で行くのではないか。鹿児島実は丸山(拓也・3年)君、泰(厚志・3年)君の先発も十分考えられる」と予想した。鹿児島実の先発は予想通り丸山だったが、初回2失点喫した時点で1回途中からエース谷村がリリーフした。一方、樟南は2日前とは逆に浜屋の先発だった。
準決勝、決勝と見事な投球を披露した浜屋だったが、2試合で331球を投げたダメージが明らかに残っており、本調子ではなかった。4回2失点、5回表無死満塁とピンチを招いたところで、山之口監督は満を持して畠中をリリーフに送った。
ここがこの試合の最大のヤマ場だった。「リリーフは苦手。きょうも僕が先発だと思っていた」畠中だったが「投げられるなら、どこでもいい。ここで抑えたら自分がヒーローだ」と強い気持ちでマウンドに上がり、5番・板越をファーストゴロ、6番・追立、7番・井戸田智也(2年)を空振り三振で打ち取り、最大のピンチを無失点と最高の結果で切り抜けた。
鹿児島実の宮下 正一監督はあの場面で「スクイズで同点は考えなかった」という。「一気に畳みかけてビッグイニングにしたかった」。それまでの展開を考えればその選択は決して間違ってはいなかっただろう。宮下監督が「あそこでうちの中心打者の板越、追立が打ち取られるとは」と脱帽するほど、畠中のボールのキレ、何より気迫が勝っていた。
6回以降、畠中は鹿児島実打線に二塁も踏ませない好投で追加点を許さなかった。樟南が3回裏に挙げた勝ち越し点は、満塁から併殺の間に挙げたもの。その1点をまさに「守り勝った」といえる。
「強いから勝つのか、勝ったから強いのか、長年こういう世界にいるけど、その答えは分からない」
鹿児島実を35年率いた名将・久保 克之名誉監督は試合後の全体ミーティングで語った。
「一つ言えるのは、[stadium]甲子園[/stadium]に行けるのは途中で必ず苦しい試合を勝ってきたチームだ」
奇しくも山之口監督は「準決勝の鹿児島川内戦を勝ったことがチームの自信になった」と言う。この1年間、樟南は大事な試合で守り切れずに接戦を落としていた。新チーム最初の公式戦の鹿児島市内大会初戦の鹿児島池田戦、センバツがかかった九州大会準々決勝の日南学園戦…これら過去の敗戦を教訓にチームは「浜屋、畠中を中心に守り勝つ」野球が自分たちの原点であると心に刻み、夏に向けて仕上げてきた。
鹿児島川内戦の直後、前川大成主将(3年)に「決勝も厳しい戦いになりそうだけど…」と話を向けると「打線は水物。最後は守りのチームが勝つ」と胸を張ってそう言い切った。まさしくその「予言」通りになった。
(文・政 純一郎)
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