【選抜大会】注目左腕対決となった早川隆久vs高山優希の投げ合いを振り返る
左から大阪桐蔭・高山 優希、木更津総合・早川 隆久
「今日の第3試合のプロ注目左腕対決、面白そうだよな」
「二人ともいいピッチャーだもんなぁ」
「勝った方がベスト8進出か」
「大阪桐蔭の強力打線を木更津総合の早川がどう抑えるかがポイントかな」
選抜大会7日目の昼下がり。[stadium]甲子園球場[/stadium]のチケット売り場付近にて、50代と思しき男性2人がそんな話をしていた。
前を歩く坊主頭の小学生3人も、
「大阪桐蔭のエースの高山は最速150キロを投げるらしい」
「木更津総合の早川はテレビで見ててもキレがすごいのがわかるよな」
「なぁなぁ、どっちが勝つと思う!?」
といった話題に花を咲かせ、大いに盛り上がりながら外野席の入場門をくぐっていった。
この日は土曜日。天候は快晴。第3試合が始まろうとしている時点で[stadium]甲子園[/stadium]のスタンドは41,000人の大観衆で埋まっていた。センター後方にそびえる黒のスコアボードに白色の電光掲示で名前が記されていく両校のスターティングメンバー。先発投手としてアナウンスされたのは、両チームのエースである、大阪桐蔭・高山 優希(インタビュー)、木更津総合・早川 隆久(インタビュー)の名だった。
木更津総合のエースが熱望した聖地での再戦
高山と早川の投げ合いは、今年のセンバツが初めてではなく、前年秋の神宮大会の2回戦にて既に実現していた。関東大会の覇者と近畿大会の覇者の激突となったこの試合を制したのは大阪桐蔭だ。スコアは5対2。先発・高山は初回に峯村貴希(インタビュー)に先頭打者アーチを浴びたものの、最速141キロのストレートを軸に9回を2失点に抑える完投勝利を記録。準決勝の高松商戦では自己最速となる150キロをマークし、一躍、世代最速左腕となった。
一方の早川は3回に6番・栗林佑磨に痛恨の逆転3ランを浴びるなど、7安打4失点を献上し、7回途中で無念の降板。奪三振は2個にとどまり、与えた四死球は7個。ストレートの走りも制球力も本調子とは遠い投球内容のまま、2015年最後の公式戦登板を終えてしまう。
のちに明かされた情報によれば、この時、早川は関東大会から続く腰痛に悩まされ、神宮大会後に疲労骨折していたことが判明した。以降、運動はドクターストップがかかり、全体練習を約2ケ月間離脱。練習用の帽子のつばの裏には「打倒・大阪桐蔭 2-5」と神宮大会の敗戦スコアを記し、リベンジを常に胸に秘めながら、「低めの制球力向上」という課題にも取り組み続けた。「センバツの木更津総合は早川の腰の回復次第」と評される中、ギリギリのところでセンバツ大会に間に合わせることに成功した。
3月22日に行われた1回戦の札幌第一戦では6安打2失点の完投勝利。最速140キロのキレのあるストレートを軸に10個の三振を奪った。翌23日は大阪桐蔭の初戦。高山はストレートのスピードこそ最速139キロにとどまったものの、変化球主体のクレバーな投球で土佐打線を8回でわずか2安打に封じ無失点。終わってみれば9対0で大阪桐蔭の圧勝。聖地での再戦を熱望し続けていた早川の願いが叶った瞬間でもあった。
そして2016年3月26日、午後14時1分。注目の2回戦の開始を告げるサイレンが[stadium]甲子園球場[/stadium]に鳴り響いた。
神宮の借りは甲子園で返す!
3回表木更津総合一死一、二塁、鳥海 嵐万の適時打で二走木戸が生還。捕手栗林 佑磨
試合はいきなり動いた。1回裏、大阪桐蔭は3番・吉澤一翔が早川の投じた高めのスライダーをとらえ、レフトスタンドへ先制のソロホームランを放つ。
ざわめくスタンド。「早川でも大阪桐蔭打線は抑えられないんじゃ…」「ワンサイドゲームになるんちゃうか?」といった声が周囲からは聞こえてくる。そんな「大阪桐蔭優勢」の空気を一変させたのが3回表の木更津総合の集中攻撃だ。一死満塁の好機で3番・小池航貴が詰まりながらレフト前に2点タイムリーを放つと、続く4番・鳥海嵐万、5番・山下輝にも連続タイムリーが飛び出し、難攻不落と思われた高山にこの回だけで5安打を浴びせ、一挙4得点。試合の主導権を一気に握った。
「ホームランを打たれたことで気を引き締められました」
初回にホームランを喫した後の早川の投球は安定感抜群だった。ストレートの最速は139キロ、アベレージは130キロ前後ながら、抜群のキレと出所の見づらい球持ちのいいフォームで打者を差し込む。そこへ徹底した低めへの意識が加わり、終わってみれば9回を5安打1失点。序盤のリードをそのまま守り切った木更津総合が4対1で大阪桐蔭を下し、45年ぶりとなるベスト8進出。昨秋の神宮大会の雪辱も見事に果たした。
「打倒大阪桐蔭を掲げていたので嬉しい。大舞台でリベンジできてよかった」と試合後に笑顔で語った早川。木更津総合は12年夏の甲子園でも藤浪晋太郎を擁する大阪桐蔭に2対8で敗れており、チームとしては3度目の対戦で果たしたリベンジ劇だった。「初回に本塁打を打たれた後は低めに投げることを意識し、チェンジアップをしっかりと生かしながら、打たせて取る投球ができた」
木更津総合・五島 卓道監督は「神宮大会で敗れて以来、早川は再戦を熱望していた。オフに取り組んできたローボールに徹した投球ができていた。勝負所でいいワンバウンドを投げていました」とエースの会心の投球を称えた。
「秋の神宮大会の時に比べると早川くんは低めへの変化球がよくなっていた」と証言したのは大阪桐蔭の西谷 浩一監督。「こういういいピッチャーを打っていかないと勝てません…」と絞り出すような声で続けた。
ラストサマーに向けて
「詰まらせたけど、最後の押し込みが足りなかった。ボールに強さがなかった」
敗戦投手となった高山は、ストレートをことごとくとらえられ、集中打を浴びた3回の投球をそう振り返った。
この試合、結果的には高山が失点を喫したのは犠打と四球を挟んで5連打を浴びた3回のみ。4回から7回にかけては一本のヒットも許さず、トータルでは7回4失点にまとめたが、ストレートの最速は145キロ。大半は130キロ台に終始し、150キロをマークした昨秋の神宮大会の状態には程遠かった。
「大会を通して体のコンディションは良くなかった」
実は大会直前に腰痛に襲われ、常時不安を抱えながらの投球だったという高山。本人はその部分に触れたがらないが、どうやら神宮大会で本来の力を出し切れなかった早川と似た症状の中で、センバツ大会の高山はマウンドに上がっていた。7回、100球で降板した理由でもあった。
西谷 浩一監督は「この春はいいコンディションに持っていってやれなかった」と悔やんだ。まったく投げられない状態ではなかったが、常に力を入れた投球は困難だったようで、体が無意識にセーブしてしまうことも、ストレートの平均球速が上がらない要因となっていた。
試合後、高山の気持ちはすでに次の季節を見据えていた。
「悔しさしかない。夏は狙われても打ち返されないくらいの強いボールを投げたい。夏にすべてをぶつけたい」
一方大阪桐蔭戦の2日後に行われた秀岳館との準々決勝に中一日で先発した早川。8回まで被安打わずか2の完璧な投球を披露し、準決勝進出まであとひとりという状況にこぎつけながら、痛恨の逆転サヨナラ敗戦を喫してしまう。試合後、早川は悔しさをにじませながら、高山同様、しっかりと前を見据えたコメントを口にした。
「最後の最後でまっすぐが甘いところに入ってしまった。試練を与えてもらったと思って、夏までに課題を克服し、成長したい。そして夏に帰ってきたい」
現状に満足することを知らない、伸びしろたっぷりの両左腕に今後も要注目だ。
(文・服部 健太郎)
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