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2016年の高校野球を占う【茨城編・前編】「昨秋ベスト4の戦いぶりと戦力を紹介」

2016.03.07

 秋季県大会で4強入りしたチームは春の地区予選を免除され、県大会のシード権を獲得する。茨城の高校野球を占うにあたって、まずはシード権を獲得した4校の秋の戦い振りと、注目選手について述べていきたい。

県内公式戦不敗の鈴木 昭汰(常総学院)

鈴木 昭汰(常総学院)

 常総学院秋季県大会決勝霞ヶ浦に逆転負けを喫して2位となったが、秋季関東大会では横浜日本航空桐生第一と並み居る強豪に競り勝ち、2年連続のセンバツ出場権を獲得した。
チームの中心はもちろんプロ注目左腕・鈴木昭汰。最速144キロを誇るストレートと、一級品のスライダーに磨きをかけ、さらにチェンジアップやツーシームを体得するなど進化を続けている。秋季県大会では2試合16イニングを投げ、被安打7、奪三振はイニング数を大幅に上回る24個と次元の違いを見せた。続く関東大会では2試合連続で完投勝利し、センバツ出場をほぼ確実なものにした。

 1年春に公式戦デビューを果たした鈴木昭汰だが、1年夏の県南選抜大会決勝(準公式戦)で霞ヶ浦を相手に負け投手となったことはあるものの、肝心の公式戦ではいまだに県内不敗を続けている。また鈴木はピッチングだけではなく、打力にも非凡な才能を持つ。秋季県大会では13打数9安打でうち3本が二塁打、打率.692と手がつけられなかった。俊足を生かして1番打者として出場をしていた。

 常総学院は鈴木だけではなく、最速143キロ右腕の樫村雄大も存在感十分だ。昨年は春から夏まで肩の怪我で戦列を離れ、下半身トレーニングに専念したことが功を奏し、戦列に復帰するやいなや球速が10キロほど上がった。県大会決勝では終盤にスタミナを切らして連打を浴び辛酸をなめたが、再び先発を任された関東大会準決勝では、桐生第一を相手に力強いボールを低めに集めて4安打完封勝利を収め、スタミナ面でも自信をつけた。縦に落差のある高速カーブは樫村の代名詞だ。これまで時折見られた荒れ球だが、経験を積んで試合の中で修正する技術も備わってきた。2番手にするにはもったいない投手といえるだろう。

 打者の注目株は4番を務める宮里豊汰(新2年)だ。県大会では背番号20ながら12打数6安打と結果を残してレギュラーに定着すると、関東大会1回戦ではドラフト上位候補・藤平尚真横浜・2016年インタビュー【前編】 【後編】)から公式戦初アーチを放ち勝利に大きく貢献した。さらに、決勝戦(木更津総合)でもレフトに豪快な3点本塁打を放って強烈なインパクトを残したことで、すでに全国から注目を浴びる存在となっている。

 中学時代に軟式の県選抜・オール茨城に選出され、Kボール全国大会準々決勝で新潟KBクラブを相手に2安打無四球完封勝利した実績をもつ有村恒汰は、当初投手として入部したが、50メートル6.1秒の俊足と守備範囲の広さを買われて昨夏野手に転向。秋から正二塁手の座を掴んだ。適応力のある選手で、今では上位打線に欠かすことのできない攻撃の起点となる存在だ。

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[page_break:優勝の霞ヶ浦はセンバツに届かず]

優勝の霞ヶ浦はセンバツに届かず

飯村 将太(霞ヶ浦)

 霞ヶ浦秋季県大会決勝常総学院を破り優勝し、秋季関東大会1回戦(文星芸大付戦)の延長15回に及ぶ死闘を制してセンバツ当確まで後1勝とした。しかし、続く準々決勝東海大甲府戦)では1安打完封コールド負け(0対8)を喫し涙をのんだ。主将でエースの右腕・飯村将太は最速130キロ台後半のストレートとスライダーを織り交ぜる。県大会では4試合28イニングで自責点1と相手打線を寄せ付けなかったが、関東大会では2試合で自責点9と攻略された。球威と制球力を磨いて、春の関東大会でのリベンジに期待したい。

 2番手格の左腕・根本将汰は制球力が信条だ。ややスリークウォーターに近い高さからチェンジアップとカーブを両サイドに投げ分ける。打撃技術が極めて高く、登板しない日は野手でフルイニング出場する、チームになくてはならないユーティリティプレーヤーだ。秋季県大会では14打数9安打とチームトップの打率をマークした。また、ファーストやライトの守備では難しい打球でもこともなげに処理できる。

 打線の鍵を握るのは4番を打つ根本薫だ。1年夏から打撃の潜在能力はチーム随一と目され、中軸で起用され続けているが、昨夏は無安打、秋季県大会ではヒット1本のみと不調が続いた。しかし、関東大会1回戦ではようやく長いトンネルから抜け出し、7打数3安打3打点とチームをけん引する勝負強さを見せた。好不調の差が激しいが、爆発力のある怖い打者である。不調にあえいだ経験を糧にプレッシャーを解き放ち、好調を維持するメンタリティを身に付けたい。

 佐野 如一(よしかず)は秋季県大会決勝常総学院樫村雄大からセンターオーバーの同点適時二塁打を放った。中学時代は土浦霞ヶ浦ボーイズで鈴木昭汰常総学院)の女房役として注目されたが、昨秋から打力を生かすため外野に専念している。

県北の伝統校・日立一と太田一の躍進

 上記のいわゆる私学2強のほかに、県北地区随一の進学校であり、古豪、伝統校でもある公立の2校が4強に勝ち残った。
日立一県大会1回戦(下館工戦)で、1点ビハインドの7回裏に代打・鈴木彩斗が逆転2点本塁打を放ち接戦を制すと、続く土浦一波崎柳川にも競り勝って、昨夏の準優勝に続いて2季連続となる4強入りを果たした。準決勝・(常総学院戦)では、1回表に守備のミスで先制を許すが、その裏、立ち上がりにバタつく鈴木昭汰を一死満塁と攻め立てた。しかし、強攻策が裏目に出て無得点に終わり、その後は復調した鈴木昭の前に三塁を踏むことすらできず、無念のコールド負けを喫した。また、大会後は21世紀枠茨城県推薦校に選ばれたが、関東・東京地区の候補からは外れた。

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[page_break:県北の伝統校・日立一と太田一の躍進]

鈴木 彩斗(日立一)

 右腕・鈴木彩斗は旧チームからエースで4番を務める。投手としては、最速130キロ中盤のストレートと縦割れのパワーカーブを組合せて打者の裏をかく。パワーカーブ中心に配球することが多く、変化球のコントロールには絶対の自信を持つ。打者としては、外野の間を鋭い当たりで抜いていくミドルヒッタータイプで、チャンスにめっぽう強い。県大会準々決勝・(波崎柳川戦)では、5打数4安打と大暴れした。物静かで冷静沈着な外見とは対照的な熱い闘争心を秘めており、結果でチームを鼓舞する。秋は股関節の故障で100パーセントのパフォーマンスができなかったが、春は万全の状態で迎える。

 左腕・片山皓心は昨夏調子を落としたが秋には復調。県北地区予選から県大会2回戦まで3戦連続先発し、3勝を挙げるエース級の活躍をした。片山が計算できる投手に成長したことで、戦力はより磐石になった。

 太田一は平成元年秋に準優勝して以来、26年ぶりの快進撃だった。昨夏は開会式直後に行われた開幕試合で日立北に0対3で敗れ、茨城県で最も早く新チームがスタートしたが、その船出は決して順風満帆とはいかなかった。8月の県北地区ジュニア大会(新人戦)では、1回戦で茨城高専にコールド負けを喫し、秋季県北地区のBシードに甘んじた。しかし、ここから太田一の快進撃が始まる。

 県北地区予選は1回戦で東海に10対2と大勝すると、次戦はAシード・多賀に4対3で粘り勝って地区代表権を獲得。県大会1回戦では、昨春、霞ヶ浦綾部翔(横浜DeNA5巡目指名2015年インタビュー)に投げ勝った中塚智を擁する難敵・守谷から、4イニングで13点を奪い5回コールドで圧勝。勢いそのままに2回戦は、昨夏、常総学院を破って4強入りし、主戦・有馬海人を筆頭に夏の主力を多数残す東洋大牛久に、6対2で勝利を収め5年ぶりの秋8強入りを果たす。準々決勝では、第3シードの水城に2対1で競り勝ち、実に26年ぶりの4強入りとなった。

 さらに関東大会がかかった大一番・準決勝では、[stadium]ひたちなか市民球場[/stadium]に詰めかけた太田一OBやファンによる大声援を背に受け、第2シードの霞ヶ浦を相手に息詰まる大接戦を演じた。右腕エース・和田凌吾が自慢の制球力でインコースを強気に攻め、牽制刺殺も絡めてピンチを凌ぐと、ショートの川崎進也ら野手陣も好守で盛り立てる。そして0対1で迎えた9回表、二死一、二塁と一打同点のチャンスが到来すると、太田一OBやファンのボルテージは最高潮に達し、スタンドでは一球ごとに地鳴りのような大声援が起こった。しかし、後続には当たりがなく、太田一の快進撃はここでついえた。

 20数年前までは、県北の雄として県大会上位進出の常連校だった太田一だが、近年は低迷が続いていた。それだけに昔の栄光を知るOBやファンの嬉しさはひとしおだったに違いない。。球場に響くそうした大人たちの割れんばかりの大声援には、心を揺さぶる力があった。準決勝で敗れはしたが、強豪校を次々となぎ倒して関東大会に王手をかけた快進撃は、太田一野球部を気にかける人たちに多大なる活力と希望を与えたに違いない。春以降も、太田一の戦いぶりには注目したい。

後編ではこの4強を追う各校の紹介、注目選手を紹介します。

(文・伊達 康


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2016年度 春季高校野球大会特集

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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