Column

第88回選抜出場校が決定!注目の近畿枠、関東・東京枠の選考のポイントを徹底解説!

2016.01.31

 1月29日に今年の選抜高校野球出場校が決定。そこでドットコム試合レポートでお馴染の河嶋 宗一氏と松倉 雄太氏が選考について語り合う。

市立和歌山、報徳学園の試合内容を比較

まさに息をのむ投球を見せた主島大虎(報徳学園)

河嶋:選抜出場校が決まりました。私は今回、関東・東京6枠目と、そして近畿の6枠目が気になっておりました。選考委員会を取材された松倉さんは、どこに注目されました?

松倉:中国・四国地区、関東・東京地区などは例年通り難しい選考となったようです。その中で私が注目したのは近畿地区の6校目です。

河嶋:といいますと?

松倉市立和歌山報徳学園が最後に選考の土俵に残りました。敗れたゲームを比較すると、市立和歌山は7回コールドゲーム(試合レポート)、報徳学園は延長14回の末の0対1(試合レポート)と数字上は差がついたように見えます。しかし実際には市立和歌山が選出。その裏には、生で見ないとわからない野球の、勝負の難しさがありました。

河嶋:私は報徳学園vs滋賀学園試合レポート)を見ましたが、報徳学園主島 大虎投手と滋賀学園神村 月光投手の投げ合いは素晴らしく。まさに息をのむ試合でした。

松倉:私はその日は東海大会準決勝の取材に行っていて直接は見られなかったのですが、帰りにラジオでその熱戦は聞いていました。それだけでも迫力は伝わってきました。

河嶋:敗れはしたが、報徳学園の主島投手はキレのある速球で次々と滋賀学園の打者から空振りを奪い、兵庫県を代表する投手との印象を受けました。

松倉:後日、報徳学園の永田 裕治監督も、「秋のベストピッチング」と話していましたね。

河嶋:翌日、私は中国大会へ、松倉さんは近畿大会を取材されましたが、市立和歌山vs明石商はどうだったのでしょうか?

松倉結果はコールドゲームでしたが、6回裏に明石商が1点を先制するまでは、市立和歌山赤羽 陸投手と明石商吉高 壯投手の投げ合いで両チーム0行進でした。それで7回表に市立和歌山が二死一、三塁と逆転までできるチャンスを作って8番の赤羽投手に打順が廻ったわけです。

 ここで半田監督は代打に大野 新太選手を送った。試合後にも「勝負をかけた」と話したように、まさにここしかないという場面でした。しかし結果は三振で明石商の吉高投手に軍配。逆転どころか同点にできなかった市立和歌山は二番手として左腕の栗栖 拓巳投手に交代することになりました。

河嶋:栗栖投手は前日の1回戦(vs平城試合レポート)でも最後の打者1人だけ投げました。キレのあるストレートを投げ込む本格派左腕で、もう少し見てみたいと思わせる好投手でした。

松倉:そう、県大会から赤羽投手とダブルエース的存在で半田監督も大きな信頼をしていて、だからこそ投手への代打という勝負ができました。

 しかし、その栗栖投手が4四死球などで自滅してしまった。特に代わってすぐに8球連続でストライクが入らず、ここでメンタル的にも苦しくなってしまったと思います。結局このイニングで1つのアウトしかとれず、6点を失ってのコールド負け。勝った明石商にとっても驚きの展開だったようです。

このページのトップへ

[page_break:市立和歌山のコールド負けがマイナス評価にならなかった理由]

市立和歌山のコールド負けがマイナス評価にならなかった理由

悔しい登板に終わったが選抜に期待したい栗栖拓巳(市立和歌山)

河嶋:野球で時々見かける勝負の難しさですね。それで選考委員会で、この2校はどのように比較されたのでしょうか。

松倉:近畿地区の杉中豊 小委員長は、実際に生で見た市立和歌山の試合展開を重視していて、「勝負の一手で(失敗して)負けたことの関してのマイナス評価はどうかな」という意見が出たことを明かしました。そこで両校を細部まで比較し、「県大会からの公式戦の成績を見て、市立和歌山の方が打率も防御率も上回った。

 報徳学園は逆に近畿大会での打率と防御率が良かった。そこで両校を同等と判断しました」と優劣をつけることができないとの見解にたどりついたわけです。

河嶋:なるほど。報徳学園の延長14回と主島投手の好投は近畿大会のハイライトと言ってもいいくらいですが、市立和歌山が勝負の一手の失敗ということで、コールドゲームがマイナス評価をされなければ、両校は同等と見られたわけですね。

松倉:しかし枠は6で、5校目までが決まっている。どちらかを選出しなければいけない。そこで選考委員会での最後のよりどころが地域性ということになるわけです。それと報徳学園は県2位、市立和歌山は県1位と負け数には1つだけ差があったことも忘れてはいけないと思います。

河嶋:松倉さんはこの選考をどう感じられました?

松倉:私は報徳学園vs滋賀学園を生で見れていないので、その試合はどうこう言えないのですが、市立和歌山に関してはもしこのコールド負けが原因で選出されなかったとしたら、『半田監督は選手に申し訳なかったと謝らなければいけない』とずっと思っていました。

 それだけ勝負の一手に失敗したということが大きく響いたからです。でもリリーフ投手への信頼があり、しかも逆転まで考えられる絶好のチャンスであり代打で勝負をかけていい場面です。明石商の吉高投手が前の打者に四球を与えたことで赤羽投手に廻ったわけで、これも結果的にはポイントになったと思います。前の打者を打ち取っていれば、代打を出されない赤羽投手は続投していた可能性が高い。本当に勝負は難しい、奥が深いと考えさせられた試合でした。

 今回の選考委員会でその難しさの部分がクローズアップされたのは、大きな意味があったと思います。ただし市立和歌山報徳学園が同等と判断されたことは強く強調したいです。どちらかを選ばなければいけない選考委員の苦悩もわかっていただきたいなと思います。

河嶋:21世紀枠で長田が選ばれたことで、兵庫3校を避けたとも考えられますが、その辺りはどうなのでしょうか?

松倉:確かに時系列では先に21世紀枠の選考会議が終わります。同枠で選ばれなかった学校は一般枠の会議が行われている部屋に加えられますので、近畿地区の部屋からすれば「長田が自分たちの部屋にはこなかった」と認識できます。

 ただし杉中委員長は記者会見で「一切関係ない」と話しました。これは昨年、桐蔭(和歌山)が21世紀枠で選ばれた時と同じフレーズです。外からは色々詮索できますし、実際に関係があると思っている選考委員もいたかもしれませんが、委員長は「関係ない」という以上は、それを踏み越えてまでつっこむべきではないと思います。

このページのトップへ

[page_break:選考委員会のポイントが、なぜ選考委員会の眼であるのか]

選考委員会のポイントが、なぜ選考委員会の眼であるのか


全道大会決勝と二松学舎vs早稲田実業が同日だったのもポイント!?

河嶋:それでは、毎年、選考委員会のポイントになる部分は何なのでしょうか?

松倉:それは選考委員の“眼”です。実際に主催する毎日新聞の大坪 康巳スポーツ事業部長も「データはあくまでも参考資料。実際に選考委員の方に現場に行っていただいて眼で見て判断をしていだだきます」と記者会見で話しました。それだけ生で見るということが重いわけです。

 選考委員は社会人野球や審判を経験された方など、野球に関する知識が豊富な方々ばかりです。もちろん、ほとんどが元高校球児で甲子園を目指していた。その皆さんが選考委員会という場で会議する。当然考え方は十人十色なので、意見が違う場合もあります。今回もひょっとすると報徳学園の14回の内容を支持する人がいたかもしれません。しかし全員で話し合って一つの結論を導き出す。これは一般社会における会議と同じだと考えます。

河嶋:近畿大会では報徳学園市立和歌山の負けた試合の日が違いました。それは関係あると思われますか。

松倉:近畿大会は1日3試合あるので、100%ないとは言えないと思います。推測ですが、報徳学園にとっては前の試合(1回戦の明石商vs福知山成美試合レポート)が延長11回、3時間11分と長時間ゲームだったことが不運だったかもしれません。

 1日3試合、4試合を1球も逃さずに見られたことがある方はわかるかもしれませんが、人間が集中力を長時間維持し続けるのは至難の業ですよね。それと同じで、眼を重要視する際は前後の試合にも左右されると思います。実際に2試合連続で延長の長い試合になり、どこまで集中力を持続できていたかを考えると、選考委員の中でも個人差があるのではないでしょうか。

 例えば、市立和歌山報徳学園の試合順が逆だったとしたら、違った見解になっていたかもしれません。試合をする、見る、全てが人間です。秋季大会を取材していると、選考委員の方のたばこを吸う時の表情なども参考になったりします。スタンドのお客さんの表情も同じですね。そうやって見ると、野球を見る面白さ、深さ、難しさをわかっていただけるのではないでしょうか。

河嶋:私たちも1日3試合、4試合を1球も逃さず取材すると、どこかで息を抜く瞬間が必要になりますね。さて、私は関東・東京の二松学舎大附が「大江 竜聖投手に頼りすぎた傾向がある」とコメントされたのが気になりました。早稲田実業試合レポート)、日大三試合レポート)を破り、3年連続準優勝。立派な成績だと思ったのですが。

松倉:私も3年連続準優勝で1回は補欠、1回が出場だったので今回どうなるか注目していました。まず物理的なことですが、選考委員は北海道、関東、東京で一つの小委員会になっています。二松学舎大附vs早稲田実業は、実は北海道大会決勝と同日(10月12日)で、両地区を担当する選考委員のほとんどが北海道にいました。

 つまり北海道にいた人は数字や映像でしか見ることができないわけです。それと東京都高野連が選抜の出場候補として推薦するのは4校。つまり48校と出場数が多い東京都大会は、準決勝以上が実際に生で見れる貴重な場とも考えられます。こういった事実から、準決勝(二松学舎大附vs東海大高輪台関東一vs帝京)と決勝(関東一vs二松学舎大附)の内容を重視せざるを得ないということになったのではないでしょうか。

河嶋二松学舎大附は悔しいでしょうが、これを糧に夏を目指してほしいですね。

松倉:そう。全地区に言えることですが、不安なく年を越すためには、やはり勝負どころの試合で勝てばいい。もっと言えば地区大会で優勝して明治神宮大会に出れば文句はつけられません。負けたチームは「選ばれればラッキー」ぐらいに思って、負けたことをしっかり課題にして、勝たないと出られない夏の甲子園を意識して年を越してほしいです。

河嶋:全ての高校球児にとって最後の目標は夏の甲子園になりますね。今日はありがとうございました。

松倉:ありがとうございました。

 

このページのトップへ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.16

【春季埼玉県大会】2回に一挙8得点!川口が浦和麗明をコールドで退けて県大会へ!

2024.04.16

【群馬】前橋が0封勝利、東農大二はコールド発進<春季大会>

2024.04.16

社会人野球に復帰した元巨人ドライチ・桜井俊貴「もう一度東京ドームのマウンドに立ちたい」

2024.04.17

「慶應のやり方がいいとかじゃなく、野球界の今までの常識を疑ってかかってほしい」——元慶應高監督・上田誠さん【新連載『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.1】

2024.04.16

【12球団4番打者成績一覧】開幕ダッシュに成功した4番はOPS1.1超のWBC戦士!

2024.04.14

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!

2024.04.15

四国IL・愛媛の羽野紀希が157キロを記録! 昨年は指名漏れを味わった右腕が急成長!

2024.04.12

【九州】エナジックは明豊と、春日は佐賀北と対戦<春季地区大会組み合わせ>

2024.04.11

【埼玉】所沢、熊谷商、草加西などが初戦を突破<春季県大会地区予選>

2024.04.09

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.14

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード