Column

県立大島高等学校(鹿児島)【後編】

2015.07.11

 後編では夏へ向けての意気込みと奄美大島の住民たちが語る鹿児島大島ナインの成長ぶりを振り返っていく。

意識の変化

俊足の中田 優は現チームを機動力でけん引する(県立大島高等学校)

「選手たちの意識が高くなったことを感じます」
島で唯一のバッティングセンターで働く島川 真由美さんは言う。島の野球少年とは大半が小学生の頃から顔なじみであり、前山 優樹白井 翔吾は中学生時代にここで職場体験をしたこともある。今の鹿児島大島の選手たちと接して「言葉の端々に成長を感じる」という。

 地区大会で優勝し、試合を観戦していた島川さんが「すごかったね」と前山に声を掛けると「あんなもんじゃ全然ダメです」と言い切った。用事で練習場に顔を出した時、監督がいなくても黙々と走り込んでいる姿を目撃した。自身もソフトボール選手で神村学園に進学して全国大会を何度か経験している。「全国に出た選手が恥ずかしいプレーはできない」とプライドと向上心が芽生え、言われなくても自分で自分を追い込めた。今の鹿児島大島の選手たちの姿に、それと重なるものを感じた。

 現チームでセンバツのベンチ入りをしたのは前山、白井、中田 優(3年)の3人。このうち前山と白井は龍谷大平安戦(試合レポート)に出場し、甲子園でプレーしている。
「浮足立って地に足がついていなかった。記憶はほとんど残っていない」
と前山。6回途中からリリーフし、2回と3分の1イニング、42球を投げて、被安打9、失点8、自責点4と、自分の力が全く通じなかったことを痛感した。

 だからこそ「今度は自信のついた状態でもう一度投げてみたい」という思いが強くなった。中心学年になってからは「この年代の鹿児島の選手で、甲子園のマウンドを経験したのは自分と神村学園の選手だけだ」というプライドが、ピンチの場面での強気を引き出した。

 実際にプレーをしていない中田も、アルプスが満席になり、入りきらなかった応援者たちで一塁側やライトスタンドが「大島カラー」に染まった大応援団の迫力は、十分に感じることができた。「自分がその場でプレーすることを想像するだけでもワクワクする」。その気持ちは、今年のチームで頑張る支えになった。


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[page_break:まずは「決勝」に進むこと]

まずは「決勝」に進むこと

 センバツ九州大会と選ばれたチームしか行けない大舞台も経験した鹿児島大島だが、一つだけ経験していないものがある。県大会の決勝戦だ。この2年余りの間、数々の快進撃を起こしてきたが、いつも4強で阻まれてきた。この夏、まずは決勝にどう進むかが大きなチャレンジになる。

 今年のチームは前述したようにエース前山 優樹、2年生左腕・渡 秀太の2本柱を軸に、堅守でリズムを作る。強打で鳴らした前チームとは真逆のチームカラーだが「失点の計算ができる分、安心して試合を見ることができる」と渡邉監督。どのチームが相手でも確実に勝てる力強さはないが、どんな強豪が相手でも競り合える粘り強さがある。

 この1年間の公式戦で負けた相手は樟南鹿児島実。それ以外の試合は無失策でありながら、昨秋1回戦樟南戦、今春準決勝樟南戦、NHK旗準々決勝鹿児島実戦、いずれもエラーが絡んでの敗戦だった。ここをどう乗り越えていくか、テーマの一つである。

白井 翔吾主将の父・白井 雄之さん

「まずは先制点を取って、前山が楽に投げられる展開に持ち込みたい」と白井 翔吾主将。とはいえ、いつでも先手が取れるほど都合よく試合が進むとは限らない。エラーが出たり、先制点を取られる試合は必ずあると仮定して「選手1人1人が強い気持ちで、守れるようになる」(中田)ことが肝心だ。技術的な部分はもちろん、野手同士の声掛け、間の取り方、気持ちを切り替えてミスを続けないようになることを模索している。

 試合中、伝令を送ることも基本的にしない渡邉監督だが、春の樟南戦の初回、NHK旗鹿児島実戦の8回、四死球やエラーが絡んで主導権を奪われた場面を分析し「あの場面で伝令を送って間をとるべきだった」と振り返る。これもまた過去の経験から学んだ教訓だ。最終的には「ミスがあっても、持ちこたえる力」(渡邉監督)をつけて夏に挑む。

 鹿児島大島がセンバツに出たことで「小学生の低学年で野球を始める子供が増えた」と白井主将の父・雄之さん。バッティングセンターの島川 真由美さんは、定期的に小学生の子供たちのソフトボールを指導することがあるが、将来の夢を聞かれて「プロ野球選手」と答えることが多かった子供たちが、センバツ以降「甲子園に行きたい」と語る子が増えたと感じている。

「選手の意識が高くなった」と話す島川 真由美さん

「OBの結束力が強くなった」と話すのは鹿児島大島OBの奄美市職員で、地元FM局でスポーツ番組のパーソナリティーも務める勇 和彦さんだ。鹿児島大島の校歌は、高校の校歌としては珍しくカラオケのレパートリーに入っている。「あれ以降、カラオケで校歌を歌うことが恥ずかしくなくなった」と語る。そんなOBも多いという。甲子園出場は、野球部や学校だけでなく、島の人たちにも小さな意識の変化をもたらしたことは確かだ。

 鹿児島大島が21世紀枠で甲子園に行くことは、当分の間ないだろう。「選ばれる」甲子園から、「勝ち取る」甲子園を目指すチームへと、ステージは上がったことを意味する。この夏はその夢をかなえるべく、南の島で虎視眈々と準備を進めている。

(取材・写真:政 純一郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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