Column

県立社高等学校(兵庫)

2015.07.04

 今春準優勝の。公立校ながら県内上位に位置付けている理由とまたこれまでの戦いの振り返りや夏へ向けての意気込みを伺った。

組織力と明暗を分けたポジショニング

ミーティングの様子(県立社高等学校)

 春季大会準々決勝、強豪・兵庫市川との試合は完封どころか完全試合ペースで押されていた。球威あるストレートをインコース、アウトコースに丁寧に投げ分ける好投手・永山 竜規(3年)の前に5回まで1人のランナーも出せず。スコアボードに0が並ぶ中、突破口を開いたのが北垣 裕哉(3年)。6回二死から待望のチーム初ヒットを放つと「1人出ると一気に変わる」とベンチで自身にも選手にもそう暗示をかけていた山本 巧監督は盗塁のサインを送る。

 強肩の相手捕手がジャッグルする幸運にも恵まれ北垣が二塁に進むと、久山 大地(3年)のタイムリーで生還。ワンチャンスで同点に追いつくと、その後2点を奪い逆転勝ちを収めた。キャプテンの村井 良彦(3年)はこの試合を、自分達らしい野球が出来たと振り返る。
「徐々に相手にプレッシャーをかけて、最終的にそのプレッシャーで押し潰す。粘って終盤勝負で、終わってみたら自然に勝ったという試合を目指してます」

 ランナーが出せない中でも粘って球数を投げさせ、ランナーを出したところで一気に畳み掛ける。個人の能力ではなくチーム力で局面を打開し、接戦をものにした。

 逆にミスが響いたのが1点差で敗れた決勝の神戸国際大附戦。初回に1点を先制すると、先発だと前日に言われ「その時から心臓バクバクでした」という浜名 陽路(3年)が公式戦初先発ながら果敢にインコースを突く攻めの投球で強力打線を相手に好投。リードを保って序盤を終えた。しかし4回、神戸国際大附の看板打者・竹村 陸(3年)2015年インタビューの打球がライト線へのポテンヒットとなり同点を許してしまう。

 この後さらに守備のミスから2点目、3点目を奪われると、9回に粘りを見せ追い上げるも最終スコアは3対4。一打同点のチャンスは作ったがあと1点及ばなかった。山本監督が反省点に挙げたのは、ミスが絡んでの失点よりも1点目のライト線へのポテンヒット。フラフラっと上がった打球は先制タイムリーを放ったライト・梅本 愉雅(2年)が差し出したグラブの先、わずかに20cmほど先の地面で弾んだ。

 の外野陣はセンター・本多 悠将(3年)を中心に3人が連動する形で動く。秋はベンチからポジショニングを指示することも多かったが、春先には選手の感覚が研ぎ澄まされてその必要もほとんどなくなっていた。新チームになってから内野からのコンバートで人生初の外野に挑戦した梅本も「最近、本多さんの考えてることがわかるようになってきました」と話していた。

「ピッチャーが打ち取った打球を捕れるように想定して動きます。捉えられた打球は仕方ない。基本的には逆方向に守ります」
山本監督は外野のポジショニングの考え方をこう明かすが、この場面では右打者の竹村に対しライトの梅本はライト線ではなく右中間に寄っていた。

 竹村は引っ張る打球が多い打者であり、昨夏もセカンドの後ろに落ちる先制タイムリーを打たれていた。その印象が強く右中間に2歩寄ったが、その次の球がライト線へのポテンヒット。ポジショニングの判断が明暗を分けた。

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僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
[page_break:励まし続けた山本新監督のチーム作り]

励まし続けた山本新監督のチーム作り

 惜しくも優勝は逃したとはいえ、激戦区兵庫において昨夏ベスト4で今春準優勝。安定した成績を残しているように見えるが、昨夏今春では中身が全く違う。昨年の3年生は個人能力の高い選手が多く優勝候補筆頭に挙げられるほどだった。しかしその反面、新チームでは旧チームから残るレギュラーメンバーは1人もおらず、ベンチ入りしていたのは2人だけ。しかもほとんど試合に出ていない。

山本巧監督(県立社高等学校)

 今春エースへと成長した田中 元貴(3年)も、決勝で先発し好投した浜名 陽路も故障中で投げらない日々を過ごしており、周囲からの前評価は決して高いものではなかった。そのチームの指揮を任されたのが当時副部長だった山本 巧監督。旧チームが敗退したその日のうちに橋本 智稔前監督から監督交代の打診があったという。

 山本監督はOBで西脇工業、兵庫小野でも監督を経験し昨春から副部長として母校に戻ってきたばかりだった。そう遠くない将来に監督を、そういう意向があっての母校赴任だとは本人も周囲も分かっていたが、さすがにびっくりしたという。それでもすぐに励ましてやろうという風に頭が切り替わっていた。

 副部長として戻ってきた母校で見た当時の2年生(現3年生)は、能力の高い先輩達に圧倒され、自信も無く不安を抱えているように見えた。「絶対報われるから頑張れ」「絶対大丈夫やから」副部長時代から繰り返しそう声をかけ続け、監督になってもそのままのスタンスでここまで来ている。だから、組み合わせ抽選が終わった段階でもメンバーを一切絞っていない。

 多くの強豪校でベンチ入りを外れた3年生はサポート役に回るが、山本監督は今でも練習試合で3年生全員を使う。もちろん規則通り5月末の段階で高野連には登録メンバーを提出済み。しかし兵庫県の場合は夏の大会初戦のメンバー表交換の時までなら選手の入れ替えが可能。しかもここへ来てレギュラー以外のメンバーで日替わりヒーローが誕生している。

 現チームで唯一、昨夏の試合を経験している久山 大地
「秋も春もベンチに入っていなくても結果を残している人がいっぱいいる。そういう選手が増えてきたのは春から比べて成長しているということだと思う」
と、チームの現状に手応えを感じており、選手たちの成長を山本監督は、親心のような心境で見守ってきた。今夏の初戦は7月15日の第1試合、バックネット裏でメンバー表の交換を行うその時まで、もうしばらく思案の日々が続く。

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[page_break:夏も1戦1戦丁寧に戦う]

夏も1戦1戦丁寧に戦う

フリーバッティングの様子(県立社高等学校)

 山本 巧監督の価値観は進学校である前任の兵庫小野時代にガラッと変わったという。野球部の監督を務める一方、東大や京大を目指す生徒の授業も受け持つため、自身も寝る間を惜しんで勉強した。進学校であるため部活動の時間は限られ、グラウンドは他のクラブと共有。時間も足りない、環境も十分でない。

 そんなある日、土砂降りの雨が降った時に「これなら外で練習出来る」と気づき、宝物を見つけたような気分になったという。
「今日はグラウンドに誰もいない、思う存分使うことが出来る」
の選手がその感覚になったら2004年選抜以来の夢舞台に立てると確信している。

 公立校が強豪私学を倒すためには甘えないこと。公立が私立を倒す、という言葉の裏には、負けても仕方ないというニュアンスが潜んでいる。
「ゲームが2時間として、ある研究によれば実際にボールが動いているのは15分程度。残りの1時間45分は間合いなので、その時間をもっとうまく使って野球を変えていきたい。フォアボールでセカンドまで行けるし、三塁にだってディレードスチールを決められる。価値観、考え方をもっと変えていかないと。そういう野球をすることで私立を倒すことだったら大いにある」

 ただ、急激に変えようとすると必ず反発やひずみが生まれる。山本監督は、本気で変えたいからトップダウン方式で押し付けるのではなく、選手の気持ちに寄り添って励ましながら少しずつ変化させる方法を選んだ。その結果が飛び抜けた能力を持つ選手はいないはずの代での準優勝という好結果につながった。

 関西学院でコーチを務め、今春からに赴任してきた久保田 将副部長も
「いろんな方から今年のは谷間の世代だと聞いていて、地区大会を見てもそんなに強いと思わなかった。でも県大会で勝ち上がって行く度に強くなっていった。持っている力を100%出せるのはスゴイ」
と話す。今は徐々に変わっていく変革期の真っ只中。練習試合で日替わりヒーローが誕生しているのは、ハートのあるチームになりつつある証拠。主力も一冬で確かな成長の跡を見せている。

 投の2枚看板、田中 元貴浜名 陽路は故障中も的確なトレーニングをしっかりと積み、春には故障前より球質が上がった状態で戦列に復帰。4番を打つ舟川 晃平(3年)は、元は下位打線だったが、手首を痛めて打撃練習が出来ない時期に体重を増やすしかないと決心し、1日6食、空腹を感じる前におにぎりを頬張る生活を続け、秋から春にかけて10キロの増量に成功。キャプテンの村井 良彦はもちろんのこと、副キャプテンの岡原 義文(3年)も野球をよく知っている理解力ある選手で、山本監督の教えを吸収していった。

 春の結果に満足している選手や自分達の実力を過信している選手は1人もいない。穏やかに謙虚に、でも心の底では熱く。抽選会を終えた村井は
「いよいよ最後の夏が始まるというワクワクと、少しは不安もありますけど、やるしかないと前向きな気持ちになりました。上ばかり見ず1試合1試合丁寧にやっていきたいです」
と決意を新たにしていた。

(取材・文=小中 翔太

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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