大阪偕星学園高等学校(大阪)
この春、府大会準優勝の大阪偕星学園に直撃。そこには驚愕するような練習量で夏に向かっていた。
春の大阪、準優勝!夏こそ頂点を
シートバッティングの様子(大阪偕星学園高等学校)
今にも雨が降り出しそうな曇り空の下で行われたシート打撃、先頭打者として打席に入った姫野 優也(3年)がいきなり初球をスタンドに叩き込む。その後の打者も次から次へと外野にいい当たりを放ち、普通の長打性の当たりを打ったぐらいではまるでそれが当たり前と言わんばかりに姫野のプレーに驚きの声はない。
逆に消極的なプレーでミスが続いた選手には、
「お前、そんなんしとったら明日の岡山遠征終わったら大阪まで走らされるぞ」
と野次が飛ぶ。レギュラー陣には体格のいい選手が揃い、とくに旧チームから残る主軸は全国どこの強豪と見比べても引けを取らない。3番を打つ西岡 大和(3年)の打球は木製バットを使ったロングティーでも軽々とフェンスを越え、何度もライト後方にある雨天練習場を直撃した。
上位打線はもちろんだが下位打線にも一発のある打者が控え、春季大会初戦は25対0と圧巻のスタートを切る。5回戦の金光大阪戦でロースコアの試合をものにすると、準々決勝では関大一打線を姫野がきっちり低めを突き公式戦初完封、準決勝では8回の集中打で上宮太子を一気に突き放し、決勝進出を果たす。
初優勝を目指した一戦では連投となったエース・光田 悠哉(3年)が5失点、打線も大阪桐蔭の2年生左腕・高山 優希の前にわずか1得点に封じられたが、スコアとは裏腹に選手が自信を深めていたことも紛れもない事実。光田は、
「やる前は強いやろなと思ってたんですけど、やってみたらやれるな、と」
キャプテンを務める捕手・田端 拓海(3年)は、「スイングスピードも速いし、スキが無い」と大阪桐蔭打線の力を認めつつ、「やり返すイメージはあります」と不敵に笑う。
一時は同点となるスクイズを決めた濱口 尚弥(3年)も、
「夏の決勝で桐蔭の田中 誠也君から4打数4安打を毎日イメージしてます」とアピール、選手の口ぶりからはそれが決してハッタリではないことがうかがえる。その自信の根底にあるのは圧倒的な練習量だ。
大阪偕星学園の圧倒的な練習量
筋トレの様子(大阪偕星学園高等学校)
野手陣はロングティー3箱にマシン相手のバント20球を5セット。投手陣はプルペンでの立ち投げとインターバル形式の短距離ダッシュを50本。アップ、キャッチボールの後、シート打撃が始まる前にすでにこれだけの練習が行われていた。6月の強化練習期間中は全メニューが終わるのは日付けが変わっていることがほとんど。平日に行われた報徳学園との練習試合前日も練習が終わったのは午前1時を過ぎていた。
疲れの残る状態だったにもかかわらず、結果は3対2で勝利。兵庫の優勝候補の一角を破った。部員の半数近くが生活する寮には監督、コーチが泊まり込み、グラウンドから寮へのバスもコーチが運転する。隣接する体育館にあるトレーニングルームや大きな鏡の前では、夜でもウエイトや素振りを行う選手の姿が絶えず、煌々と明かりが灯る。
夕食時には思わず苦悶の表情を浮かべるほどのご飯が盛られ、朝も納豆、卵、キムチなどでご飯をかきこむ。西岡 大和が入学時と比べて20kgの増量に成功した一方、福田 丈志(3年)はひたすら走る夏の追い込み練習で、60kgあった体重が53kgまで落ちたこともある。
それでも、「何回も辞めようと思ったけど、みんなで支え合って頑張った」と必死に耐えてきた。心が折れかけたのは福田だけではない。
実は旧チームから4番を打つ田端 拓海も、野球部を辞めようと思った時期がある。ただ、その時、山本 晳監督に言われた「ここに来るまでに何人に迷惑かけてきたんだ」という言葉で火がついた。
姫野 優也も春季大会中、打撃の調子が上がらず下を向いていると、山本監督の「自分どうこうじゃなくて、チームのために声を出したりやることあるやろ」というゲキでハッとしたという。逃げ出したくなるような毎日でもついて行くのは、山本監督が選手以上に本気だから。
「山本野球は気持ちの野球」西岡は大阪偕星学園のスタイルをそう表現する。
山本マジック+重量打線=準優勝
山本監督は韓国プロ野球に挑戦するなど異色の経歴の持ち主でもある。受け持つ教科は高校野球の監督としては珍しい英語。指導の特徴としては投手育成に定評(参考記事:アーム矯正方法)があり、前任の倉敷では津田 大樹、宮本 武文と2年続けてプロ野球選手を輩出した。今春2度先発を任された 姫野 優也も最初はアーム式の投げ方をしていたが、山本監督の指導で肘を使えるフォームに改善し140km/hをマーク。
左から福田 丈志選手、姫野 優也選手、西岡 大和選手、戸嶋 泰貴選手(大阪偕星学園高等学校)
「監督の言う通りにすると投手は必ず上達する。僕たちは山本マジックと呼んでいます(笑)」
春季大会準優勝の原動力になった光田 悠哉もこの春、1段階成長した。元々コントロールが良くて安定感のあるタイプだったが、スライダーの精度が上がり、見逃しでカウントを整える球、ストライクからボールゾーンに逃げて空振りを奪う球と投げ分け、相手打線を翻弄した。
最速142km/hを誇る速球派左腕にインストと外スラを攻められれば、攻略するのは容易ではない。また、1番を打つ姫野もそうだが光田もバッティングがいい。シュアなスイングが光りバットコントロールに自信を持つ。姫野も光田も投げない時は外野手としてスタメンに名を連ねるほど。戸嶋 泰貴(3年)は元気の良さでチームを鼓舞し、主砲・田端 拓海の威圧感と勝負強さは相手バッテリーにとっては脅威。ファーストを守る岸 頼大 (2年)にも長打力があり、福田 丈志は高い盗塁成功率が光る。
西岡 大和は打撃に注目が集まりがちだが、マネージャーの伊藤 誠(2年)によれば、「エラーは絶対無いです」という守備力の持ち主。9番・ショートの的場 優斗(2年)も準々決勝の関大一戦で一発を放つなど打線全体に穴が無い。春に超えられなかった最後にして最大の壁、夏に今度こそ超える準備は出来ている。
■集大成の夏へ、猛練習は嘘をつかない
春の決勝、大阪桐蔭に挑んだ一戦はナインに自信と悔しさと、課題と収穫をもたらした。
「準優勝は嬉しいですけど、負けてしまったので。夏は甲子園目指してやっていきたい」
田端は春季大会をそう振り返る。大阪桐蔭が本命で対抗が履正社、2強を追う1番手がPL学園。これが最近の大阪の勢力図だが、大阪はシード権の無いフリー抽選のため優勝、準優勝校が早い段階で激突する可能性もある。
「甲子園は目標じゃなくて、行かないといけない場所。絶対行きます」
主力選手達から異口同音に聞かれた力強い言葉。集大成の夏へ、猛練習は嘘をつかない。
(取材・文=小中 翔太)