Column

駒澤大学附属苫小牧高等学校(北海道)【前編】

2015.06.17

 春季全道大会を準優勝で終えた駒大苫小牧が、夏に向けて最終調整に入った。
練習では実戦を想定した細かいプレーが行われていた。

 走者一、三塁でのセーフティースクイズや偽装スクイズなど、ヒットを打たなくても走者を進めたり、1点を奪うプレーを繰り返す。サインミスや集中力を欠いた選手が一人でもいれば、他の選手から厳しい声が飛ぶ。時には選手自らがプレーを止めて、お互いの認識を確認しあう。この本番さながらの緊張感は、就任6年目の佐々木 孝介監督(28)が繰り返し説いてきた一球の重みが選手に浸透している証拠だ。

ノーサインで得たもの

ゲーム形式の練習(駒澤大学附属苫小牧高等学校)

「1試合130球、両チーム合わせて260球の勝負。一球への気概が勝っていれば、負けない確率が高くなる。だから、一球に対して厳しくあって欲しい。気合いとか泥臭さは当たり前。気合いという意味での厳しさではなく、一球一球の意図を考えてプレーして欲しいという意味なんです」

 この意識を徹底させるために、今年はノーサインで試合を行った。個々の選手がサインを出す場面を作り、その意図を問いただす。攻撃のサインにとどまらず、捕手の配球や野手のポジショニングも選手に考えさせ、対話を繰り返した。

 佐々木監督が今年サインを出したのは春季全道大会準決勝と決勝だけ。それでもチームは練習試合初戦で日本文理に敗れた後、春季全道大会決勝で北海に負けるまで40数試合を勝ち続けていた。驚くべきことに、選手がその事実を知ったのは春季大会終了後。連勝という現象に気付かないほど、目の前の試合で自分たちができることを必死に積み重ねた結果だった。

「ノーサインのおかげで、自分たちの野球を考えることができました。カウントに応じた攻撃ができたことが結果につながったと思います」
伊藤 大海主将(3年)は振り返る。試合の動かし方、勝負所を選手が自ら考えて動けるようになっていた。
この夏は、佐々木監督がサインを出す。その狙いを選手全員が確実に理解して動くはずだ。

 ノーサインによる収穫はもう一つあった。
「10対0でもノーアウトでバントのサインを出す子もいれば、エンドランをかける子もいる。性格が見えて、見極めがしやすくなりました」
と佐々木監督は言う。今年2月から野球ノートを毎日チェックすると決めて、選手と心を通わせてきた。さらに練習中も選手一人一人の観察を心がけている指揮官だが、個々のサインの出し方を知ることで、より本人の考えを把握し、個別指導に生かすことができるようになった。

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 夏に強いチームから学ぶ
僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
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夏は全員が戦力

ゲーム形式の練習(駒澤大学附属苫小牧高等学校)

 今年初めて実施したノーサイン。実はチームに厳しさを植え付けるために試みた荒療治の副産物だった。
部員117人を抱える駒大苫小牧はAチーム、Bチーム、育成の3グループに分かれ、5人の指導者が指導にあたっている。佐々木 孝介監督は、3年生は全員Aチームという暗黙のルールが気になっていた。

「どうしても馴れ合いが生まれ、厳しさが作れない」。春先、バントのボールを避けた3年生がいたことをきっかけに、数人の3年生にダメ出しし、Aチームに残るかBチームで頑張るか選択させた。そんな流れの中で「自分たちで考えなさい」とサインも選手に委ねることになったのだ。

 この時にダメ出しされた3年生のほとんどが自らBチームに移った。最後のシーズンに3年生が分離するという状況は、ある意味リスクを伴う。選手はどう感じていたのだろうか。
伊藤主将は「厳しい環境の中で、AもBも向上心を持って練習できました」とプラスに働いたと考えている。チームがバラバラになるかもしれないという心配は無用だった。

「選手たちの心が離れるのは本意じゃありません」と佐々木監督は当初の思惑通り、春季全道大会が終わると、3年生を全員Aチームに戻した。Bチームの3年生が率先して練習を引っ張っていたこともきちんと評価した。
3年生25人全員がAチームに再集結して始まった練習は、最高の一体感に包まれている。

 さらに雰囲気を高めるプランも用意している。チームは支部予選に入る前に、これまでなかった1泊2日の道内遠征(旭川)を行う。2カ月間3年生が離れていた時間を埋めるように、敢えて大部屋で雑魚寝する計画だ。最後の夏にかける3年生の一体感は、下級生にも波及効果を与え始めている。

 松林 憲吾投手(2年)は
「先日の練習試合ではどんな打球でも飛びついて、ファインプレーが多かった。3年生の雰囲気は出来ているので、あとは2年生の頑張りで勝てると思います」
と表情を引き締めた。

「3月から5月までは効率重視でやってきましたが、ここからは練習でも組織的に動いて、全員がひとつのことを共有する時間を多くします。ここからは全員が戦力」
と佐々木監督。主力ではない3年生には「敵目線でのアドバイスを頼む」と声をかけるなどチームに貢献しているという意識を一人一人に持ってもらう。
負けたら引退という最後の夏に力を発揮する選手は、チームのために行動できる選手だという。

「色気を出す選手は使えない。チームの決め事を結果で判断する選手も、ここぞというところで打てないし、抑えられない。自分自身、高校生の時はすべてチームにためにやっていました。自分のためじゃなくて、チームのために守備練習をしましたし、死球に当たる練習までしました。死球を避けず、痛そうにもしない。そうしたら、相手は“こいつ変だぞ”と思うじゃないですか。最後は結局、心が強い方が勝つんです」

 2004年夏の甲子園で全国制覇した時に主将を務めていた佐々木監督の言葉には重みがある。

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ストレスからの解放

キャッチボール前に体を動かす選手達(駒澤大学附属苫小牧高等学校)

 北海と対戦した春季全道大会決勝では、失策も絡んで序盤に大量失点した。守りを重視しているだけに、今、佐々木 孝介監督は選手を追い込んでいる。「真面目過ぎる子には控えますが、敢えて練習でエラーのことを言いますね。エラーした場面がよぎると思いますが、頑張れる子は乗り越えていきます」
と練習で選手にプレッシャーをかける。インターバル走でもタイム設定するなど、選手にはストレスをかけ続ける。

「選手は楽をして勝ちたいかもしれませんが、理想通りにいかないのが野球。ストレスのかからない試合なんてないですからね。今はストレスを貯めさせようと思っています。それを抜いたときの力は大きいですから」
佐々木監督が使う独特の表現は、プレッシャーから解放された時に選手が発揮する爆発力のことを言っている。

 これは自身が主将を務めて全国制覇した2004年夏の甲子園での体験に基づく。当時のチーム目標は「甲子園1勝」だった。初戦の佐世保実に7対3で勝って念願を達成すると、プレッシャーがなくなった。

「あの年は甲子園で初めて道外チームと試合をしたんです。有名校の名前を聞くと、まったく見えないくらい速い球を投げる投手がいて、ものすごく飛ばす打者が3、4人いると思っていました。勝てるわけないじゃんという感じ。でも、やってみると、球は見えるし、それほど飛ばす打者もいない。これならやれると」

 日大三横浜東海大甲府済美を次々と撃破した。予選では打てなかったチームが、甲子園では強打のチームに大変身。大会新記録となるチーム打率.448と打ちまくって、北海道に初めて優勝旗を持ち帰った。
一勝への思いが強烈だった分、その重圧から解放された後の爆発力はすさまじかった。

 駒大苫小牧が全国レベルの強豪校に成り上がるまでの当事者だった佐々木監督。前編では、チーム方針について伺ったが、後編では、2003年の不運のノーゲームと、2004年~2005年までの夏連覇の過程、そして夏までのストレスとの向き合い方について語っていただく。

(取材/文=石川 加奈子

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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