Column

市立須磨翔風高等学校(兵庫)【後編】

2015.06.14

 後編では、須磨翔風がなぜオーソドックスな練習にこだわっているのか。その理由について迫っていく。試行錯誤を重ねながらたどり着いた須磨翔風の中尾修監督の理論は大きなヒントがある。

キーワードは「オーソドックス」

ティー打撃の様子(市立須磨翔風高等学校)

 結果を出している公立校を訪問すると、必ずと言っていいほど「こんな練習をしているの!?」と言いたくなるような、工夫を凝らした独自の練習法が存在するものだ。

 しかしこの日の須磨翔風の練習にはそういった「公立ならではの秘策練習」のような光景は一切、目撃出来なかった。中尾 修監督に「練習スタイルがものすごくオーソドックスですね」と感想を伝えたところ「オーソドックスだと思います」という答えが即座に返ってきた。

「今日は体力強化メニューを除けば、全体練習メニューはキャッチボール、シートノック、フリー打撃で終了です。もちろん細かい練習をやるときはやるのですが、練習メニューは年々シンプルに、オーソドックスになっていると思います。うちならではの秘密練習なんて掘っても、掘っても出てこないですよ」

 練習が年々、オーソドックス化している理由を中尾監督は次のように説明してくれた。
「結局、色んなことをあれこれやるよりも、普通に誰でもできるようなことをきちっと確実にできるようにすることが一番大事だなと思うようになったんです。守備を例に挙げると、とにかくアウトに出来る打球をきちっとアウトにする。ファインプレーなんかいらない。オーソドックスな練習の中で『できることを確実にやる』という部分を追求する。これが結局、一番強いんじゃないかと」

 選手を指導する際も「型にはめないことをとにかく強く意識している」と中尾監督。打撃フォームや投球フォームに関しても、故障を呼びそうなものを除けば、よほどのことがない限り、強制的な指導は発動しないという。

「中学野球の指導者時代の前半5年間は選手を型にはめまくった指導を行っていたのですが、さっぱり結果がでなかった。そこで型にはめた指導をやめたところ、どんどん勝てるようになっていったんです。その時に、指導者というのは全部答えを選手に与えるのではなく、引いたところで観察するくらいがちょうどいいんだなということを実感したんです」

 フリー打撃を見ても、ブルペンを見ても、実に多種多様なフォームの持ち主が視界に飛び込んでくる。
グラウンドのいたるところに置かれている鏡の前では、素振り、あるいはシャドーピッチングを行いながら、自問自答するかのように、自らのフォームと向き合っている選手の姿を目撃することが出来た。
 「選手自身が模索しながら必死になって手に入れたフォームが一番強いということです。指導者はあまりにもレールから外れた時だけ、ヒントとなる声をかければいいんですよ」

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[page_break:須磨翔風旋風を巻き起こせ!]

須磨翔風旋風を巻き起こせ!

「うちの投手陣は才木 浩人中野 克己永井 壱弥の3名の2年生が軸。夏は彼らの出来が戦いのひとつの大きなポイントになる」
中尾 修監督。そこで2年生トリオ、そして彼らをリードする坂下 遼太郎主将の声をここで紹介したい。

左から中野 克己選手、才木 浩人選手(市立須磨翔風高等学校)

才木 浩人
「昨年の課題はメンタル面の弱さでしたが、冬の間に厳しいトレーニングを乗り越えられたことでかなり精神的には強くなれたと思います。ストレートの最速は現在142キロですが、変化球のキレとスタミナを向上させつつ、スピードもさらに上げていきたいです。一番の目標は『信頼される投手』になること。その一心で日々、練習に取り組んでいます」

中野 克己
は失投が多くて甘い球を狙い打たれることが多く、いい結果が出せませんでしたが、冬のトレーニングを経て、思っていたところにいいボールが投げられる割合が随分と増えた気がします。1人じゃ夏の戦いは勝ち抜けない。投手陣全員の力を結集して臨みたいと思います」

永井 壱弥選手(市立須磨翔風高等学校)

永井 壱弥
「才木、中野の二人が主戦になるとは思いますが、3人の中では唯一の左腕ですし、夏の兵庫を勝ち抜くためには僕の力も必要になってくると思います。体重をあと2キロ増やし、少しでもストレートの力をつけた状態で夏本番を迎えたいです」

坂下 遼太郎主将(市立須磨翔風高等学校)

坂下 遼太郎主将
ベスト4の成績を収められたのは、各選手が自分の役割を理解するだけでなく、遂行できる域に達したからだと思います。上位に進出できたことで、私学のレベルも肌で感じ取ることが出来ました。うちの良さは部員全員の気持ちが同じ方向を向いているところ。全員野球で、兵庫を勝ち抜き、甲子園キップをつかみたいです」

 中尾監督は言う。
「選手たちに私学コンプレックスのようなものは一切ないです。変に気負ったり、意識することなく、練習でやってきたことを確実にやるだけです」

 近年、加古川北西脇工業など、公立勢が甲子園出場を果たしている兵庫。公立の雄として新たに名乗りを上げた須磨翔風の躍進に大いに期待したい。

(取材/文=服部 健太郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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