Column

興南高等学校(沖縄)【後編】

2015.05.30

表も鍛えるけど見えない裏もとても大事

 2010年甲子園連覇。以後も沖縄県を代表する強豪校として君臨し、今春には沖縄県大会優勝を果たした興南(沖縄)。連覇の左腕エース・島袋 洋奨(中大~福岡ソフトバンクホークス)2013年インタビューや、防御率0.39・31イニング連続無失点・10打者連続三振と驚異的な成績を今春沖縄県大会で打ち立てたエース・比屋根 雅也(2年)など、好投手の輩出にも定評がある。

 では、その秘訣とは?今回は名将・我喜屋 優監督から勝てる投手への必要なスキルやプロセスを紹介していく。前編での「興南アップ」を実践、実戦で投げられるまでの土台作りに続き、後編ではメンタル、意識を中心とした「裏」の部分に迫った。

練習から常に「実戦」をイメージしているか

ナインを集めて話をする我喜屋 優監督(興南高校)

「投球練習は実戦を意識することが大事」
こう指導者の方々から口酸っぱくいわれる投手のみなさんはきっと多いはず。「でも、具体的にどんなイメージを描いて練習をすればいいんだろう?」一方で、このような悩みを抱えている投手も少なくないことだろう。

 では、解決策は?
我喜屋監督は具体例を持ち出して分かりやすく説明しはじめた。
「まず実戦のマウンドを踏む前に、ブルペンがあるけど、そこでは同じ球を何度でも投げてストライクが入るようになる。もう一球!と繰り返しが出来る。でもゲームでは一球一球コースも変われば、緩急だって使う。球種もコースもその度に違ってくる。キャッチャーからの要求、各バッターへの対応で変化していく。それぞれの変わり目で、要求通りのボールがいかないと、ピッチャーの武器とはならない。

 ですから僕はバッテリーに『ブルペンではどうだった?』と聞くんです。そうすると『今日は真っ直ぐがきています』、あるいは『カーブのキレが良いです』というような説明が返ってくる。あるいはもう一歩踏み込んで『インハイを投げたあとの、インローの制球が良いです』と返してくると、『そうか、この配球が武器になるね』とアドバイスするわけです」

 これはバッテリーの学習能力を問う質問でもある。単に受けたボールの感想だけではない。全体の配球を通しての感想を述べることが大切なのだ。

試合を意識する中でもっと高度な技術も教え込む。ただ配球だけではない。我喜屋監督はピッチャーに首の振り方までも意識させていく。

「今度はランナー一塁の時はどのような首の振り方をしたのかなど、二塁、三塁、一・三塁、二・三塁、満塁のときは、と。『それが実際のマウンドとブルペンの違いだよ』ということも教えてあげています」

「実戦を意識する」ということは、ここまで踏み込んで意識しなければならないのだ。そして意識づけをすると、実戦の場で「気付き」が生まれる。

「ランナーを一塁に出した後、いろいろ考えが生まれてきます。例えばこの場面、ストライクを投げてバントさせなければダメ、というときに、ストライクが入らないピッチャーは簡単に一・二塁になってしまう。 あるいはバントさせたがフィールディングが悪く、刺せるはずの一塁走者を刺せない。何故できないかというと、ブルペンの投球では、投げるだけの意識で、他への意識がまだまわっていないということになります」

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夏、勝てる投手になるためのプロセス
第97回全国高等学校野球選手権大会
僕らの熱い夏 2015
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
[page_break:良いキャッチャーが良いピッチャーを育てる / 「フィールディング」から分かる課題]

良いキャッチャーが良いピッチャーを育てる

投手陣を指導する我喜屋 優監督(興南高校)

 このようにブルペンでのイメージ作りを重視する興南。よって良いピッチャーを育てていく中で、キャッチャーの成長は必須条件である。代表的なのは2010年甲子園島袋 洋奨(現:福岡ソフトバンクホークス)快投の裏には、間違いなく山川 大輔(沖縄電力)の存在があった。我喜屋 優監督も、捕手は投手を育てるのも仕事だと話す。

「もちろん、ピッチャーの武器を引き出すために要求するのですから。キャッチャーが扇の要でありリーダーです。内外野へ的確な指示を出して、ピッチャーのワンバウンドを体で止めてあげる。それを繰り返すことで信頼関係が作られていく。そうなるとピッチャーは、落ちるボールを思い切り腕を振って投げられる。そのためにはキャッチャーもヘドを吐くような猛練習をしてね、そうやって身に付いたものが信頼となるわけだから。インスタントで作られたキャッチャーを、ピッチャーは全然信用しないですよ」

 自らの野球人生と会社・地域の名誉を賭けた都市対抗を経験したからこそ言い切れる発言。投手の持ち味を引き出すには、受ける捕手はコミュニケーションだけではなく、確固たる捕球技術を身に付けていかなければならない。

「フィールディング」から分かる課題

 さて、ここまで我喜屋監督から話を聞いていくと、投手としての課題が見えてくるのは「ランナーを出してから」ということが分かってくる。その段階に入った上で興南では「なぜできないのか」を明らかにしていく。
「フィールディングが弱い子はいろいろな課題が見えてきます。ダッシュ力が弱い、捕球後のトップの位置が低い子は筋力が弱い、突っ立ってボールを捕りに行く子はヒザが弱いのだなと見えてくる。そのためバランスが良く、瞬発力を発揮できるようにするためにはアップから重要になります。それは夏の甲子園を見るとはっきり分かる」

 投げるだけでは投手は務まらない。投げること以外に意識を向けることで、実戦力を磨くことになる。ブルペンとマウンドで違っていては夏のマウンドは務まらないのだ。

「ピッチャーとしての武器がそれぞれにあるのだから、どの場面でどのように使うのかをブルペンからやっておく。そういうピッチャーは、資質が備わってきたなと僕は見ています。
あとはマインドコントロール。平常心をいかに保つか。そういったメンタルの部分は教えられて出来るものでもないから、実戦を通した経験を積んでいく。練習でも練習試合でも『ここが沖縄大会・九州大会だったら』とか『ここが甲子園のマウンドだったら』とか。そういう高いレベルのイメージを持ちながら、メンタルは作っていかないといけないですね」

 その「イメージ」が実践できたのが2010年・甲子園連覇のメンバーというわけだ。

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[page_break:春夏連覇ナインが実践した「あい」と「さつ」]

春夏連覇ナインが実践した「あい」と「さつ」

左から宮里 匡輝投手と比屋根 雅也投手(興南高校)

 ただ、そんな彼らにも難しい状況があった。夏の甲子園準決勝報徳学園(兵庫)戦。2回まで0対5の5点ビハインドの展開。ただ、彼らはどんなにピンチを迎えても冷静さを失わなかった。実は報徳学園とは春に練習試合で対戦して、1点差で勝利していたからだ。我喜屋 優監督が当時を振り返る。

「春の練習試合ではウチが、島袋ではなくもう一人の左腕、砂川 大樹(沖縄国際大)に投げさせて、かろうじて1点差くらいで勝っているんですよ。それがあったものだから、夏の準決勝で島袋は打たれないだろうと思っていたら、完璧に真っすぐを捉えられて5点を失った。
でも、そこでひとつの『あい』と『さつ』があった。誰かが気づいて、おそらく我如古だったんじゃないかな……」

 その時、主将の我如古 盛次立教大~現:東京ガス)が『真っすぐが狙われているんじゃないか?変化球から入ったらどうだ?』とバッテリーにコンタクトを取った。そして島袋と山川のバッテリーは『分かった』と我如古に返し、変化球主体のピッチングに変えた。これで報徳学園打線の勢いが止まり、興南は逆転に成功したのである。

主将・我如古とバッテリーにあった『あい』と『さつ』。これは分かりやすくいえば、「鋭い感性」があったからこその「気づき」といっていい。これこそ興南の代名詞ともなっている我喜屋監督が最も厳しく指導する「日常の私生活」が生きた好例である。

 その時、我喜屋監督の口調はいっそう強くなった。
「しっかりとした私生活ができれば、ちゃんとした大人になるための精神力を身に付けていくことが出来る。高校生は子供かというと、そうでもない。大人としての精神力を持つことは可能なんですよ。たとえばリーダーシップを発揮出来る、自制心があること。ですから『1分間スピーチ』だってその一環です。

 相手に伝わるように話さなくちゃならない。そういう積み重ねがあって、野球選手として大人の考えが出来るプレイヤーに、ピッチャーとして大人のピッチングが出来てくるのです。最後はやっぱりそこなんです。そういう選手は結果を残せなくても、ここぞというときに貢献してくれる。かつてのOBの選手たちもそうでした」

「私生活と野球は直結する」そんなことを痛感させられる重い一言。5年ぶりの「KONAN」ユニフォーム甲子園躍動へ。あと1ヶ月を切った沖縄大会までに。我喜屋監督と比屋根 雅也をエースに据える選手たちは、「あい」「さつ」への仕上げ作業に入っていく。

 土台作りから始まり、投球練習における意識づけまで、説得力ある内容であった。よく、投手はブルペンエースではダメ。実戦を意識することが必要といわれるが、どう実戦を意識すればいいのか?それについては曖昧なところがあり、どう意識すれば良いかと悩んでいた球児も多いはず。
今回の我喜屋監督の話は、しっかりと理由づけ、背景が説明されていてとても具体的である。勝てる投手になりたい考えがたっぷり詰まった「我喜屋監督の投手メソッド」。じっくりと試せば、勝てる投手になれると確信が持てる方法論だった。

(取材・文=當山 雅通

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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