Column

県立三本松高等学校(香川)【後編】

2015.05.23

 4月24日・文化庁によって「日本遺産」に認定された『「四国遍路」~回遊型巡礼路と独自の巡礼文化~』。いわゆる弘法大師・空海ゆかりの寺院を88か所巡る「お遍路」だ。
その結願の地として知られる大窪寺から北東に20kmほど進んだ所にあるのが1900年(明治33年)創設の香川県立三本松高等学校。その野球部も1910年(明治44年)創部・夏は1984・1993年、春は2005年と計3度の甲子園出場経験を持つ県内屈指の伝統を誇る。

 そんな三本松では昨年4月から指導陣が一新された。指揮官・投手コーチはいずれも70歳代。傍目に見ると時代に逆行するような動きにあっても、今年は最速144キロの好左腕・三好 大倫投手(3年)を輩出。下級生にも好投手が生まれようとしている。

 では、なぜこのような現象が起こっているのか?後編では三好投手本人の「自己学習」を中心に険しい道の先にある結願への絵コンテに迫っていく。

「自己学習」を源として、会得した「下半身からの動き」

下半身から上半身・腕へと伝わる三本松・三好 大倫投手(3年)投球フォーム

 とはいえ、選手の成長は指導者のみによって施されるものではない。松田 正和コーチが「昔の選手は投球・打撃全て自分で考えてやっていましたけど、三好も野球が大好きで自分で研究する子。最近の高校生では珍しい昔のタイプです」と評する三好 大倫も昨年7月の新チーム立ち上げから「自己学習」思考を貫き、ここまでを過ごしている。

 では、「自己学習」ではどんな手順を経たのか?まず三好が着目したのはメンタル面である。

「エースは背中で引っ張っていくもの。弱気な発言は許されないし、チーム全体をまとめる気持ちを強く持って前向きに取り組む」大切さを松本 拓己森髙 達也のダブルエースを中堅手の位置から観察し、さらにアドバイスを得る中で知ると、次は技術面の改善に着手。

「重く、キレのあるボールを強く投げる」方法を松田コーチと二人三脚で取り組む中で、下半身から上半身、最後に腕へ全ての力を伝えるための投球前ルーティーンを見出した。フォームの角度を確認するための「遠投」だ。
しかもただの遠投ではない。ここは三好本人に順序を説明してもらおう。

「短い距離からだんだん長くして70mへ。そこから10m~15mまで詰めて全力投球。そして最後は中間距離に戻して終わる形です。ピッチングや登板前にもこういった遠投を入れることでピッチングの感覚を覚えることができました」

「三好は身体の力はあったので、腕の使い方とバランス感覚が身に付けば成長すると思っていました。ですから、長い距離で全身を使う感覚を覚えて、その感覚のまま腕をしならせながら振る方法を教えました」(松田コーチ)。

 これらの指導とインコース・アウトコースの投げ分け練習。さらにコーチと三好の投球技術意識が合致した時、左投げの好外野手は「好左腕」への階段を昇り始めた。

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一段ずつ階段昇り、夏こそ「結願」へ

「勝てる投手」への成長過程を語る三本松・三好 大倫投手(3年)

 かくして迎えた英明との昨秋県大会準々決勝。「強い気持ちで英明と闘えた」収穫の一方で昨夏の香川大会で登板した田中 寛大(3年)(2015年インタビュー【前編】【後編】)との経験差が、最後の勝敗を分けることとなった。

「打たれたのは高めの変化球や力のないストレート。球速・重み・キレのなさを感じました」

 反省は冬の練習での「体づくり」に活かされる。遠投練習は継続しつつ、ショートダッシュ・体幹トレーニングや肩のバランストレーニングで昨秋多かった逆球を克服。そして春。最速141キロ・常時130キロ前半だったストレートは最速144キロ・常時130キロ台後半へ。高松桜井丸亀を連続完封し、尽誠学園戦も4失点ながら粘りの133球で昨秋涙を呑んだ準々決勝も突破した。

 が、中1日での3連投目で迎えた準決勝高松南戦。「四球を出した後に置きにいったボールが甘くなった」立ち上がりの不調は3回までの4失点へ。中盤以降多投したフォークが功を奏しての10奪三振には光明が見えたが、結果は0対5。「1からやり直さなければいけない」反省のみが残った。

 そして今、三好 大倫は「0に抑える」理想のピッチングを達成するため、再び前に進んでいる。課題のけん制や投内連係の克服。夏に向けての変化球精度の向上。5月17日(土)に行われた鳴門渦潮鳴門(徳島)との招待試合では鳴門渦潮戦で右中間最深部に豪快な高校通算20本塁打を打ち込んだ一方で、鳴門戦は試合巧者ぶりに屈し5失点。エースで4番の重責にもがきながら、「チームを甲子園に連れていく」険しい道を歩む。

 最近ではそんな三好のもがきを、あえて手助けせず見つめている松田 正和コーチ。「最近は全部自分でやっていますね。でも、野球の頭は優秀ですし、何をしたらいいかは判っていますから。僕も夏前に特効薬の準備はできていますよ」

 そして「三好はマウンドを譲ることを喜ばない。ですから完投させることを考えています」と香川大会の展望を語る岡田 紀明監督は婉曲的に彼への信頼を口にした。

「三好に頼るしかないですね」

 辛く、険しい修験道の先にある結願の地・大窪寺のように三本松にとって、そして三好 大倫にとって昨秋今春・現在の苦しみと学習の先にある結願の地は……。

 10年ぶりの甲子園出場。そして過去3度の出場でまだ試合後に歌われていない「黎明に高く聳えたつ」校歌斉唱である。

(取材/文・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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