Column

日本文理高等学校(新潟)【前編】

2015.03.28

■頭ごなしの指導から選手自身に考えさせる指導へ

「甲子園の勝ち上がり方ねぇ・・・。こっちが教えてほしいくらいだよ、ワハハハハ…(笑)」
そう言うと、大井 道夫監督はコーヒーカップを片付けながら豪快に笑った。まさに好々爺(こうこうや)。その姿からは、2009年夏の準優勝(試合レポート)、2014年ベスト4と、甲子園で安定した強さを誇り、全国屈指の強豪として注目を集めている日本文理高校の指揮を執る名匠だとは誰も思わないだろう。

 だが、ひとたび野球の話になると、その眼光は鋭さを増す。その強さの理由、そして甲子園での勝ち上がり方とは?さまざまなエピソードが飛び出し、予定時間を大きく上回りながらお付き合いいただいたインタビューからその秘密に迫ってみた。

10数人しかいない日本文理が強豪に変わったきっかけ

大井 道夫監督(日本文理高等学校)

 今でこそ、全国にその名がとどろく日本文理高校野球部だが、大井監督が監督に就任した1986年当時、その名は全国どころか新潟県内にも知られていなかった。

「監督に就任した頃なんて、部員が10数人しかいない。バッティング練習しても打球が内野の頭を越えない。キャッチボールも満足にできるのが何人もいない。だから、いろいろと細かく、ああでもない、こうでもないって注意してた。でもね、(監督に就任してから)10年くらい経ってからかなぁ。だんだん気付いていったの。こういう指導法だとだめなんだ、何でもかんでも監督が言ってちゃだめなんだってね」

 出来ないから、それを理論で整然と説明する。当たり前のことだが、こと高校野球に関しては、必ずしもそれが正しいとは限らない。日本文理が甲子園に初出場したのは97年夏。監督に就任してから10年が経過し、徐々に指導方法を変えた結果だった。

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頭ごなしではなく、考えさせる


日々「考えながら」練習に励むナイン(日本文理高等学校)

「今の若い監督さんなんか見てると、一から十まで何でも注意する人がいるじゃない?でもね、そんなたくさんのことを言っていると、子どもたちがこんがらがってしまうんだ。

例えば練習で、間違ったプレーを注意するとき、『今のプレーこうだろう!』って怒っちゃだめなんだよ。『今のプレー、何で俺に止められたか分かるか?』って子どもたちに聞くんだ。そして答えは子どもたちから出させる。そうするとだいたい間違った答えが返ってくる。

 そこで『それは違うだろう。お前はこう言ったけど、こうじゃないのか?』って言ってやると、子どもたちは分かる。頭ごなしに監督が言ってしまうと、選手が考えなくなって、それで終わっちゃうんだよ。まず選手に聞くの。そうすると選手は『俺違うんだな』って分かるんだ。『はい、分かりました』なんて口だけで、『理解しました』という意味の『はい』じゃないんだから(笑)」

 自分で考え、判断し、行動することを練習から意識付ける日本文理の野球。「選手の自主性を重んじる」ことは、1つ間違えると放任主義ともとられかねないが、日本文理の場合、監督と選手が強い信頼関係で結ばれているため高いレベルの練習を可能にしている。そこには、やらされている練習というものは存在せず、常に試合で勝つことを意識した監督の教えがあった。

「野球っていうのはグラウンドで子どもたちがやるもの。だから『いちいち監督に頼るような野球をやるな』と練習から言ってあるんだ。子どもたち自身でやるっていうことは、逆に言うと自分たちに責任があるわけ。だから日ごろの練習で『うまくなりたいんだったら自分でやるしかないんだよ』ということを言うんだよ。

 だって、試合の時に監督がいちいち、全てのプレーに対して、近くでアドバイスできる?できないんだよ。監督はベンチにしかいられないから、グラウンドに立っている子どもたちに任せるしかない。本番(試合)がそうなんだから、練習からそういう練習するしかないじゃない。自分が困ったときは自分でなんとかしなさいってね。だから普段から『自分たちでやるんだ』という練習をさせなきゃ。監督に頼ってばっかりの練習をしてたら、それが試合に出てしまう。そういう意識付けはしているつもり。

 もちろん、アドバイスはするよ。子どもたちは原因が分かっても、それを直すための手段(方法)は分からない。だからそこは教える。子どもたちにいつも言ってるんだ。『お前たちが下手になるような練習は俺はさせてないよ。お前たちがうまくなるように【こういうやり方もいいよ】って言うんだから、俺を信頼してやりなさい』ってね。そうじゃないと、子どもは『何でこんな練習させるんだ』って疑問に思うじゃない。俺は、本人が納得して練習しないとうまくならないと思うからね」

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大井イズムを実践した2014年ナイン

横浜DeNAベイスターズに指名された右腕・飯塚 悟史(長崎がんばらんば国体・1回戦 大阪桐蔭戦より)

 この“大井イズム”をしっかりと受け止め、実践したのが昨年のドラフト会議で横浜DeNAベイスターズに指名された右腕・飯塚悟史

 下級生のころから体格に恵まれ将来を嘱望されながら、制球難に苦しんだ飯塚は、2年夏の新チーム結成から腕の振りを少し下げた。球速を殺し、制球を重視した結果、秋の神宮大会準優勝まで上り詰めた。だがこのフォーム改造は、大井監督が飯塚へ進言したものではない。どういう投手になりたいのか話し合いを重ねていく中で、飯塚本人が自ら考え、監督、コーチに技術的なアドバイスをもらいながら、着手したという飯塚投手インタビュー 前編後編

 その後、冬から春の間に、腕の振りを元に戻し、テイクバックをコンパクトにまとめるフォームにした時も、飯塚の「その方が自然と腕が振れていい球がいく」ということを重視した結果だった。大井監督が、選手自身と対話して、選手自身が答えを見いだしていったいい例だろう。

 この“考える野球”が結実したのが、甲子園で準優勝した2009年。下馬評が高いとは決して言えなかったこのチームは、試合を重ねるごとに強くなり、決勝へ進出。9回裏二死からの驚異の粘りで生み出したドラマは、今も語り継がれている。

 日本文理には部員10数人だったことに驚きを隠せない方も少なくないだろう。そこからいかにして強くなったか過程を理解できたと思います。後編では『逆転の文理』と呼ばれるようになったきっかけを語ってもらいます。お楽しみに!

(取材/文・編集部)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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