Column

東海大学付属第四高等学校(北海道)

2015.03.19

 21年ぶりのセンバツ出場する東海大四。これで2季連続出場となった。かつての強豪校が復活した背景、そして冬の期間、どんなテーマをもって練習を取り組んできたのか。そして対外試合が解禁して、現在のチームの仕上がりぶりをお伝えする。

大脇監督の変化

大脇監督の胴上げ(東海大四)

 強豪復活のノロシを見事に上げた。21年ぶりの出場だった昨夏甲子園に続き、今度は14年ぶりのセンバツ出場。10年以上遠ざかっていた甲子園に2季連続で出場する。

「去年は負ける気がしなかった。ゾーンに入った感じでした」
04年から指揮を執る大脇 英徳監督(39)は独特の表現を使って振り返る。流れが来ていると最初に感じたのは、昨年2月のソチ五輪スキージャンプで同校OBの葛西 紀明(42)が銀メダルを獲得した時。奇しくも学校は創立50周年という節目の年でもあった。

 さらに、東海大時代の恩師である原 貢元監督(享年79)が5月に亡くなったことも転機になった。「学生時代を振り返る時間ができ、原監督に教わった野球の基本、人間教育を考え直すきっかけになりました」と大脇監督。周囲によってもたらされた様々な変化が、運気の変わり目になったのかもしれない。「選手が思った通りに動いたり、相手がミスしたり。周りに勝たせてもらいました。秋もそうでした」と話す。

 勝たせてもらったと本人は謙遜するが、大脇監督自身の変化は見逃せない。高校時代は同校の4番・捕手、主将で93年夏の甲子園に出場し、東海大を経て社会人野球のNTT東日本でプレーした野球エリート。熱血漢だけに選手に厳しく指導してきた。体罰で6カ月の謹慎処分を受けたこともある。なかなか結果が出ずに退任を考えたこともあったが「中途半端で辞めて逃げるわけにはいかない」と踏みとどまった。

 悩みに悩んだ末、自然にたどり着いたのが、選手を信じるということ。言いたいことをすべて言うのではなく、グッと飲み込んで我慢した。細かい指導は2人のコーチに任せて、一歩引いた立ち位置でチームを見渡すようになった。

 時を同じくして、采配面でも変化があった。公式戦では、打つべきカウントを大脇監督自身が見極めて「次のボール!1、2の3で打て!」とはっきり指示を出している。「ここだという場面で、打つ球を決めてあげた方が、選手を楽にできるのかなと考えました」と2年ほど前から実行している。「打て」の場面では、ボール球を振っても、どんな打ち方をしても構わないというルールだ。

 捕手出身の指揮官だけに配球や相手の心理を読むのはお手の物。「相手のキャッチャーとの勝負。キャッチャーがベンチを見るようになったら、こっちのもの。流れが良くて、グッと入って行く時があります」。読みがズバズバ当たったのは、昨秋の北海道大会準決勝駒大苫小牧戦。14安打で14得点を奪い、乱打戦を制した。勢いをつけて臨んだ決勝では北海に3対2で競り勝った。

「力的にはこのチームは歴代でも下位。それでも甲子園に行けるんですから、高校野球は本当に不思議です」と大脇監督は笑う。勝って高校野球の奥深さを痛感するのは、指導者として新たなフェーズに入ろうとしているという証拠だろう。

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力のないチームが勝った理由

室内練習(東海大四)

 現チームは、中学硬式で華々しい実績を残した選手は少なく、ほとんどが軟式出身者だ。

環境的にも恵まれているわけではない。グラウンドは東海大北海道と共用で、放課後最後まで使用できるのは月曜日のみ。火曜日は使えないし、ほかの曜日は大学と時間を分割して使っている。グラウンドが使えない時の練習場所は33メートル×13メートルの室内練習場。中央に柱が4本立っているので、練習方法は限定される。

 さらに昨夏甲子園に出場したため、北海道一遅い新チームスタートだった。不利な条件だらけの中で「秋は試合に勝つことは考えていなかった」と大脇監督は打ち明ける。

 チーム作りは例年通りのやり方で始まった。チーム一真面目な宮崎 隼人主将(2年)を怒られ役に指名して、ほかの選手に考えさせ、チームの一体感を生み出すのだ。元々スター選手のいない雑草集団がまとまるのは、早かった。宮崎主将は言う。「個々の能力は前のチームが上。自分たちには何かないのかと考え、秋の大会で言ってきたのが“チーム力”でした。誰でも塁に出て、誰でも点に絡む。それが出来てチームの自信になりました」
1試合勝ち上がる度にチームの勢いは倍増していった。

 神宮大会も含めた昨秋の公式戦チーム打率は.330。レギュラー9人中7人が3割を越えている。10試合で16失策と守りの粗さは目立ったが、お互いにカバーすることができた。
「力がないことをわかっているので、無理をしない。自分がやらなきゃいけないことを一生懸命やる。チームが勝つことが最優先で犠牲を厭わない。言いたいことや打ちたい気持ちを我慢できる選手たち」と大脇監督は現チームを評する。

 その象徴が2番で二塁を守る金村 航成内野手(2年)だ。「中学時代を考えれば、甲子園でレギュラーになれるような子ではない。よくここまでやっているし、苦しいところで結果を残してくれる」と指揮官は全幅の信頼を寄せる。

 選手たちが強調する“チーム力”は、ベンチワークにもよく表れている。1人1人が観察眼と状況判断に優れているので、優勢を見逃さずに相手に畳み掛けることができるし、劣勢でも慌てることなく落ち着いて対処ができる。

 例えば、昨秋の北海道大会3回戦の北見工戦。序盤に2点を失った後、7回まで無得点に抑えられていた。浮足立ってもおかしくない展開の中、1対2で迎えた9回二死から逆転サヨナラ勝ちした。小川 孝平捕手(2年)は「先制されてマウンドに行った時、相手ベンチを見ると、余裕が見えたので隙が出てくると思いました」と冷静だった。実はこの2日前、強豪校の札幌第一が同じような展開で北見工に敗退。同じ轍を踏むまいと、選手たちは札幌第一の選手から情報収集してこの試合に臨んでいた。

 北海道大会を制して乗り込んだ昨秋の神宮大会では、大きな敗北感を味わった。初戦宇部鴻城に9対1で7回コールド勝ち後、準々決勝浦和学院戦では0対10の6回コールド負け。「化けの皮が剥がれたという感じ。野球の実力、立ち位置を確認させられた。中途半端な負け方じゃなくて良かった」と大脇監督は振り返る。長い冬を前に、選手たちの眼の色は変わった。

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ひと冬を越えてチームは成長

室内練習(東海大四)

 センバツ当確ランプが灯って迎えたこの冬、大脇監督は敢えて例年と同じ練習メニューを選手に課した。70人の部員が室内練習場でハーフバッティング、ティー打撃、素振り、腹筋、ランニング、ラダーと6つのメニューを15分交代でこなしていく。

 毎日全く同じリズムで同じメニューを行うのは、自分自身と向き合ってもらうためだ。
「昨日出来たことがなぜ今日はうまくいかないのか。昨日出来なかったのがなぜ今日は出来るのか。心の変化に気づいて欲しいのです」と大脇監督はメンタル強化という狙いを明かした。

 こうした“気づき”は、指揮官が選手に最も身につけてもらいたい能力のひとつだ。「私生活は野球につながる。周りのことに気づける選手は、相手投手の状況を把握できる。気づかない選手は俺が打ってやると振り回してしまう」
取材に訪れた日、来客が靴を脱ぐ度に、選手たちが綺麗に並べ直していた。当たり前と言えば当たり前の行動だが、この気づきが試合での観察眼や状況判断につながっていることを選手たちは自覚しているのだ。

 地道な基本練習を繰り返したチームは、3月2日から1週間の奄美大島合宿で成果を確認した。8日に行った対外試合は鹿児島大島に3対0、奄美に8対3と白星発進。エースの大澤 志意也(2年)は鹿児島大島打線を7安打完封した。冬場も毎日40〜120球を投げていたとはいえ、ブルペンでは内角球や打者が嫌がるスライダーの軌道をイメージしにくかった。その不安を実戦初戦で一蹴。「フォームも固まり、9回通して安定した投球ができて良かった」と大澤は手応えを口にする。スライダー、カーブ、チェンジアップのほか、新球のスプリットも使えるメドが立った。小川捕手も「ほとんどの球で三振が狙えるようになった」と鹿児島大島戦で7三振を奪ったエースの成長を認める。

 打線もパワーアップした。クリーンアップはこの冬、1日1000スイングを自らノルマに課してきた。4番を打つ邵 広基外野手(2年)は「打球の質が変わった。詰まっても鋭い打球で間を抜くことができるようになった」と室内練習では認識しにくかったスイングスピードのアップを実感。昨秋チーム一の9打点を挙げた3番の山本 浩平外野手(2年)は「1試合ヒット2本は打ちたい」と鼻息が荒い。5番の斎藤 龍生内野手(2年)も「打球が速くなった。チャンスで得点につなげたい」と意気込む。

 10日に行われたメンバー発表では、公式戦出場経験のない立花 奏内野手(2年)が背番号3を奪った。熾烈な競争により、個々の力もチーム全体の力も向上している。

 14日からの福岡合宿で最終仕上げを行う。一連の遠征は、万全の状態で甲子園に乗り込むために組まれた日程だ。例年、3月の奄美合宿を終えて大阪遠征に行くと打線の調子が良いという。「冬の間に溜まっていたものが爆発する感じ。最初は非常に調子が良いのですが、慣れてくるとマンネリ化して、逆に調子が落ちてくるので、選抜でピークに達する調整を行っています」と大脇監督が過去の経験を踏まえて逆算した。

 甲子園での目標について、選手たちが「日本一」と口を揃える中、大脇監督は敢えて「2勝」とした。昨夏、就任11年目で初めて甲子園で指揮を執り、夢ではなく本気で日本一になりたいと思った。そのためにクリアしなければならないのは、昨夏の甲子園昨秋の神宮大会で味わった2回戦の壁。1つ勝ってチームに生まれる自信と過信をいかにうまくコントールして、その先の勝利に結び付けられるか。その課題克服が先決だ。

甲子園はごまかしがきかない。そこで勝ち続けないとわからないことがあると思うんです」
監督として2度目の甲子園に臨む大脇監督と“チーム力”で切符をつかんだ選手たちの新たな挑戦が始まる。

(取材/文・石川 加奈子)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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