Column

県立静岡高等学校(静岡)

2015.03.15

 1試合平均の得点12.11、平均安打16.78、平均盗塁3.89、チーム打率0.419、チーム本塁打12は出場校32校の中で、ダントツの1位。まさに今大会トップクラスの攻撃力を誇る静岡。率いる栗林 俊輔監督に、攻撃力の秘訣についてと選抜へ向けてのチーム作りを観点にお話を伺った。

「取られたら取り返せ」で始まった強力打線

 昨秋の猛打について栗林監督は、
「調子が良かったかなと思います。歴代の子と比べても、能力はある子たちと感じていましたが、これほど打つとは、スタート時は全く予想していませんでした」
と指揮官も想像以上の打撃だったという。だが彼らの打撃能力を発揮させるには、何かしら意識づけがあったはずだ。

「去年は投手を中心にした守りのチームでした。しかし甲子園ではエラーで逆転されて、そのまま返せずに敗れましたので、今年は多少の失策でも取り返せる打撃も必要と思ってスタートしました。そこで意識したのは、『しっかりと振り切る』ことですね。やっぱり最後までしっかりと振り切らないと、高いレベルで勝負ができないんですよね。投手としてはフルスイングしてくると、怖いですし、タイミングも合ってきません」

捕球する堀内 謙伍選手(県立静岡高校)

 今年の静岡打線を引っ張るのが、正捕手の堀内 謙伍、遊撃手の安本 竜二など昨夏の甲子園に出場していた6人だ。
「彼らが積極的に仕掛けてくれたので、同時にほかのナインを引っ張ってくれた形になりましたね」

 静岡地区予選から強打を発揮。県大会準々決勝までの5試合すべてコールドで勝ち上がり、準決勝では日大三島の好投手・小澤 怜史(インタビュー【前編】【後編】)と対戦。小澤を打ち崩し、12安打10得点の猛攻で、10対0の6回コールド勝ちで東海大会出場を決めると、決勝戦の浜松修学舎戦でも、13対8で打撃戦を制し、県大会優勝。

 静岡市立戦以外、すべて二ケタ得点を挙げる猛打は、東海大会でも衰えず、準々決勝の土岐商戦では、内山 竣、堀内、安本の三者連続ホームランが飛び出し、11対3の7回コールドで下すと、準決勝では再び日大三島と対戦。ここでも、安本が小澤からバックスクリーン弾を放ち、再びコールドで決勝進出を果たした。
小澤のような140キロ台の速球を投げる投手に対しては、どんな対策をとってきたのだろうか。

「やっぱり速球に振り遅れないことが一番。それができることで、変化球の見極めができますから。打撃フォーム、タイミングの取り方も違うので、どうやって合わせるかは本人の感覚次第なので、準備の仕方は選手たちに行わせていました。秋は小澤君を打ったことで、大きく自信になったかなと思います」

 決勝でも県立岐阜商を破り、東海大会を制する。

明治神宮大会
でも、猛打発揮が期待されたが、東海大菅生試合レポートでは、エース勝俣 翔貴インタビューから9安打を放つものの、4得点に終わり、4対7で敗れる。課題は低めの変化球への対応力だった。栗林監督は勝俣の縦スライダーのキレ、制球力を絶賛していた。

東海大会まで彼と同じくらいスピードを持った投手はいましたが、彼ほど低めに落ちるスライダーをコントロールできる高校生はいなかった。だからうちの子たちはバットが止まらなかったです。課題が改めて出た試合でした」

 と振り返った。秋季大会を振り返って課題として挙げたのが、投手力と守備だった。

「たまたま点数が取れていて投手力が弱いのが隠されているので、接戦になったときどれだけ踏ん張れるかといったら、未知数なところがあります。守備も、投手も、心理的な余裕があったからこそ、そこそこできたと思いますが、レベルが上がる選抜ではそう簡単に打てないですし、同じようにいくとは思っていません」

 選抜では秋季大会のような打撃はできないと考えている。

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[page_break:秋と春の打撃指導法のアプローチの違い / 競争で投手力と守備力を高める]

秋と春の打撃指導法のアプローチの違い

ノックする栗林 俊輔監督(県立静岡高校)

 秋季大会で圧倒的な実力を示した打撃も山ほど課題があるようだ。

「例えば秋の相手バッテリーは、うちもそうですけど、発展途上で、まだ甘い球が多い。うちの子たちも甘い球を打っていますし、それを高い確率で打つのは良いことなのですが、しかし一冬超えると、バッテリーは成長します。攻めも厳しくなるし、ボールの質も格段に上がる。その投手を打っているわけではないので、一冬超えて甘い球を投げることが減った投手をどう打ち崩すか。
 これは秋にできたわけではないので、課題は多くあります」

 秋では甘い球を見逃さず、猛打を築いたが、バッテリーのレベルが上がる春ではそうはいかない。投手を攻略するアプローチ法も変わってくるのだ。だが土台固めとして振りこみ、ウエイトトレーニングは欠かさず行ってきた。
冬の練習の成果はしっかりと発揮しているようで、栗林監督も、技術面、スイングスピードなど成長を実感しているようだ。

「技術的なもの、力量的なものについてはだいぶ手ごたえを感じますので、あとは実戦で力を発揮するだけですね」
3月8日から始まった解禁試合では、2戦連続で二けた安打、二けた得点を記録しており、猛打を振るっている。

競争で投手力と守備力を高める

 そしてもう1つの課題である投手陣についての話題となった。秋ではエース村木 文哉が中心となって投げてきたが、村木以外の投手陣の台頭を期待している。

「村木も良いですよ。ただ2、3年生の投手が出てきて、逆転するとチームは強くなっていると考えています。3年生には3人の左腕がいますが、彼らが壁を破ってくれればと考えています」

 3人の左腕投手は、村松 遼太朗高橋 陸松田 翔真の3人だ。この日、投球練習していたのが、村松。調子自体はかなり良いようだ。2年生では、遊撃手でノックを受けていた古川 竣、体の使い方がうまく、威力あるボールを投げる山本 優輝の5人でベンチ入りを争っている。

村松 遼太朗投手(県立静岡高校)

 投手陣以外に課題として挙げた守備。栗林監督は守備を就任当時からずっと大事にしている。

「トーナメントで頂点に立つためには1回も負けないことですが、では負けないためには、最高にできることより、最低限、これができるというものを作ることが大事。それが守備であり、守備が良いチームというのは、負けにくいチームになっていくと思います。どんなに打てない時があっても、小技で仕掛けて、1対0、2対1で勝たないといけない試合の時に守備力が問われますし、投手が打たれて、6、7点取られるときもあります。そういう時に余計な失点がなければ負ける可能性は低くなります」

 まだレギュラーを見ると守備の課題が多いとみている。

「うちの選手は、上のステージで野球をやりたい選手が多い。でも上のレベルと比べると、課題は山ほどありますし、基礎的なものから取り組まないといけないと考えています」

 さらに上にいくために、全体的な底上げを期待している。

「これは選手たちにずっと言っていることですが、秋のメンバーと春のメンバーが変わっているぐらいじゃないとダメだと言い続けています。ポジションも動いたり、本当はそれを期待しているのですが、あまり変動はなさそうですね。僕は、チームが変化して動いていると成長し、それが止まると失速すると考えています。少しずつポジション、打順、メンバーが変わると、チームが活性化しているということなので、僕はそれを期待しています」

 選抜ではどれくらいメンバーに変動があるのか、注目だ。

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[page_break:一発狙いではなく、堅実に一歩ずつ階段を上るチーム作り]

一発狙いではなく、堅実に一歩ずつ階段を上るチーム作り

 栗林監督がチーム作りに欠かせない考え方としているのが、選手の自主性だ。

栗林監督の話を聞く選手たち(県立静岡高校)

「うちの学校が自主性を大事にする校風なので、指導において選手の長所を生かすことが大事だと思っています。私は基本・基礎を理解させるように動きますが、少しずつ自分から歩いてほしいということは常々言っています。

 高校野球は秋、冬、春、夏と動いていく中で、まず秋は指導者の色彩が強いですよね。まだわかっていないことが多いので、私も結構言います。 夏で教わったことを踏まえつつ、自分たちで判断できて動ける選手になるために、それができるようにするための準備段階が冬と春なんですよね」

 自主的に動く。それは甲子園に出場をしていた2011年夏2014年夏の選手たちはできていたのだろうか。

2011年夏に、僕は初めて甲子園に行かせてもらいましたが、まだそれほどではなくかったですね。ただ2014年のチームは、能力は歴代と比べるとそれほど高くないチームでしたが、自主性が高いチームでしたね。今年の子はそういう先輩たちの下でやっていたので、意識が高い選手が多いですね」
と手応えを感じている。選抜の目標はまず1勝だ。

「全国優勝は最終目標なので、まず僕が監督になって全国では1勝もしていないので、まず1勝。ただそれで満足してはいけないです。うちの野球部の戦後最高はベスト8なので、次はベスト4をめざし、それをクリアして、最終目標の優勝になります」

 まるで短期目標と長期目標の設定の仕方だ。それまでの経過を一歩ずつ踏んでいくのが伺える。

「僕は、一発ドカーンという性格ではないので、コツコツ型です。これまでそういうスタイルやってきたので、うまく言えば『堅実』な野球ですね」

 静岡は、段階を踏んで、チーム力を強化している。秋では猛打を発揮したが、春では同じようなことはいかないと想定して、守備、投手力を見直し、またバッテリーのレベルが上がる春に合わせて打撃強化のアプローチも変えている。

 今年のチームは栗林監督の性格が表れたチーム作りが行われており、足元をしっかりと固めているのだ。そして昨夏の甲子園を経験したレギュラーが6人も残っているのも大きなアドバンテージだ。他校からすれば怖い存在だろう。静岡に限らず、どんなチームも初戦が一番厳しいと語る。
この初戦の壁を乗り越えたとき、静岡ナインの高い潜在能力を引き出すきっかけとなれば、一気に頂点まで駆け上がる可能性は十分に持っている。

(文・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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