Column

県立岐阜商業高等学校(岐阜)

2015.03.11

 1925年に野球部が創部し、選抜優勝3回、夏の甲子園優勝1回と輝かしい実績を残している県立岐阜商。OBでは2000安打を達成し、中日ドラゴンズの監督として長く活躍した高木 守道氏、中日の主砲・和田 一浩選手2014年インタビュー、横浜DeNAの若きクローザー・三上 朋也など数多くのプロ野球選手を輩出。いかにして県立岐阜商は、全国でも有数の強豪校に育ったのか。その背景を探りながら、選抜へ向けての意気込みを伺っていく。

甲子園でも勝てる習慣作り

キャッチボールする選手たち(県立岐阜商)


2009年夏
 甲子園ベスト4

2012年夏
 甲子園出場

2013年春
 甲子園ベスト8

 近年でも躍進が目立つ県立岐阜商。勝ち進んだ大会を振り返ると、強豪私学を破ることが多い。2009年の選手権大会では、2回戦で山梨学院大付、3回戦ではPL学園を下し、準々決勝では帝京に勝利。さらに、2013年の選抜でも、2回戦では花咲徳栄3回戦では3連覇を狙う大阪桐蔭を破るなど、甲子園常連校相手にも全く動じないチームだった。

 それでも、県立岐阜商に専用の球場というのはとくに無く、校内にあるグラウンドで選手たちはボールを追いかけていた。11月に新設された雨天練習場があるが、設備的なものは、他の公立校と大きな違いはない。

「うちは暖かいところへ行ってキャンプをやるようなチームではないですし、特別な練習をするチームでもありません。なので、この環境の中でできる限りのことをするしかありません」と語る小川 信和監督。小川監督は昨年8月に監督に就任するまで、部長を務めていた。甲子園で活躍できる選手はどんな選手が多かったのかと聞くと、
「やっぱりあの舞台で、普段の実力以上に力を出せる選手が多かったですね。100の力が、130、150となったりと、ベスト8にいった(2013年のチームは)大舞台で力を出せるチームでした」

 ではいかにして、全国舞台で活躍できる選手を育て上げているのだろうか。

「やっぱり一日の基準作りですね。今の自分は何が出来るのか。練習、生活から考えさせます」

ベンチのホワイトボードに掲げられている言葉
(県立岐阜商)

 これは潜入ニュースでも紹介したが、日ごろから事前の準備をする姿勢だ。県立岐阜商のベンチに掲げられている言葉を見ると、

万全の態勢で球場に入り(準備の全力)
全力で考え(頭の全力)
全力でメンタルを整え(心の全力)
全力でプレー(体の全力)すること

 普段から全力で行った状況判断の積み重ねの中から最終的な判断が瞬時にして下されるのである。

 プロ野球選手に話を聞くと、準備の大事さを語ることが多いが、県立岐阜商も準備することを大事にしている。そのため小川監督は日頃の生活、行動について選手へ問いかけている。

「彼らが日本一になりたいといえば、それに見合った練習や、生活をしなければならない。今はこうだけど、それに見合った生活はできているか?と常に問いかけていますね」
指示するのではなく、問いかけ。それには選手たちに自立してもらいたい思いがある。

 そこでエースの高橋 純平投手に事前に準備をすることの大切さについて聞いてみた。高橋の練習を見ると、キャッチボールからフォームを意識して行ったり、ブルペンの投球でも一球ずつフォームの感覚を確かめたりと、いろいろテーマ性をもって練習をしていた。

「何事も目的を持ってやることが大事だと考えています。一日の基準、そしてその日のゴールを毎日設定しないと、無駄になるので、それは常に考えています」と自覚をもって取り組んでいる。

 チームとして避けているのは、
「言われないと動けないところまで落ちるなよということは伝えています」と小川監督が語るように、言われなくても最善の準備が出来る選手を求めている。

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2015年度 春季高校野球大会 特設ページ
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[page_break:基本的に守備で勝負]

基本的に守備で勝負

守備練習を行う選手たち(県立岐阜商)

 今年の県立岐阜商は守備主体のチーム。今大会屈指の右腕として注目されるエース高橋は、11試合を投げて、防御率0.47。抜群の安定感を誇る高橋の存在は大きい。
「確かにゼロに抑えることが出来れば理想的ですが、他の31校すべてにそれができるかといえば、難しいと考えています」

 小川監督は、打撃力のあるチームよりも、健大高崎のような機動力のあるチームを警戒していた。
「最近は健大高崎さんをはじめとして、機動力で仕掛けて、相手の守備力を奪うチームが多くなっています。そういう相手でも封じられる守備力を求めています」

 この日は具体的な守備練習はとくに行われなかったが、キャッチボールから、連係プレーや、取って早く投げたり、実戦を意識したキャッチボールを行っていた。甲子園では、失点を自責点のみにしたいと考えている。

「自責点は結構取り返せることが多いのですが、自責点じゃない失点は試合に響きやすいんです。あとは四球絡みの自責点も負けに繋がりやすいので、この2つは避けたいと思っています」

 県立岐阜商は、この秋の平均失策が1試合平均1.18。数字を見れば、守りが出来るチームと読み取れるが、プレッシャーのかかる甲子園で、秋季大会と同じように守り通すことができれば、甲子園で戦えると考えている。
 

 もう一つ課題に挙げたのは、『打撃』だ。今年は例年以上に打ち込みをしている県立岐阜商。打線のキーマンに挙げたのが、3番でチームトップの12打点を挙げた広瀬 将。そして打率.375、1本塁打、9打点とチーム内では三部門で高い成績を挙げた山田 陽太、4番を打つ竹腰 裕行の3人だ。
「この3人がどれだけ奮起できるかですね。気合を入れすぎて空回りしてしまうか、そのまま実力を出せるか」

 本戦へ向けて、いかにして打線の調子を上げて臨めるかがキーポイントになりそうだ。

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[page_break:まだ今のチームは自分の色を出せていない]

まだ今のチームは自分の色を出せていない

 今年のチームは2013年のチーム(選抜大会ベスト8)と比較すると、「まだ足りないところがあります」と評するように、今後、選手たちに求めているのは「自分たちの色を出す」ことだ。
「あの時の選手は、足のある選手が多かったですが、一人一人、色があったと思います」

打撃練習を行う選手(県立岐阜商業高等学校)

 どんな選手でも、その選手なりの長所がある。その長所をしっかりと伸ばすと、それが色となる。様々な色が重なれば、多種多様なチームとなって、全国でも戦えるチームになると小川監督は考えている。まだ今年はそれが弱いと感じているようだ。

選抜に向けて、一人でも、自分の色を出せる選手が出てほしいですね。選抜で完成しなくても、最終的には、夏でいろんな色を持った選手が集まったチームになればと考えています」

 小川監督は同じ色になることを求めていない。それは、なぜか。

「全員、同じ色だと、弱点が同じになってしまう。たとえば、あの選手は、こんな投手に弱いけど、この投手には強いなど、その選手の個性を発揮することができれば、適材適所で、その場に強い選手を出すことができるんです」

 チームとして一つにまとまることは必要だが、個人の技術まで同じ色にする必要はない。これまでも県立岐阜商は個性を大事にしながら、実績を積み上げてきた。

 今大会は全国優勝と高い目標を立てるのではなく、あくまで自分たちの野球をすることにこだわっている。そのため小川監督は負けても自分の力を出せれば良いと考えている。

「せっかくあの素晴らしい環境で2時間~2時間半、野球をやらせてもらえるのですから、目一杯楽しんで、取り組んでほしい。それで自分の力をすべて発揮して、まだ力が足りないと思える負けだったら、合格点を与えられるかなと思っています」

 避けたいのは、『何もできずに負けた』ということ。打てない、守れない、投手も本来の投球が出来ないなど、ミスしか残らない野球だ。だが、1万人を超える大観衆の中で平常心でプレーするのは、高校生にとって非常に大変なことだ。
小川監督が語った日頃の生活から、いかに準備する意識で行動ができるかにつながっていく。

 エースの高橋は選抜への意気込みとしてこう語ってくれた。
「多くの打者が自分のスピードを気にしてくると思いますが、そこは意識せず、選抜はまず自分の投球を最大限することですね。でもやっぱり夏では勝ちにこだわっていきたいと考えています」

 選抜は夏までの通過点。結果として、夏につなげられることを考えている。
常に自然体で臨むことができる県立岐阜商は、やはりこの春も怖い存在になりそうだ。

(文・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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