東海大学菅生高等学校（東京）【後編】
前編では、若林監督に春季大会後の指導の変化と、秋季大会を振り返っていただきました。後編では、選抜に向けて取り組んでいることや、この春のキーマンとなりそうな選手について紹介していきたい。
選抜出場が決まっても、身体作りを重点に置いた調整
エースの勝俣 翔貴（東海大菅生）
秋季大会が終わり、冬を迎えた東海大菅生ナイン。若林監督は体力強化を課題に挙げ、徹底的に走り込みとウエイトトレーニングを行っている。また選抜大会に出場するチームは、選抜に照準を合わせて実戦練習を増やすものだが、例年に比べて、振り込み、打ち込みを減らして、土台固めの冬を送ってきた。
「体作りについては順調に進んでいます。正直、選抜までの調整は手探りなところがありますね」と話す若林監督。手探りの中での調整だが、初めての甲子園ということで、一冬超えて、どのように選手が変わっていくか楽しみにしていた。また結果がどうであれ、それが今の東海大菅生にとっては大きな一歩となっていると考えている。それは、再び甲子園を目指すための大きな財産となっていくからだ。
そして、選手の意識も変わってきた。
エースの勝俣 翔貴は、夏の決勝戦での死球の影響で、左手薬指を骨折。この期間は、全く投げられなかったが、真夏の走り込みとウエイトトレーニングを継続して行ってきた。その結果、投球はコンスタントに140キロ台を計測するだけではなく、打撃も飛距離も打球の速度も大きくレベルアップ。さらに、大会終盤になっても、好調を維持するなど、改めてトレーニングをする重要性を感じたようだ。
勝俣はウエイトトレーニング中に、付き添いのトレーナーにフォームを見てもらい、悪いところは指摘してもらうように工夫している。
それまで嫌々やっていたものが、前向きに取り組んで結果が出たことで、より意識的に取り組むようになった。これは勝俣だけでなく、多くの選手がそう取り組んでいるという。秋の優勝は選手のモチベーションを高めるきっかけになったことが伺えるだろう。
若林監督が期待する東海大菅生の投手陣
左から羽生 優太、山口 淳久、伊藤 壮汰、辻 佳昂（東海大菅生）
秋に出た課題として若林監督は、
・勝俣以外の投手陣の台頭
・勝俣の前後を打つ打者の成長
の2つを挙げた。
取材日は紅白戦が行われていたが、公式戦登板経験のある羽生 優太、山口 淳久、サードの伊藤 壮汰、ベンチ外の辻 佳昂の4人が登板していた。若林監督はこの4人に対する期待が高い。
「秋が終わって、勝俣だけでは苦しいと感じていました。投手は全くいないわけではなく、能力的なモノは、みんな良いです。あとは、その力を公式戦で表現するだけなんです。みんな期待していますし、競争してベンチ入りを勝ち取ってほしい」
秋では、勝俣に次ぐ2番手投手として登板していた羽生。最速135キロほどだが、成蹊戦（試合レポート）では、ストレート、変化球を上手に使い分ける投球だった。羽生の課題は、ランナーを出してからの投球だ。
「練習試合では強豪校相手にも抑えることもありますし、抑えられるボールは持っているわけです。課題は、バント処理などの細かいところですね。そこさえ改善出来れば、期待出来ます」と期待を込める。山口は右スリークォーター気味から勢いあるボールを投げ込んでいた。
山口に対しては、「2アウト、2ストライクからの投球ですね。なかなか難しいですが、ここは自分が乗り越えていかないといけません」と追い込んでからの投球を課題に挙げていた。そして辻は、対外試合では強豪校相手にもしっかりと試合を作れる投手。故障に苦しんでいたが、今は完治し黙々と練習に取り組む180センチの右の本格派だ。
「投手としての風格がありますね。本当だったら勝俣は打撃に専念させて、辻が投げるという構想もありました。
真っ直ぐでも、打者を見て緩急をつけることができますし、自分の投球を最大限に表現できていますし、投手としてのセンスは素晴らしいですね。彼は春前に肩を痛めて、秋までずっと投げられなかったので、ブランクが長いのが心配ですね。ただ、身体つきが良くなっていますし、きっちり練習していることは身体が証明している。あとは試合で結果を残すだけですね」
紅白戦の登板後、辻は若林監督の話に真剣に耳を傾け、その後はブルペンで精力的に投げ込んでいた。少しでも、勝俣の負担を減らせるように、選抜まで互いが競争しあって冬の練習に臨んでいる。
ベスト8へ向けて勝俣の前後を打つ打者が機能出来るか
左から小川 貴広、小磯 和貴（東海大菅生）
一方、打線は勝俣の前後を打つ選手たちが機能することを求めている。勝俣が勝負されない可能性は非常に高い。その中でキーマンに挙げていたのは、2番を打つ小川 貴広、4番を打つ小磯 和貴だ。
「小川は足もある選手ですし、ただ送りバントをするだけの2番で終わってほしくない。もっと出塁をしてほしいですし、塁上でいろいろかき回してほしいですね。小磯は勝俣より長打力、飛距離ありますよ。課題は確実性です。4番を打てる素材であるのは確かです。きっちり打てるか打てないかで変わってくると思います」
小磯に続くのは5番本橋、6番伊藤。本橋も長打力がある打者、伊藤はミートが上手い打者と若林監督は評価している。
若林監督の構想としては、上位下位切れ目のない打線だ。1番江藤 壮治、2番小川 貴広が出塁をして、2人が足でかき回し、ランナーを置いた状態で勝俣を迎える。勝俣が勝負されなくても、長打力のある小磯、本橋、そして伊藤で還せる打線。7番には神宮大会の静岡戦（試合レポート）で本塁打を放った長打力のある馬場 大輔、俊足の澤田 翔人と下位にも嫌らしい選手を控えている。
少しでも打線がつながるために。若林監督は紅白戦後のミーティングについて、選手の打撃内容をこと細かく振り返り、指摘を行っていた。ただ打つだけではない。打線として機能するには、どんな仕事をすればよいのかを考えさせている。
目標は、選抜ベスト8だ。ベスト8と設定するのは東海大相模時代の恩師・原 貢氏の言葉がきっかけだ。
「原監督がよく言っていたんですよ。ベスト8、ベスト8と。なんで優勝といわないのかなと思っていたのですが、監督になって気づいたんですよ。選抜は優勝するまで5試合。そう見ると長く感じるんですよね。まず2勝。ベスト8に入れば、仕切り直しすることができる」
原 貢氏が語っていたベスト8の意味合いを改めて実感していた。
9年前の選抜では初戦敗退だった。若林監督の体制になってから初の甲子園。同じ西東京のライバル・日大三に負けない全国レベルの強豪校になるべく、今回の選抜大会は意味のある大会になる。
（文・河嶋宗一）
