Column

市立和歌山高等学校(和歌山)【前編】

2015.02.01

10年ぶり夏の甲子園出場の軌跡

 昨年の第96回和歌山大会を勝ち抜いたのは、市立和歌山だった。市立和歌山の武器といえば、堅実な守備。特に二遊間の守備力は高かった。信頼される二遊間へ。市立和歌山の取り組みに迫る。

チームの中心にいた2人の小柄な努力家

 昨夏、堅実な内野守備を武器に10年ぶりに夏の甲子園に出場した市立和歌山。その中心には2人の小柄な努力家の存在があった。

半田 真一監督(市立和歌山)

 まず華麗なグラブ捌きで甲子園でも注目を集めたセカンドの山根 翔希。大会の好プレー集でも紹介されるほどの選手だったが、元々はバリバリのレギュラーというわけではなかった。

「山根は守備で生きてきた人間ですからね。球際にも強くて守備は信頼してたんですけど、身長も低くてバッティングに迫力が無い。春先の段階では山根か打撃で勝る他の選手か迷ってたんですが、春が終わった段階では絶対山根だと。バッティングにもこだわって、三遊間に転がすとかチームにとって必要なことをしてくれてたんでね」と半田 真一監督は語る。

 山根は自慢の守備力に磨きをかけるのと同時に、チーム打撃が出来る選手になるために努力をした。そして半田監督の期待に応える活躍を見せて、ポジションをつかみ取ったのだ。

 そして、旧チームには守備の中心にもう1人、小柄な努力家がいた。主戦投手として活躍した赤尾 千尋だ。入学時は身長165センチ、体重50キロほどで投手経験とセンスはあったものの目立つ存在ではなく、内野を守っていた。しかしオープン戦を多く組んだ2013年夏、猛暑が続き投手のやりくりが苦しくなった時、半田監督の目に三塁を守っていた赤尾の姿が映った。

「最後の2回を投げさせたらけっこう生き生きと投げていまして、それからちょくちょく抑えとして投げるようになりました」

 そして迎えた秋季大会、高校になって初めての公式戦で3回を投げる。しかし、秋季県大会準決勝の智辯和歌山戦で、リードしていた7回から登板するが8回に同点とされ9回に逆転を許す。
「悔しかったんでしょうね。『投手1本で行くか』と聞いたら『はい』と言っていたし、夏前には自主的に身体作りを行い、体重が73キロまで増えていました」
甲子園でも活躍した努力家の小柄なエースの投手歴が1年にも満たないことはあまり知られていない。

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絶対王者・智辯和歌山を5度目の挑戦で破る

守備練習の様子(市立和歌山)

 半田の守備の素質、赤尾の投手としての適性、メンタルの強さを見抜いた半田監督は、市立和歌山OBの34歳で、松坂世代と呼ばれる年代だ。母校でコーチを務めた後、2012年の新チームから指揮を執っている。

 そんな若い新監督の前に立ちふさがったのは、05〜12年に8年連続夏の甲子園出場を果たすなどした絶対王者・智辯和歌山。半田監督が就任してから4度対戦したが、全て跳ね返され続けてきた。「やる度にどこかで自滅する」という試合内容で、スコアも0対14、0対11、0対4、3対6と一方的な数字が並ぶ。しかし昨夏、守備力を武器に臨んだ5度目の挑戦でついに高い山を乗り越えた。

 初回に先制されるが、二遊間が何度も難しい打球を捌いて併殺を奪い、走者を出しても無失策の堅い守りで食らいつく。7回に同点に追いつき、延長11回に勝ち越し点を奪われるが直後に再び同点とする粘りを見せ、12回にこの日無安打だった選手がサヨナラ安打を放ち歓喜の瞬間を迎えた。

 春のオープン戦が終わる頃には守備力に手応えを感じていた旧チームは、夏の決勝戦でしかも相手は秋に敗れた智辯和歌山という大一番で会心の守備をみせ、見事リベンジに成功。智辯和歌山の決勝初進出時から続いていた決勝戦の連勝記録を20で止めるオマケもついた。

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守備に自信があったからこそのサヨナラ劇

 そして延長戦となった甲子園での鹿屋中央との試合(試合レポート)では、1対1の同点で迎えた12回裏に一死一、三塁のピンチを背負う。山根が捕球直前にバウンドの変わった難しいゴロをうまく捌いたが「頭が真っ白になった。パニックになり知らぬ間にファーストに投げてしまった」と一塁に送球してしまう。この間にゴロゴーでスタートを切っていた三走が生還し、試合終了。市立和歌山商業から校名変更後初となった甲子園で校歌を歌うことは出来なかった。

守備練習の様子(市立和歌山)

 この場面で市立和歌山がとった守備隊形は中間守備。二遊間は打球によって本塁送球か併殺狙いか各自の判断に任されていた。半田監督に守備での戦術面のこだわりを聞いても「オーソドックスですよ。何も特別なことはやってませんよ」と答えただけだったが、攻撃側としても選択肢の多い一、三塁の場面の守備練習には、当然多くの時間を割いており、この両にらみのシフトも何度も練習していた。

「守備が良かっただけにその時迷いは無かったんですけど、終わってからは前進1本にするべきだったかなと思ったこともありますね」

 雨の関係で甲子園練習は球場では出来ず、実際に土を踏んだのは試合当日が初めて。室内練習場でのアップの時にはさすがに緊張感があったそうだが、プレーボールがかかると選手は普段通りの動きを見せた。

 一打サヨナラのピンチに中間守備を指示したのは、元々守備に自信を持っていたことに加え、初の大舞台でも臆することなくプレーをする選手に頼もしさを覚えたから。最後の最後に甲子園の魔物が顔を出したが、それでもこの夏、小柄な努力家の二塁手と投手は甲子園で大きく輝いたのだ。(後編に続く)

 10年ぶりの甲子園出場は、半田監督がエース赤尾投手、セカンド山根選手の適性を見抜いたことから始まりました。そしてチームでこだわっていた守備が、昨年大きな実を結びました。後編では、市立和歌山の半田監督が二遊間に求めている能力、また練習法についても、お伝えいたします。そこにはどの学校にも実践できる考えが秘められています。

(文・小中 翔太

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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